サル、シカ、イノシシ…獣害対策は「社会的インフラ」
サルやシカ、イノシシなどによる獣害対策を、対症療法的なものよりも原因究明や生態に目を向けることから始める。「獣害対策は中山間地域で暮らすための社会的インフラ。地域医療と同じで、目指すのは予防です」。理事長の山本圭介さん(35)は話す。
神戸市出身。2013年に南アルプス市下今諏訪で「甲斐けもの社中」を始めた。今年1月、事務所をフィールドに近い南アルプス市曲輪田に移転した。
山本さんは下関市立大で経済を学び、語学留学先のカナダで野生動物の保全団体のインターンの経験がある。筑波大大学院で自然保護を専攻し、早川町での食文化の調査に参加。大学院を出て、県内で獣害対策に取り組み、その後、社中を立ち上げた。
獣害対策の専門組織として、サルなどに発信機を付け、行動範囲を調査・分析。自治体に対して、集落での追い払いや捕獲方法の講習、地域に応じた解決策の提案などをして、現場の支援につなげる。
現在、常勤職員は山本さん以外に2人。岩下ひかりさん(28)は市内百々の出身。米国ウェスト・バージニア州の大学で野生動物と魚類を専攻した。福島県出身の松井希衣さん(24)は岩手大農学部を出た。農業に取り組みたくて甲州市勝沼に来た。2人はインターンを経て今年、職員に。
山本さんは、獣害対策の担い手になる県内外の若者の働き口が少ないと憂える。「野生動物に関わる仕事で、若者に食べていける雇用の機会があるのは大切」。スピード感ある対策とその後の息の長い管理を、若者が担う場にしたいという。NPOにしたのは自治体との関係づくりや補助金の申請、地域との協業などの面で会社より動きやすいからだ。だが、NPOは「ボランティア」「無償」と考える人が多いのに驚いたという。現在、県内8市町村と隣接する長野県富士見町から仕事を委託される。
岩下さんと松井さんのワナの見回りについて歩いた。集落の外れの重さ40キロの箱ワナは、オリの中にネットに入った柿などのエサがつり下げられている。サル用で、ネットを手で引っ張ると扉が落ちる。動物も慣れるので、新しく考えた仕掛けだ。近くの同じワナが8月末、谷に落ちていた。オリにあいた穴に熊の毛がたくさんついていたという。
ワナは、住民の目撃通報を受けてフンなどを確認して設置する。暑い季節は、かかった動物が熱中症にならぬよう日陰に置く。
「最終的に殺処分になるにしても、苦しめたくない」
(渡辺嘉三)
<甲斐けもの社中>
NPOとして2013年設立。常勤の職員は理事長も含め3人。野生動物の調査や被害対策をテーマに卒論・修論をまとめる学生に、フィールドの紹介や調査データの協力ができるという。サイト(http://kai-kemono.org/)で活動内容などを紹介。LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。