猫が最後まで快適に暮らせるように、QOLを考えよう

 愛猫と生活をともにしてきた飼い主さんにとって、「いつまでもそばにいてほしい」と思うのは自然な感情です。しかし、年老いた猫はだんだん病気がちになり、いずれは寿命を迎えることになります。飼い主さんの最後の使命は、長く生活をともにした愛猫をきちんと見送ってあげることです。ここでは、老後の猫の生活や、QOL、いつか必ず来る「その時」のことなど、飼い主さんが考えなければならないことについてご説明します。

猫のQOLとは

 QOLというのは、「クオリティ・オブ・ライフ」の略で、「生活の質」を意味する言葉です。高齢化が進んだ昨今、人間の生活においても、老後や病中、病後のQOLへの関心が高まっています。病気になったり、高齢になったりしたからといって、快適な生活をあきらめず、「これまでどおり趣味を続ける」「不自由なく食事をとる」「家族と暮らす」といった心地良い生活を送りたいというのは、多くの方の共通の願いでしょう。

 このようなQOLの考え方は、人間だけでなく、猫にとっても考えておくべきことです。猫にとってのQOLは、「痛みやストレスを感じない暮らし」や「十分なおいしい食事」「安心して眠れる環境」「安全な住処」「飼い主さんと一緒に過ごす」などが挙げられます。

年をとると、不調が表れるもの
年をとると、不調が表れるもの

重大な病気が見つかったときの選択肢

 猫も、年齢を重ねるにしたがって、体に不調が表れるようになります。腎臓病やがんなど、命に関わる重大な病気が見つかることもあるでしょう。このようなとき、人間の場合は、患者と家族が相談して、どのような治療を行うかを決めることになります。ところが、猫の場合はそうはいきません。治療方針を決められるのは、飼い主さんだけなのです。

 ちなみに、重大な病気が見つかったときの選択肢としては、投薬や手術、放射線治療など、少しでも長く生きられるように「治療」を行う方法や、病気を治すことよりも痛みを取り除くことに主眼を置いた「緩和ケア」を行う方法などがあります。

どのようにして決めればいいのか

 それぞれの家庭によって、猫のケアにかけられる時間や労力、お金などは異なるでしょう。できるだけのことをしてあげたいという気持ちがあっても、選べる選択肢はそれほど多くないということもあるかもしれません。家族全員と獣医師の間で十分に相談を重ね、納得できる治療方針を選びましょう。

 また、治療を進める中で、猫が苦痛を覚えることもあります。できるだけ猫自身の負担が少なく、ストレスを感じずに済む治療方法を選んであげるようにしてください。

治療方針の判断は飼い主の責任
治療方針の判断は飼い主の責任

安楽死という選択

 前項の選択肢の中には、時に「安楽死」というものが出てくることがあります。安楽死というのは、とても重い決断です。アメリカなどに比べ、日本には安楽死を選ぶ飼い主さんは多くありません。しかし、「安楽死を選ぶのは良くないことだ」というわけではありません。

 猫がこれまでどおりの生活を送れなくなってしまい、痛みや苦痛が強く、今後も回復する見込みがないという場合は、穏やかに最期を迎えさせてあげるという選択もあるのです。

 安楽死を選んだ場合、猫がそれによって苦しむことはありません。穏やかに、眠るように逝くので、逆に、つらさや痛みを取り除くことができます。また、家族が見守る中で見送ることもできるでしょう。

 ただし、安楽死は、実行してしまったら、やり直しをすることはできません。家族の中に、一人でも迷いを持っている人がいるときや、心が揺れている人がいるときは、決断すべきではないでしょう。安易に選択してしまうと、後悔を抱えたまま、猫のいない生活を迎えることにもなりかねません。十分に話し合い、納得した上で行うようにしてください。

 猫の病状や今後の見通し、ケアを行う家族の時間やお金の問題、気持ちの問題などについて考えるとともに、獣医師に相談をしたり、体験談などを読んでみたりするのもいいでしょう。

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東京猫医療センター(東京都江東区)院長。JSFM(ねこ医学会)CFC理事。 北里大獣医学部卒。2005年から猫専門病院長を務める。2012年に東京猫医療センターを開院。2013年、国際猫医学会からアジアで2件目となる「キャット・フレンドリー・クリニック」のゴールドレベルに認定される。

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この連載について
高齢猫との暮らし方
室内飼いが増え、猫も長寿に。高齢猫と長く幸せに暮らす方法や、万一の時の対応について、猫専門の服部幸獣医師が解説します。
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