滝川クリステルさんと柴咲コウさん 犬猫を飼うことを語り合う

 動物福祉(アニマルウェルフェア)のための一般財団法人を設立した滝川クリステルさんと、大の愛猫家として知られる柴咲コウさん。「動物に優しいニッポン」を考えるスペシャル対談です!

 

(末尾に写真特集があります)

 

構成・文/浅野裕見子 撮影/植田真紗美


滝川クリステルさん(左)と愛犬アリス、柴咲コウさん
滝川クリステルさん(左)と愛犬アリス、柴咲コウさん

◆動物を思う気持ちは幼いころから

柴咲 子どものころから近所に野良猫が多くて。家で飼わなくても「いて当たり前」の環境だったんですよね。それに父が、なぜかすごく猫に好かれる人で、歩くだけで野良猫たちがすり寄って来る。


滝川 うらやましい!


柴咲 大人になって考えるようになったんです。都会は目まぐるしくて交通量も多い。野良猫たちはすごく過酷なところで生きてるんだな、と。それで保護猫を2匹、引き取ったんです。当時私は二十歳で、父と二人暮らしをしていました。


滝川 その子たちは今どうしてるの?


柴咲 父と暮らしています。ものすごくなついていて…やっぱりあの人、何か持ってる(笑)


滝川 今飼っている猫も保護猫ですよね。


柴咲 はい。実は昨年、るなっていう子が4歳で亡くなってしまって。FIP 猫伝染性腹膜炎でした。原因不明で確定診断も難しい病気なんです。今はるなよりも前からいたのえるだけ。のえるはライブで行った熊本の保護猫カフェから、るなは東京の知り合いのつてで来たんです。


滝川 私は動物に囲まれて育ちました。生まれたとき、2匹のトイプードルの先住犬がいた(笑)。3歳の時に犬たちと一緒に日本へ移って、それからも金魚やインコやカメや…。


柴咲 カメ?いいなあ!


滝川 5歳のときにお小遣いをためて、2匹、つがいで買ったんです。その後、メスの方は亡くなっちゃったんですけど、オスはまだ生きてますよ。


柴咲 ええええーっ?やっぱりカメは……。


滝川 万年(笑)。母が動物を閉じ込めるのを嫌って、家の中で放す主義の人だったんです。フンはするし大変なんだけど、それをきれいにするのは人間の務め。


柴咲 親の影響って大きいですよね。小さいころからの環境や教育って大事。


滝川 アリスは東日本大震災で被災して、福島県浪江町の自宅の庭でひと月も耐えていたところを保護された子なんです。大型犬は引き取る人が少ないっていうから、それなら私が、と。


柴咲 大型犬飼うの、初めてだったんですよね。


滝川 シェルター(保護団体)からも、女性一人じゃ大変だからやめた方がいいって言われたんですが「大丈夫です、ちゃんと向き合ってお世話します」って宣言して。私も犬もトレーナーについて訓練を受けました。


柴咲 すごい!


滝川 私が前例になったみたいで。大型犬の引き取りをためらう人に私の話をしてるそうです。こういう人もいるんだから大丈夫。まずは一緒に暮らしてみてください、と。


柴咲 知識は生活しながらでも養っていける。まず必要なのは覚悟と体力だと思います。

 

お友達になったのは最近なんです(滝川さん)。保護動物のこと教えてくださいって、私がナンパしたんです(柴咲さん)
お友達になったのは最近なんです(滝川さん)。保護動物のこと教えてくださいって、私がナンパしたんです(柴咲さん)

◆世話をすることで深まる絆

柴咲 猫はとにかく、毛が大変ですね。黒いワンピースも大好きなんだけど、着替えたら早く外へ出る!


滝川 ものを出しておけなくなるから、むしろ家は片付くかもしれませんね。


柴咲 掃除もこまめにするようになって。


滝川 アリスは引き取った直後は環境の変化がストレスで下痢や嘔吐(おうと)が続いて。ある夜帰ったら、自分の排泄(はいせつ)物でドロドロになってたことがあるんです。片付ける私をものすごく申し訳なさそうな目で見ていたから、「大丈夫だよ」って声をかけ続けて。そういう経験で少しずつ距離が縮まっていった気がします。


柴咲 そうやってわかりあっていくんですね。


滝川 困ったのは出張ですね。震災で置き去りにされたトラウマがあって、私が帰宅してもケージから丸二日間、出てこなかったんです。他の人が呼ぶと出るのに、私が近づくと震えるの。


柴咲 それはショックでしたね。


滝川 涙が出てきました。それも数回経験するうちに「あ、どうやらちゃんと帰ってきてくれるんだ」ってわかったみたい。


柴咲 生き物と暮らすのって、そういう大変なことを全部引き受けてこそ、ですよね。


滝川 彼らがくれる大きな愛情や信頼を思ったら、そんなことなんでもないです。実は今一頭、雑種の中型犬を引き取っていて。


柴咲 そうなんですか?


