保護犬と住まうシェアハウス 「単身者でも犬が飼えるように」
沖縄から保護犬を受け入れて、東京都内で譲渡活動をしているNPO法人「わんずぺ~す」が、犬と一緒に住めるシェアハウスを作った。「単身者でも犬が飼えるように」という願いを込めた試み。あまり例のない保護犬つきシェアハウスを訪ねた。
「わんずぺ~す」は東京都西部の東大和市にある。駅からほど近い便利な場所だ。
現在の場所に移ったのは2013年。2世帯住宅だった建物の2階部分を借りて、犬シェルターとして使っていた。理事長・鈴木美枝さんもここに住んでいる。
今回、その1階も借りて、シェアハウスを開設した。
1階の玄関を入ると、廊下をはさんで左右に洋間の個室が二つ(9.5畳、8畳)あり、さらに隅にクレートを置いたリビングがあり、キッチン、洗面所や納戸などが続く。100平方メートル弱のふつうの家だ。各部屋には家具も備え付けられている。サンルームもあって、とても明るい雰囲気だ。
ここに2人の住民に住んでもらうという。
家賃は8畳が月3万9000円。9.5畳は4万1000円。ほかに水道光熱費込みの管理・共益費が1万5000円、保護活動支援金が3500円かかる。
愛犬とともに女性が入居し、今月中にもうひとり女性が単身で入居することが決まっているという。
保護犬との暮らしを事業に
鈴木さんが犬の保護活動を始めたのは8年前。
鈴木さんは30代で保護犬を飼い始めた後、一人暮らしを始めた。犬との暮らしが「何ものにも代えがたい」と強く感じる一方、先のことが心配になった。当時、多くの保護団体は、単身者、高齢者、留守が長い人には譲渡しておらず、生涯、犬と暮らしたくても、かなわなくなる不安を感じたのだ。
「高齢化、未婚化が進む日本で、大切な家族(動物)とどうすれば、ずっと一緒に暮らせるかを考えました。実際、世の中では多くの方が、高齢だから、フルタイムで働いているから、犬や猫と暮らすことをあきらめている。その一方で、犬や猫が捨てられたり殺処分されたりしていて、飼いたい人とうまくマッチングができていない」
そこで、「ペットを飼いたい単身者や高齢者」と「保護主のいない犬」をつなげる活動をしたいと考えた。提携する保護団体を探す中、沖縄の団体が申し出てくれた。
2010年、勤め先をやめ、会社を設立。吉祥寺に保護犬カフェを開いた。
「当時、保護犬カフェは全国初でした。開放型シェルターとして、実情を勉強しながら犬たちと親しみ、そこから譲渡につながればいいと思って社会的企業を目指したのです」
一方、沖縄の犬の状況は、鈴木さんの想像を超えていた。避妊・去勢をされていない犬が多く、子犬を含め、犬の遺棄が後を絶たなかった。そのため、沖縄で保護された犬の譲渡先を関東圏で探すことに、大きな意味を見いだした。
「カフェを始めた当初、沖縄は殺処分の数が全国上位でしたが、複数の団体さんが尽力して、処分数は減ってきました。でも今も抱えきれないほど犬猫を保護しています。都内では子犬が愛護センターで保護されることは滅多にないですが、沖縄では今でも子犬の収容が多いんですよ」
だが、経営は思わしくなく、保護犬カフェの業態をやめて、任意団体(現在NPO)として保護活動に専念することにした。
その活動を支える事業として考えたのが、保護犬と住める「シェアハウス」だった。
シェルターの犬を住民が世話
2階のシェルターも約100平方メートルある。そこにケージを置き、生後3カ月から15歳までの犬10匹を飼育している。琉球犬の血を引く若い犬もいれば、シニアの盲犬もいる。
「できる範囲で犬たちのトレーニングをして、ほぼ毎日散歩に行きます。でもシェルターは決して広くはないので、1階のシェアハウスで犬が過ごせれば、リフレッシュになります」
シェルターの犬のうち、扱いやすい犬を「一時預かり」の形でシェアハウスの住民に1~2匹預け、世話してもらうのだという。
「保護犬は基本的にリビングで過ごし、住民には時間がある時に一緒に遊んだり、できる範囲でケアや散歩のお手伝いをお願いします。留守中は私たちスタッフが階下に降りて、必要なケアをします。個室には鍵をかけてもらい、緊急時以外、スタッフは入りませんが、犬の様子についてはまめに話し合うことになります」
「わんずぺ~す」が1人暮らしの人が犬を飼うことをサポートしつつ、世話する人と場所を確保することで、保護犬たちの行き場を増やすことを目指しているわけだ。
自分の愛犬を伴っての入居も可能で、1匹当たり3000円かかる。
すぐ上の階にシェルターがあるからこそできる試みだが、2部屋では赤字だという。これをひとつのモデルケースにして、次に進みたいと鈴木さんはいう。
「いつかシェルター併設の、単身者向けの集合住宅を作りたいんです。そこに保護犬・猫と一緒に暮らしていただき、私たちがサポートする形で関わりたいですね。動物の保護活動に理解のある人の輪が広がるといいなと思っています」
カフェ時代からの8年間で、譲渡した保護犬の数は368匹に及ぶ。病気があったり、人馴れしていない保護犬でも、手をかければ、譲渡につながる可能性が生まれる。その方針が高い譲渡率にもつながっている。
「シェアハウスで、一般家庭と同じように愛情を注いだ犬が、いずれ新たな家で幸せに暮らしてくれるといいですね。それが何よりうれしいことです」
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