水害を知らせた「忠犬伝説」 商店街にはたくさんの犬の置物

置物の犬が見つめる「パピィ・1通り」=石川県津幡町津幡
置物の犬が見つめる「パピィ・1通り」=石川県津幡町津幡

 民家の玄関先、看板の脇、駅舎や小学校にも。石川県津幡町を歩くと、置物の犬の姿がやけに目につく。とりわけ多いのが「パピィ・1通り」。かつて津幡中央銀座商店街と呼ばれた長さ約260メートルの商店街では、多くの店先やショーウィンドーに犬がビー玉の目を光らせて鎮座している。

 信楽焼のタヌキでもカエルでもなく、なぜ犬なのか。津幡町役場のホームページは、犬が水害の兆しを知らせて地域を救った昭和の忠犬伝説を由来と伝えている。もっとも、津幡中央銀座商店街協同組合の理事長を務めた岩井嘉樹さん(75)によれば置物の犬は本来、伝説とは無関係のマスコットだった。忠犬伝説とのゆかりは、宣伝のために後付けされたという。

 犬たちは皆、同町加賀爪に住んでいた故・岡本七郎さんの手で生まれた。岡本さんは昭和40年代ごろから、会社勤めの傍らセメントで動物を作っては自宅の庭などに並べていた。愛らしい置物は近所の評判になり、身近な犬を中心に口コミで制作依頼が広がった。

 それが、マスコットキャラクターブームに乗って活性化を目指した商店街の目に留まる。色々な種類の犬をまとめて岡本さんに注文し、各店がそろって店先に置いた。そして「忠犬伝説に商店街もあやかろう」と、「犬」にちなんで通りの愛称「パピィ・1(ワン)」を決めた。置物の犬が並ぶ風景と相まって、徐々に定着していった。

 だが、パピィ・1通りの犬は減ってきている。「壊れたりして。商店街も寂れてきたもん」と、夫婦で薬局を営む山本菊恵さん(74)。ドラッグストアや大手スーパーの台頭で客足は遠のき、多くの店が後継者問題を抱える。ほとんどの店が住居を兼ねていてテナントは入らず、空き店舗のガラス戸の奥から置物の犬が通りを眺める。

 全国に3千匹以上の犬を送り出した岡本さんは、17年前に死去。町で見かけた岡本さんの犬に触発されて置物の犬を作り始めた洋画家飯田恭彦さん(71)は岡本作品の修理も手がける。

飯田恭彦さん。初期作品の犬(左端)はずんぐりむっくりだ=石川県津幡町横浜
飯田恭彦さん。初期作品の犬(左端)はずんぐりむっくりだ=石川県津幡町横浜

「最初は忠犬伝説を意識することも、岡本さんの後継者というつもりもなかった。でも、私が作り続けることで町の活性化になり、伝説は語り継がれる」

 飯田さんが作る犬は、岡本さんのより上向き加減の目線が特徴という。人々に愛された津幡の犬は伝説とゆるやかに溶け合い、町を見守り続ける。

(田中ゑれ奈)

<メモ>

 津幡町の忠犬伝説 1944年春、大雨が降ったある日のこと。平谷(へいだん)地区に住む女性が畑が心配で見に行くと、小さな犬が駆け回り盛んにほえていた。不審に思って辺りを見ると隣の田んぼが水浸しになっており、近くの堤は決壊寸前。急いで土囊(どのう)を積んで事なきを得、気がつくと犬は消えていた。住民たちは、堤にまつられている不動明王が化身となり、水害の危機から人々を救ったのだとうわさしたという。
<エトセトラ>

■森林動物園、家族に人気

 忠犬伝説で犬が決壊を知らせた「津幡池」は、石川県森林公園(インフォメーションセンターは津幡町津幡エの14、076・288・6449)内の遊歩道から望める。公園で休日を過ごす家族連れには、無料で入れる「森林動物園」が人気。サルやシカ、リスなどののんびりした暮らしぶりをのぞくことができる。

 総面積1150ヘクタールを誇る森林公園では、ガイドとともに森を散策する「森林セラピー」が開催されている。地元講師らによるヨガやマッサージの講座なども付いた「森林セラピープラス」は、「パピィ・1通り」の化粧品店で働いている西山治美さん(38)も「大人女子に人気」と太鼓判を押す。


■特産品の「おまん小豆」

 津幡町には「忠犬」のほかにも水害にまつわる伝説が残っている。藩政期に近くの村で堤防の決壊が頻発。村役だった八十嶋家のお手伝い娘「おまん」が堤防工事の人柱となり、それ以来、水害はなくなったという。

 おまんが腰に下げていた籠からこぼれた小豆から自生したと伝わる「おまん小豆」は、町の特産品として地域活性化に一役買っている。専門店「おまん茶屋」(同町庄イ21の3、080・1952・4697)では、八十嶋家の子孫らが商品化した「おまん小豆茶」(500~800円)や「おまん小豆アイス」(300円)のほか、ぜんざいやシフォンケーキなども楽しめる。
朝日新聞
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