米国の動物介在プログラム(前編) 犬猫にも受刑者にもメリット

 第4回第5回のコラムでは、アメリカ初の“プリズン・ドッグ”プログラムであるワシントン州の「プリズン・ペット・パートナーシップ」(PPP)について書いた。じつはワシントン州では矯正局をあげて動物介在プログラムを奨励しており、詳細なガイドラインもできている。全部で12ある刑務所(内二つは女子刑務所)には、なんと犬のプログラムが7、猫のプログラムが6もあるのだ。


 犬のプログラムでは、保護犬に基本的なしつけをし、家庭犬として譲渡する、あるいは介助犬やセラピー犬となるための訓練をおこなう。猫の場合は、人に慣れていない保護猫を受刑者が世話して社会化し、引き取り手を見つけるプログラムが中心だ。一つの刑務所で犬猫両方のプログラムをおこなっているところも複数あるが、どちらもない刑務所は一カ所のみ。

 

480名の男性受刑者を収容するラーチ・コレクションズ・センターには、保護猫と保護犬両方のプログラムがある。
480名の男性受刑者を収容するラーチ・コレクションズ・センターには、保護猫と保護犬両方のプログラムがある。

 これだけ動物介在プログラムが広くおこなわれている理由は、なんといっても、“ウィンウィン”であることが一番大きい。命あるものをケアすることによって、受刑者には責任感や忍耐力を養うなどの人間的成長、就労につながるスキルを得るなどのメリットがある。シェルターから引き取られる犬や猫は、受刑者の愛情とケアを受けた後、新たな家族のもとに行くことができる。また、刑務所側にとっても、動物がいるユニットでは受刑者たちの心情が穏やかになり、争いごとが大幅に減るなど、施設の運営が円滑になるメリットがある。受刑者によって訓練された介助犬やセラピー犬が障害のある人々の大きな支えになることは言うまでもない。


 まさにいいことづくめと言える動物介在プログラムだが、このようなポジティブな循環をつくり出すためには、もちろんさまざまな必要条件がある。関係者の熱意とスキルとパートナーシップ、それらに裏打ちされた丁寧なプログラム設計、十分な資金、そして地域の支えである。だから、どこでも誰でもすぐできるというわけではないのだが、それほど極端にハードルが高いわけでもない、と私は思っている。

 

ラーチ・コレクションズ・センターにある猫の運動エリアで。
ラーチ・コレクションズ・センターにある猫の運動エリアで。

 日本の刑務所でも、すでに島根あさひ社会復帰促進センターでは「盲導犬パピー育成プログラム」が実現し、実績を上げている(コラムの第10回参照)。猫好きとしては、つぎはぜひ保護猫をケアするプログラムが誕生してほしいと心から願う。そこで、一昨年から保護猫の社会化プログラムをおこなっているワシントン州の刑務所の取材を始めた。


 後編では、保護猫プログラムの現場から、実践の様子を報告したい。捨てられた猫たちのケアをとおして、受刑者たちはどのように変わっていくのか。また、猫たちを救い、受刑者たちとともに働くボランティアの人々はどんなことを感じているのだろうか……。どうぞご期待を。

大塚敦子
フォトジャーナリスト、写真絵本・ノンフィクション作家。 上智大学文学部英文学学科卒業。紛争地取材を経て、死と向きあう人びとの生き方、人がよりよく生きることを助ける動物たちについて執筆。近著に「〈刑務所〉で盲導犬を育てる」「犬が来る病院 命に向き合う子どもたちが教えてくれたこと」「いつか帰りたい ぼくのふるさと 福島第一原発20キロ圏内から来たねこ」「ギヴ・ミー・ア・チャンス 犬と少年の再出発」など。

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この連載について
人と生きる動物たち
セラピーアニマルや動物介在教育の現場などを取材するフォトジャーナリスト・大塚敦子さんが、人と生きる犬や猫の姿を描きます。
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