“暴君”ネロが、突然おとなに 猫の性格は猫が変える?

ネロ(左)と弟分のロデム
ネロ(左)と弟分のロデム

 成長にともなって、猫の性格も変わるのか? ベテラン飼い主が保護した野良猫の子は、手の焼ける強烈な暴れん坊だった。だが、その暴君っぷりが、ある日を境に、おさまった。それは意外な理由だった……。

 

(末尾に写真特集があります)

 

「大きいでしょう。手足が長くて、のしのしとライオンみたいな歩き方。性格も激しいんですよ。いろいろな猫を飼ってきましたが、初めてのタイプです」

 

 東京都目黒区の森下恵子さん(54歳)のお宅にお邪魔すると、ツヤツヤの毛並をした黒猫が床に座っていた。確かに大きく、眼光も鋭い。名前は「ネロ」。3歳になるオス猫だ。

 

「どうぞ」と促されて座った椅子には、爪や牙の痕。クッションにも穴が開いていた。すべてネロの仕業だという。

 

「とにかく落ち着きがなく、動き回る。ネロに壊されたものは数知れません。マグカップとか、丼とか。棚の上に飛び乗って、ダーッとスラィディングしながら落としていくんです。網戸を開けて何度も脱走したので、網戸を固定したら、力づくで外して下に落としてしまいました」

 

ボロボロのクッション。これはまだまし!
ボロボロのクッション。これはまだまし!

 2階のため、幸い大きな事故には至らなかった。だが、それから網戸の前に物を置いてネロが勝手に出られないようにした。

 

 ネロと森下さんが出会ったのは3年前。野良猫の子(推定1カ月半)で、職場であるエジプト大使館文化部の横にある駐車場に現われた。物怖じせず、人にも慣れていたので、「こういう子は車にひかれやすい」と思い、保護したという。

 

 当時、森下さんの家には、2歳になる「ルナ」(メス、現在5歳)がいた。ルナは、猫カフェ型シェルター「東京キャットガ―ディアン」で出会った猫だ。

 

「部屋に東京キャットガーディアンの猫付きマンションというシステムが導入されていて、保護猫をもらいにいきました。ふーっと膝に乗ってきてくれたのが、ルナで」

 

 ルナは人見知りが強く、1歳近くまで、もらい手がなかった。引き取ってからのルナは、森下さんを“親”のように慕い、べったりと依存した。そのため新しくネロを飼うことにした時、ルナとの関係が気になった。

 

「ネロは襲うことまではしなかったけど、無遠慮で、空気が読めないので、ぐいぐいとルナに近寄る。そうすると、ルナが、“なによ、この男! シャーッ”というように怒っていました。迫力はないんですけどね(笑)」

 

「まったくあの暴れ男は」とでも言いたげなルナ
「まったくあの暴れ男は」とでも言いたげなルナ

 シェルターで育ったこともあり、ルナには社会性があったのか、2カ月もすると、ネロを受け入れるようになった。しかし、ネロが落として割れた茶碗を踏んで、肉球を怪我してしまった。森下さんもネロが棚から落とした缶詰を足に受けて爪がはがれた……。手がつけられないネロの乱暴さに、森下さんは“発達障害”を疑ったほどだという。

 

「東京キャットガーディアンに状況を説明すると、『ネロを預かって、新たな里親を探しましょうか』と言われたんです。でも、手に負えないからといって戻される恐れもあるので、私が引き続き育てることにしました。こういう問題児こそ、しっかり見守りたいと思って」

 

 ネロは去勢手術をした後、ぐんぐん成長し、1歳になる前に6キロを超えた。天井まであるキャットタワーを入れて運動をさせたが、それでもエネルギーを持て余していた。そのため、森下さんはハーネスをつけて、朝晩、家の周りを散歩することにした。ネロはとても喜んだが、家では相変わらず、落ちつきなく動き回っていた。

 

 転機が訪れたのは、ネロが1歳を超えた頃。森下さんの職場の敷地内に、小柄な黒猫が現れた。

 

「妊娠していて、間もなく3匹の子猫を生んで連れてきたので、職場に衣装ケースを置いて、子猫の世話をしました。動物病院に協力してもらって里親を探し、なかなか家族が決まらなかった1匹を家で預かりました。おとなしい子猫なので、ネロがいじめるかな、その場合はもらい手を探そう、というつもりでいました」

 

 ところが、この黒い子猫の存在が、ネロを変えたのだという。

 

「子猫は最初からワーッとネロの所に走っていき、“おにいちゃん、おにいちゃん”みたいにくっついて。ネロも“おう、よく来たな!”とでも言うように歓迎したんです。父性というか兄性が芽生えたのか、そこから、ネロがぐっとおとなになっていきました」

 

すっかり大人になったネロと森下さん。今も眼光が鋭い
すっかり大人になったネロと森下さん。今も眼光が鋭い

 子猫には「ロデム」と名付けた。子猫はネロの後を追って歩き回り、ネロもよく面倒を見た。男同士たまに「シャーッ」とやりあうことはあっても、ネロは手加減をする。何より驚かされたのは、ネロの大暴れが激減したことだった。

 

「ロデムの存在が精神安定剤みたいになったのは、予想外でした。ネロが“ウオーッ”と鳴いて走ることが減ったし、うろつくことも減りました」

 

 そんな変化をルナはじっと観察し、安心したような表情をしていたという。

 

「ロデムを生んだ母猫は、その後もごはん目当てに職場に来ましたが、急に甘えてくる日があって、それを機に捕獲して避妊したんです。TNRをするつもりでしたが、すごーく性格がいいし、獣医さんが家庭で飼えるといいと言うので、うちで引き取って『ノッテ』と名付けました」

 

 おとなのメス猫同士、ルナとノッテの相性も気になったが、互いにおっとりしたタイプだったために、いさかいは起きなかったという。

 

 こうして森下さん宅には、3年の間に3匹の猫が増えた。しかもみんな黒猫。集まると迫力がある。

 

黒猫がどんどん増えて逆ハーレム状態「私の言うこともききなさいよ」
黒猫がどんどん増えて逆ハーレム状態「私の言うこともききなさいよ」

「ルナは紅一点ならぬ、白一点。1人で4匹多いかなと思うけど、職場は家から徒歩15分で、すぐ戻れますし。猫たちはいい和ができて落ち着いています。習慣で、ネロの散歩は続けていますけどね」

 

  穴の開いたクッションも、傷だらけの椅子も、「愛する猫の成長の証」だと森下さんは大らかに笑った。

藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。

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ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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