75番目に救出されたペルシャ猫 今は優雅に“お姫様暮し”

 不妊去勢をしていない猫の子どもが増え、飼育不能となる多頭飼育崩壊が後を絶たない。悲惨な環境で命を落とすことも多いが、救出されて、新たな家族に引き取られる猫もいる。ある崩壊現場で“75番目”に救われた長毛猫は、東京都心の広々とした部屋で優雅な“ひとりっこ生活”を満喫していた。

(末尾に写真特集があります)

なこちゃんを抱く早坂さん「少し似てきたかも」
なこちゃんを抱く早坂さん「少し似てきたかも」

 東京都渋谷区にある3階建てのお洒落なマンションが、ペルシャ猫「なこ」(推定5歳)の住まいだ。

「彼女は、お昼寝中ですよ」

 飼い主でメークアップアーティストの早坂香須子さんに案内されて、明るく広いリビングに入る。部屋には3段ケージにキャットタワー、ペット用テントなど猫グッズが置かれているが、姿が見えない。隅にあった段ボール箱に目を落とすと、白い背中が見えた。

「今はそこがブーム」と早坂さんが言うと、「なこ」が顔をあげた。“お客さんね”というように、穏やかな顔をこちらに向けた。

 早坂さんが「なこ」と暮らし始めて約1年半になる。

 もともと都心の一軒家で女性に飼われていたうちの1匹だ。不妊去勢を施さなかったため猫が増え続け、周囲が異臭に気づいた時にはおびただしい数になっており、多頭飼育が崩壊したという。

「ゴミ屋敷のような家で、命を落とした近親猫も随分いたようです。『なこ』も救出時は栄養失調で、毛も薄く地肌が透けて見えるような状態……。どんなに大変だったか」

実家に託したTAO君 (早坂さん提供)
実家に託したTAO君 (早坂さん提供)

ペットロスから、新たな出会い

 一方、「なこ」と出会う前の早坂さんも、ちょっとしたトラウマを抱えていた。仕事仲間が保護したトンキニーズの雑種を譲り受け、8か月ほど飼っていたが、期せずして実家に譲ることになったのだ。

「海外での仕事があって、地方の両親に猫を預けたんです。すると帰国後、『お願い連れていかないで、この猫の面倒を見させて』と母に頼まれて……」

 70代の母は、子猫に愛情を注ぐうちに、生き甲斐になったようだ。子猫も田舎の広い家を楽しそうに走り回っていた。その姿を見て「自分の親も、この子も幸せならば」と、そのまま託すことにした

 ところが、その後、早坂さんはペットロスに陥ってしまった。

「猫のために広い家に引っ越しもしていたし、寂しくなってしまって……。猫とまた暮らしたいと思いました。せっかく迎えるなら保護猫を迎えたいと話すと、友人の坂本美雨ちゃんがミグノンを紹介してくれたんです。ブログを見ると“ペルシャの75番(なこ)”と書かれた面白い子がいてロックオン、その頁から目が離せなくなりました」

 その猫が夢にまで現われるようになった。譲渡会に行ってみると、実家に譲った雄猫に似た子もいたが、平たい顔の「なこ」以外は目に入らなかった。

「不衛生な中でケアもされず、ひどく傷ついていたはずなのに、“人を信頼している”とボランティアさんに伺いました。そんな『なこ』を気にする人は今までもいたようですが、体が少し弱いと知ると引いてしまい、縁に恵まれなかったみたい」

 逆境にありながら、どこか超然としている「なこ」のことを、ボランティアやスタッフはいつしか「猫神様」と呼ぶようになった。早坂さんが譲渡を申し込むと、みな喜び、正式譲渡の際にはお土産を差し入れるスタッフもいたという。

譲渡会で会った時 (ちょっと不機嫌?)
譲渡会で会った時 (ちょっと不機嫌?)

自然食で体調改善

 晴れて「なこ」との同居が始まったが、しばらくは体調が安定しなかったという。

「お腹が緩くて、うんちをお尻につけて歩くので、拭き掃除をしてから仕事にいく感じでした。去年の夏には猫風邪をひいて入院もしました。でも、抗生物質を投与された後、下痢が一転、便秘になってしまって……」

 入院した部屋には犬の鳴き声が響き、ストレスも多そうだった。このまま入院していても腸の動きがよくなるとも思えず、「自分で責任を取るので帰宅させて」と獣医師に頼んで連れ帰ることにした。

 早坂さんは看護師だった経験もある。日頃から“美と健康は内側から”と提唱しているが、「なこ」の入院を機に、猫にもオーガニックで自然な食事が健康によいだろうという思いを強くしたという。

 普段のフードのほか、おやつに無添加のチキンペースト、米ぬか発酵の乳酸菌サプリなどを与えて、身体のマッサージをするうちに、体調が安定していった。

「今は、便も整って、毛艶もよくなりました。来た時は体力がなくて、3段ケージの上に上れないかもしれないと言われ、踏み台にお風呂椅子をケージに入れたくらいです(笑)。今はそれも必要なくなり、キャットタワーにも飛び乗ります」

箱から顔をひょこっり出す「なこ」ちゃん (うれしそう)
箱から顔をひょこっり出す「なこ」ちゃん (うれしそう)

引き取られて性格が変化

 実は、早坂さんは保護猫をもう1匹迎えようかと考えたことがあったという。

「多頭飼育崩壊がまた起きたと聞き、うちに1匹迎えようかと考えたんです。でもそれをミグノンに伝えたら『なこちゃんは2匹目に嫉妬すると思いますよ』と言われました。私の家に来てキャラが変化したのかな。お正月に用があって1週間『なこ』を代表に預けた時も、順番を待ちきれず、“私のゴハンはまだなのー?”と主張したらしくて」

 以前は大勢の中で毅然としていたが、今はちょっと甘える“一人っ子気質”になったようだ。

「猫っぽくなったのかも」。そう笑って、ふわふわの毛を撫でた。

早坂さんのインスタグラム
https://www.instagram.com/kazukovalentine/ 

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は16歳の黒猫イヌオと、2歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この特集について
ペットと人のものがたり
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