浜島直子&ピピ 「君は今幸せ?」

撮影/和田裕也  撮影協力/レイクウッズガーデンひめはるの里
撮影/和田裕也  撮影協力/レイクウッズガーデンひめはるの里

予約をキャンセル 保護犬受け入れへ


「浜島さんが保護犬を引き取る選択をしてくれたことが本当に嬉しい。命を育む仕事をしている者として本当に感謝します」


 浜島直子さんが2年待ち続けていた子犬の予約をキャンセルしたとき、チェコ原産の犬、クリサジークのブリーダーは、こんな言葉をかけてくれた。


 浜島さんが愛してやまないシー・ズーの男の子ピピは、動物愛護センターで殺処分寸前のところを「Angel%27s Tale シーズー・レスキュー・ネットワーク」という団体に保護された。見ためがあまりにひどかったため、譲渡会の会場だった犬のトレーニング教室「Yutorinu」でトリミングを受けている最中に、浜島さんが偶然仕事で訪れたのだった。


 心はぐっと動いたが、帰宅後、ご主人に話をすると、「うちにはもうお願いしている犬がいるでしょう。それに、写真を見て服を選ぶように動物を決めるのは嫌だから」と反対された。


 その言葉に十分納得しながらも、翌日も気持ちが収まらず、もう一度教室を訪問。代わる代わる抱っこされるそのシー・ズーが、浜島さんの顎だけをペロリとなめたとき、浜島さんの心は決まった。あとはご主人をいかに説得するか――。


 果たして、帰宅して目に飛び込んできたのは、『I love シーズー』という雑誌。2週間のトライアルを経て、ピピは浜島さんの新しい家族になった。

 

辛い体験を越えて 家族と友達の中へ


 しかし、引き取った頃のピピは表情がなく、うんともすんとも言わない。 唯一ごはんのときだけ自分の物だとうなり声を上げる。トイレのしつけにも少し時間を要した。獣医師からは、きっとこの子は飢えていた時期があり、狭い所に入れられて排泄時も外に出してもらえなかったのでしょうと言われた。けれど本来、犬は綺麗好き。根気強く練習していけば大丈夫 と。


 それから1年半。今年2歳になったピピは今ではトイレの場所も覚え、嬉しいときには返事をし、感情も表すようになった。


 家庭での順位は“頂点に君臨する華麗なるボス”の浜島さん。次点は、浜島さんによるとピピ、ご主人は男同士同位と、夫妻で意見が分かれる。が、実際、自宅での仕事が多いご主人がピピの散歩をすることも多く、仲良しであることは間違いないそう。ピピは、昔は散歩も脅えていたが、楽しいものだとわかってからは大好きに。散歩先で犬友達もできた。

 

旅立ちの朝は「充電ポーズ」


 TV番組『世界ふしぎ発見!』のレポーターを務める浜島さんは、2カ月に1回程度のペースで海外に出かけている。スーツケースを出すとピピはその出発が近いことを感じ取り、当日の朝は浜島さんの膝の上でしばし彼女の愛を充電する。


「ピピは愛情を要求しないんです。いつも寄り添うようにそっと甘えてくる。人間も自分、自分と主張するのではなく、相手を思いやりながら甘えればうまくいくのかも」(笑)


 世界を巡る浜島さんの持論は、国の本当の姿がわかるのは(1)トイレ(2)ペット(3)ゴミ箱。「上辺だけ綺麗にしても、人の気持ちが追いついていないんです。また、商品のように動物を陳列して消費者が買えるお店は、先進国ではほぼ見ません」


 東日本大震災の日は、浜島さんは海外でロケ中だった。ご主人もピピも無事だったが、ピピは今でもニュース速報や地震速報にはビクッと反応するという。


 ピピが怖がっているときは「よーしよし、よーしよし」と決まった言葉をかけてピピを安心させるのが浜島流だ。また、万が一のときにはすぐ一緒に移動できるよう、声をかければケージに入る訓練もできている。

 

浜島直子さんとピピの大切な場所 ピピを迎えてから、膝の上はいい場所なのだと教える練習をして、今では浜島さんが声をかけると、ピピはピヨンと膝に乗ってくる。写真は、名づけて「充電ポーズ」。膝の上に乗り、頭は胸の上に。「心の音を聞いて、安心しているみたいです」。ピピだけでなく、浜島さんにとっても大切な充電時間だ。写真提供/浜島直子さん
浜島直子さんとピピの大切な場所 ピピを迎えてから、膝の上はいい場所なのだと教える練習をして、今では浜島さんが声をかけると、ピピはピヨンと膝に乗ってくる。写真は、名づけて「充電ポーズ」。膝の上に乗り、頭は胸の上に。「心の音を聞いて、安心しているみたいです」。ピピだけでなく、浜島さんにとっても大切な充電時間だ。写真提供/浜島直子さん

叱らずほめると、百個いいことがある


 ピピを迎えてから、自分についての発見も多いという浜島さん。「自分では大らかだと思っていたけれど、ことピピに関しては意外に神経質。一方で、自分の意思を相手に押し付けてはいけないとも思います。ピピにはピピのペースがある。それを受け入れようと」


 ピピをしつけながら浜島さんが気づいたのは「叱ったり怒ったりして、よいことは何もない。逆にほめると、百個いいことがある!」ということ。「人に対してもそうですよね」


 今ペットと暮らしている方には、自分より先に旅立つ動物と、限りある時間を共に楽しみましょうと、そして今ペットがいない人には、保護動物の迎え入れという選択肢もありますよと伝えたいという。


「ピピには『君は幸せですか』って聞いてみたい。『幸せだよ』って言ってもらえるように日々を過ごしているし、これからもそうしていきたいと思っています」


(朝日新聞タブロイド「sippo」(2012年3月発行)掲載)

 


■浜島直子さんプロフィール

1976年、北海道生まれ。「はまじ」の愛称で親しまれ、TBS『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンター、『暮らしのレシピ』のナビゲーター、NHK総合『あさイチ』の準レギュラーゲスト、BS-TBS『LEE Style +』のメインMCを務める。 ラジオでは『Curious HAMAJl』のDJ、フアツション誌では『LEE』の専属キャラクター。料理や編み物、ピアノ、ダイビングなど趣味も多彩。

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sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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