滝川 セラピー犬になれるように、絶賛訓練中なんです。無駄な命なんてない。生きてさえいれば、人の役に立てるんだと。そのぐらいインパクトがないと、動物に興味のない人には伝わらないと思って。


柴咲 その点、猫はあんまりお役に立てないなあ…人を癒やすぐらいしか(笑)

 

 

◆不幸な動物を減らすために

滝川 るなちゃんの次に、誰か迎えようとは思う?


柴咲 るなのことはつらかったけれど、大切な存在が亡くなるっていうのは、誰にでもいつかやってくるもの。るながそれを、身をもって教えてくれた気がします。ペットって人間の物欲を埋めるものじゃないと思うんです。だから、また迎えるときも保護猫にします。

 

柴咲さんの愛猫たち。のえるはオッドアイの白猫。白×黒の子がるな
柴咲さんの愛猫たち。のえるはオッドアイの白猫。白×黒の子がるな

滝川 ペットショップに並ぶ動物は可愛い。欲しいと思うのも罪じゃない。だけど、その裏側には理不尽に奪われている命がたくさんあることを知ってもらいたい。欧米では生体販売を禁止しているところも多いです。例えばドイツではお店で動物は売られていませんが、実は禁止する法律はないんです。


柴咲 ないんですか?


滝川 世論や教育の力なんです。一般市民がペット=お店で買うもの、とは思っていない。誰も買わないから、置いていない。


柴咲 日本もそうなるまでに時間はかかるでしょうね。とにかく、まず事前に動物を飼うということをじっくり考えてから迎えて欲しい。せめて、ペットショップがそういう教育の場になってくれれば。


滝川 それでも、保護動物の存在や殺処分を減らそうという意識はかなり高まってきているのを感じますね。ただ、犬の殺処分ゼロを達成した自治体もありますが、現状は犬たちを保健所からシェルターに移しただけ。行政の補助もないし、どこの保護団体もいっぱいいっぱいなんです。これでは長続きはしませんよね。


柴咲 私が会社を設立したのも、動物保護活動をビジネスとして考えられないかなと思ったからなんです。動物の命も助かって、経済的に利益があるように。難しいかもしれないけれど、その仕組みを考えたい。


滝川 それはすごく大切なことですよね。動物の保護や福祉が善意に根差した活動であることは大前提なんですが、継続した運営には資金がいる。冷静に経営や運用を考えられる人材は絶対に必要なんです。私の財団では、まったく違う分野の知識のある人の力を借りています。


柴咲 保護活動をしている人同士が協力しあうことも大切ですよね。


滝川 私たちはフォスターアカデミーというスタッフ養成活動にも力を入れています。フォスターっていうのは一時預かりで、新しい飼い主に譲渡されるまで保護動物のお世話をするんです。普通は保護団体に所属すると、他の団体の動物は預かれないの。理由はさまざまあるけれど、それじゃ活動が広がらないから、私の財団では複数の団体と協力関係を持ちつつ、フォスター同士がつながることで、活動の輪を広げたいと思ってるの。


柴咲 いろいろ難しいことも多いけど、少しずつでも進めないと、ですね。


滝川 がんばりましょう!

 

滝川クリステル(たきがわ・くりすてる)
1977年、パリ生まれ。フリーアナウンサー。WWF(世界自然保護基金)ジャパン顧問などを務める。2014年5月、一般財団法人「クリステル・ヴィ・アンサンブル」を設立。野生動物、ペットにかかわらず、動物と人との「共存・共生」する道を探り、動物保護・生物多様性保全活動を続けている。

 

スタイリスト/長瀬哲朗(UM) ヘアメイク/石田絵里子
衣装協力/ENFOLD

 

柴咲コウ(しばさき・こう)
1981年、東京都生まれ。俳優、歌手、実業家。1998年デビュー以降、数々の映画、ドラマで活躍。17年はNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」に主演。2016年「心も身体も美しく暮らす」衣・食・住についての情報発信や商品プロデュースを手掛ける「LES TROIS GRACES」を設立。

 

スタイリスト/柴田圭 ヘアメイク/川添カユミ
衣装協力/MURRAL(Sister)

 

(朝日新聞タブロイド「sippo」(2017年12月発行)掲載)

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sippo編集部が独自に取材した記事など、オリジナルの記事です。

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この連載について
Words for You ―君に贈る言葉―
犬や猫と暮らす著名人に、愛犬・愛猫との生活ぶりや思い、広く動物福祉などについて聞くインタビュー集です。
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