ツル、ウサギ、カメ…アイデア展示で、小さな町の動物園が大人気
全国初の「町立動物園」としてスタートした東京都の羽村市動物公園は独自路線で年間24万人を集め、黒字経営を続けている。面積は都立の多摩動物公園の12分の1以下しかない。「狭いからこその良さもあるんです」と語るのは、羽村市動物公園の「生き字引」と呼ばれる田中直樹飼育長(54)だ。
敷地が狭い羽村の動物園では、動物たちがすぐそこにいる。
田中さんの自慢は、童話を元にした動物展示。タンチョウヅルのコーナーには障子が5センチほど開けられたような工作物があり、その隙間からツルをのぞく。「つるのおんがえしです。すみません」と田中さん。ワラと木造とれんが風の小屋に豚が放し飼いになっている展示では「3びきのこぶたです」。
ほかにも「ブレーメンの音楽隊」「うさぎとかめ」などが並ぶ。飼育員たちの工夫のたまものだ。
ふざけているようだが、狙いは教育的だ。「猿山にカニの人形を置いただけで『さるかに合戦』なんですが、童話を読み、動物園で本物に触れることで、子どもたちが動物に興味を持ってもらえればうれしい」
田中さん自身、子どものころ、「カバ園長」の愛称で知られた東武動物公園の故西山登志雄園長の半生を描いた漫画「ぼくの動物園日記」を読み、飼育員を志した。高校卒業後、できたての動物園に臨時採用され、翌年に羽村町役場の職員となった。
8年前に、民間企業に動物園の管理が委託されると聞くと、迷わずに26年勤めた町役場を辞め、委託先の企業に再就職。動物飼育一筋だ。
最も思い出深いのは、母親から育児放棄されたニホンザルを人工保育し、群れにかえしたこと。動物園ではサルに付きっきり。閉園後は抱いて帰宅し、人間の赤ちゃん同様にミルクを与え、自分でエサをとれるようになるまで育てた。
半年後にボスザルが引き取ってくれたときは「グーッときた」という。そのメスザル「やすみ」は死んだが、娘の「こやす」が元気に猿山を走り回っている。
今春、キリンのつがいに発情行動が見られた。もし新しい命が宿っていれば、晩秋から冬にかけ、おなかのふくらみが目立ってくるという。小動物とふれあうコーナーもあり、エサやり体験もできる。田中さんは「動物たちを近くでじっくり観察してみませんか」と話している。
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