猫たちからの「ありがとう」がいっぱい 『猫だって…。』
『猫だって…。』佐竹茉莉子著/辰巳出版
「ねぇねぇ、アタシの話、聞いて!」「おいらはね…」「ボクはね…」。保護され、今は幸せに暮らしている猫たちが、これまでの猫生を振り返りながら、自分の言葉で語るこちらの1冊。「今、とても幸せに暮らしているから、アタシのこれまでのことを知って欲しいの」。ストーリーを読み進めてみると、想像以上に過酷な過去を乗り越えた彼らがそこにいました。
猫たちの言葉で
エピソード1に登場するおしゃべり好きな白猫の「モコちゃん」。マサキお兄ちゃんと運命の出会いを果たし、保護された当時はガリガリに痩せていただけではなく、あばら骨が折れ、肺に穴が開いた状態でした。
「さまよってた日々、木から落ちたこともあったし、通行人に足蹴にされることもあったから、いつからそうだったのかわからない。カエルにしか寄生しない虫もいて、危なかったみたい。お兄ちゃんに声をかけてもらわなかったら、アタシ、道ばたで死んでた。」
大変な状況だったにも関わらず、お兄ちゃんに初めて声を掛けてもらった時、必死に肩までよじ登ったことや、ご飯をもらってガツガツ食べたこと。普段なら、保護する立場で見えてくる光景も、この本の中では、声を掛けてくれた人を見上げる光景が見えてきます。
「助けて」「待ってる」「ありがとう」…絶望感や、喜びや希望も、モコちゃんと共に感じることができ、保護してくれたマサキお兄ちゃんには感謝の気持ちが湧きあがります。
お兄ちゃんの願い
この本に出てくる22の物語には、モコちゃんのように衰弱しているところを保護された子もいれば、人の願いを叶えるために新しい家族になった猫も出てきます。
エピソード16に登場するハチワレ猫の「しずかちゃん」は、「猫を飼いたい」という病気のお兄ちゃんの願いで家族の一員なりました。
若くして病気を抱えたお兄ちゃんは、仔猫のしずかちゃんを小さな妹ができたようにかわいがり、ある約束を彼女に託して旅立ちます。
「あの日から15年。わたしは19歳のおばあちゃん猫になったけど、ふっくら体型でまだまだ元気。お父さんもお母さんも元気に穏やかに暮らしているよ。写真立ての中のお兄ちゃんも、いつまでも若くて笑顔のままだね。お兄ちゃん、わたし、知ってるよ。お兄ちゃんが「猫を飼いたい」って言ったのは、わがままじゃなかったってことを……」
しずかちゃんが語った、お兄ちゃんと交わした約束。しずかちゃんは猫の姿で、お兄ちゃんの願いを叶え、約束を守り、家族を守り続けています。
22の愛の物語
人も猫も、“邪魔な命”や“諦めるべき命”はひとつもなく、そのことを、登場する猫たちが、自分のこれまでの体験を通して語ってくれています。
保健所行きを危機一髪でまぬがれた「ちくわくん」、後期高齢で保護された「ウギャーさん」、路上に倒れていたところを保護され大変身を遂げた「リオくん」、大好きな人と暮らすためのルールを自分で作った「ミケちゃん」、数奇な一生を語ってくれた大猫「マツコさん」……など。
保護される側から見た景色
「この本を「猫に語らせる」という切り口にしたのは、よりいっそう、猫たちの気持ちに寄り添って欲しかったから。読み聞かせしてもらって、小さなお子さんも猫の気持ちになってもらえたら、という密かな願いも込めました。」
著者である佐竹茉莉子さんがあとがきでも書いているように、この本では保護される側から見た景色を体感することができます。
そしてこの本に出てくる猫たちは「安心して暮らせる、幸せな日常」を手に入れているので、悲しく過酷な体験がストーリーの中に出てきたとしても、その先ある幸せに向け読み進めることができます。
猫の気持ちを知りたい方、猫と暮らしてみたいと思っている方は、ぜひ手に取ってみてください。
そして、幸せを掴んだ猫たちから、次の猫へ幸せのバトンが繋がりますように。
辰巳出版/佐竹茉莉子著/1,296円(税込)
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