動物の生きた証し 「いのち」生み出す女性彫刻家
今にも動き出しそうな犬や猫、サルなど動物の作品だけを作る彫刻家はしもとみおさん(37)の作品展が22日から6月25日まで、愛知県岡崎市の「おかざき世界子ども美術博物館」(朝日新聞社など主催)で開かれる。はしもとさんは阪神大震災で被災した経験をもとに、「生きる」をテーマとした作品を生み続けている。
三重県いなべ市の鈴鹿山脈に近く、雑木林が間近に迫る築約80年の古民家。野菜を食べに来るサルのほか、キジや鹿、イノシシに出くわす自然豊かなこの土地に3年前、自宅兼作業場を構えた。机の上には作品の犬たちがずらりと並び、ノミをふるう音が響く。多くの作品にはモデルになった動物がいる。「ただの置物ではなく、この子たちが生きた証しを彫刻で残したい」
約10年前、オーダーメイドの作品作りを始めたところ、全国から「死んだ飼い犬にもう一度会いたい」「長期入院するから、病院でペットと一緒にいたい」という依頼が殺到した。年100件以上の注文が入ったため受注を止め、今は4年前の依頼など「千件くらいあった依頼のうち、あと80件ほど残っている」。
兵庫県尼崎市出身。小学生の頃に飼っていた犬が約1カ月で感染症で死んだ。「大好きな動物を助けたい」と獣医師を目指していた15歳の時、阪神大震災に遭った。
自宅は半壊し、親戚の家に避難した。覚えているのは、可愛がっていた近所の犬や野良猫も死んだり、逃げたりしていなくなったこと。「医学では死んじゃった子たちをどうしようもできないと感じた」とはしもとさん。「もう一度、あの子たちに触れたいと思った時、生きていた形を残せる仕事がしたくなった」
美術大学などで彫刻を学び、これまで手がけた作品は数千点。等身大のオランウータンなど大きいものから、手のひらサイズまで動物ばかりを彫る。「人間を彫る作家はたくさんいるけど、野良猫とかは、私が見つけないと誰も残してくれない命だから」と笑う。
使うのは「においが独特で虫がつきにくい」というクスノキが中心だ。まずチェーンソーで大まかな形を作り、のこぎりやノミで仕上げる。「一刀一刀ふるときに、(作ろうとする)その子の存在を実感することが大切。その緊張感が、生命だと思う」。小さな作品で1日、大きなものは1年以上かけて仕上げる。
今回の作品展では、実際に手で触れられる作品も並ぶ。「たくさんの子どもたちに、命に触っていると感じてもらえたらうれしい」。問い合わせは同博物館(0564・53・3511)。
(北上田剛)
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