求められる獣医学教育①「むやみな新設、質低下するおそれ」

(写真は本文と関係ありません)
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 国家戦略特区で、52年ぶりに獣医学部を新設する計画が進む。国は、新たに対応すべき分野を担う人材を育成するというが、現場で、本当に求められている獣医師像とは――。

 

いとうしげお 49年生まれ。薬理学が専門。文部科学省の獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議座長を務めた。
いとうしげお 49年生まれ。薬理学が専門。文部科学省の獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議座長を務めた。

■欧米で通じる人材養成を 伊藤茂男さん(北海道大学名誉教授)

 獣医師の仕事はペットや産業動物の診療だけでなく、家畜の感染症対策や食品・食肉衛生、動物愛護など多岐にわたり、私たちの生活に密着しています。従って、獣医学教育の質の低下は、生活の質の低下につながりかねません。


 国内には16の獣医学系大学がありますが、国立大学の学生の定員数は1大学で30~40人で、教員数もほぼ同じです。欧米の大学は学生も教員も日本の約3倍います。日本では限られた教員数で幅広い分野を教えざるを得ません。


 そこで、感染症対策や小動物医療の高度化など社会ニーズに対応した獣医師養成に向け、改革が進んでいます。その一つが「モデル・コアカリキュラム」の策定です。いわば学習指導要領のようなもので、例えば「内科」は「消化器病」「血液免疫病」などに細分化され、教育の充実を図りました。また、二つの大学の教員が双方の学生に教える共同教育も進んでいます。


 こうした改革が進む中、国家戦略特区での獣医学部新設が決まりました。しかし加計学園の提案書を読んでも、既存の大学との違いが見えてきません。2015年の日本再興戦略で示された新設の条件に合うとも思えません。


 既存の大学では対応が困難な場合という条件がありますが、加計学園が提案する感染症などの危機管理対策人材育成は、既存の大学も取り組んでいます。卒業生は公務員として活躍しており、鳥インフルエンザや口蹄疫(こうていえき)の広がりを最小限に抑え、国際的にも評価されています。新たに対応すべき分野として、創薬などのライフサイエンスを教えるとしていますが、講義だけで研究者の育成はできません。


 四国は公務員が足りないから作るとも言っていますが、学生は自分の希望する分野にしか就職しません。卒業後も大学が所在する地域に残るとは限らないのは、既存の大学の例を見れば明らかです。


 日本の獣医学教育の進むべき道は、欧米でも通用するような獣医師を養成することです。その試みの一つとして、複数の大学が欧州獣医学教育協会の評価を受ける準備を進めています。現状のままではいずれ、欧米先進国のみならず、アジアの獣医系大学からも取り残される恐れがあります。国際的な第三者評価を得ることができれば、日本の獣医学教育を国際社会にアピールすることもできます。


 薬剤師教育を充実させようと6年制になった薬学部では新設が相次ぎ、学生定員が5割増えました。しかしこのため、入学定員を満たせない大学もでてきています。むやみに獣医学部新設を認めれば、教育の質が低下する可能性もあります。国はこのような問題を精査してから、新たな獣医師養成のかじ取りをして欲しいものです。


(聞き手・岡崎明子)


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