うさぎの絵本「ピーターラビット展」 著者ポター生誕150周年
世界中で愛され続けるピーターラビット。作者のビアトリクス・ポター(1866~1943)の生誕150周年を記念する「ピーターラビット展」が9日、東京・渋谷の「Bunkamuraザ・ミュージアム」で開幕。絵本シリーズは今も世界で読まれ、日本でも1300万部以上の大ベストセラー。多くが日本初公開となる200点余りの原画やスケッチを通して、創作の原点に迫る。
■英国・湖水地方を訪ねて
ビアトリクスが暮らした英国・湖水地方のニアソーリー村を訪れると、今回展示される作品に描かれた風景が日常に溶け込んでいた。
暦本の原画で小うさぎ・ピーターが手紙を投函(とうかん)する赤いポストは今も現役で、郵便局の職員が1日1回手紙を集めにやってくる。
絵本シリーズの一つ『こねこのトムのおはなし』に出てくる三角のひさしがある入り口は、ビアトリクスが仕事場にしたヒルトップ農場の家の入り口と同じだった。絵本でネズミがよく出てくるのも農場にたくさんいたからだという。「ビアトリクスがここを購入して最初にやったのはネズミ退治。2年間で96匹です」と、ガイドのキャサリン・プリチャードさん。足元を見ると、テーブルの脚にはネズミがかじった跡が残されていた。
弁護士だった夫の事務所を転用した「ビアトリクス・ポター・ギャラリー」で、日本に送り出す直前の作品を見せてもらった。
まずは、知り合いのノエル少年に出した絵手紙を自らが模写した作品。ウサギの絵の下には既に「Peter」の文字がある。
ビアトリクスは、この模写をもとに1901年、『ピーターラビットのおはなし』(私家版)を作った。今回の展覧会では、白黒刷り(口絵はカラー)だった私家版の原画全44点が、日本で初めて一挙に公開される。口絵以外も彩色された初版本がフレデリック・ウォーン社から刊行されたのは、その翌年のことだ。
また今回、『こわいわるいうさぎのおはなし』の草稿(パノラマ本)を、広げた形で展示する。同ギャラリーのリズ・ハンター・マクファーレイン館長は「広げて展示したことは、これまでほとんどない。10年前にロンドン、今回が2回目です」と話す。
展覧会の会場には、ほかにも水彩の挿絵やスケッチの数々が並ぶ。100年以上前に描かれた作品が色鮮やかなのは、保管に細心の注意が払われてきたためだという。「『科学者の目』を持ったビアトリクスは、動物を詳細に観察し、リアリティーのある姿を描いています。そうした部分にも注目してみては」と、この展覧会を監修した河野芳英・大東文化大教授は話している。
(友野賀世)
■印税で土地購入、乱開発から守る 作者、ビアトリクス・ポター
生誕150周年にちなんで英国で記念の硬貨や切手が出ているビアトリクス・ポター。絵本作家にとどまらない様々な横顔を持っている。
1866年にロンドンの裕福な家庭に生まれ、たくさんのペットに囲まれて育った。幼い頃から動植物のスケッチが大好きで、家族で避暑に訪れた湖水地方の自然に魅了された。弟と昆虫標本を作ったり、死んだ野生のウサギを鍋で煮て骨格を調べたり。キノコも研究するなど自然科学に強い関心を持っていた。
リアルさは絵本のストーリーにも表れている。『ピーターラビットのおはなし』で、ピーターのおかあさんは子どもたちに言う。「おまえたちの おとうさんは……マグレガーさんのおくさんに にくのパイにされてしまったんです」。愛らしい挿絵が、セリフをより刺激的に感じさせる。
1905年にはヒルトップ農場を購入。それ以降、湖水地方の乱開発を避けようと、絵本の印税などで土地を買い進めた。
43年に77歳で亡くなると、遺言によって、15の農場を含む約17平方キロメートルの土地が、自然保護などに取り組む非営利団体「ナショナル・トラスト」に寄贈され、湖水地方の景観保全に寄与した。思い入れが深かったナショナル・トラストは現在、多くの作品や遺品も所蔵。今回の展覧会は、その中から出品されたものだ。
■8月9日[火]~10月11日[火]、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアム。午前10時~午後7時(金・土曜は午後9時まで)。入館は閉館の30分前まで。会期中無休
■一般1400円、大学・高校生900円、中学・小学生600円、親子券1500円(一般1枚、中小学生1枚のセット券。要同時入館)
■展覧会公式サイト http://www.peterrabbit2016-17.com/
■問い合わせ ハローダイヤル03・5777・8600
主催 Bunkamura、朝日新聞社、テレビ朝日、東映、BS朝日
後援 J―WAVE
特別協力 The National Trust for England, Wales and Northern Ireland
協力 ソニー・クリエイティブプロダクツ
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