動物との共生を考える連絡会主催シンポジウム
平成24年の「動物の愛護及び管理に関する法律」改正により、各自治体に対し、捕獲・引き取りした犬猫の譲渡・返還を増やし、できる限り殺処分0をめざすという努力義務が課せられました。また、この法律を所管する環境省は、これらを推進するために「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」を立ち上げ、マスコミを通して広く発信されました。
そこで、今回のシンポジウムは、各自治体の殺処分0を目指す取り組みの中で、今現場では何が起きているのか、今後どのようなことが問題となるのか等について、3人の講師の先生からお話を伺い、不幸な動物を減らす取り組みとしての「殺処分0」を皆で考えようと企画しました。
○「処分0を科学的に考える―シェルターメディシン」
田中 亜紀 先生獣医師・博士/獣医疫学・シェルター疫学専門
カリフォルニア大学デイビス校
シェルターに動物たちが連れて来られる理由は様々である。犬では引っ越し・ペット禁止不動産・世話の時間がない・咬む/吠える/言うことを聞かない等であり、猫では多すぎる・アレルギー・引っ越し・ペット禁止不動産・子猫が生まれた等で、地域からシェルターに連れて来られることが多い。
しかし、シェルターで心身共に健康に収容できる頭数は限られている。そこで、シェルターに心身ともに元気で来た子は元気なままに新しい家族へ送り出し、譲渡可能な動物には最大限のチャンスを与え、人にも動物にも安全な譲渡を推進しようと科学的アプローチで改善を目指すシェルターメディシンという学問がカリフォルニア大学デイビス校から始まった。新しい獣医学的分野で、すでにアメリカの多くの獣医大で教えている。
シェルターメディシンはたくさんの動物が飼育されるシェルターにおける獣医学的群管理で予防医療の包括的アプローチで総合獣医療である。科学的エビデンスを基に、感染症管理・動物の管理/エンリッチメント・早期不妊手術・公衆衛生・動物虐待・栄養・施設の設計・行動学・獣医疫学・災害獣医療を総合して全体像を念頭に効率的に管理する。それによって、動物福祉を守り、人の安全を守り、地域の安全を守る。
処分0に固執するのではなく、まず今保護している動物の健康管理をしっかりし、元気な子は元気なままに、ストレス管理をして良い子は良いこのままに新しい飼い主の下に送り出す。
○「殺処分0を考える―どんな動物が捨てられてしまうのか、シェルターでできる事、譲渡の時に考える事」
入交 眞巳 先生獣医師・米国獣医行動学専門医
日本獣医生命科学大学 講師
青森県の動物愛護センターや保健所に持ち込まれる理由の上位に挙げられるのが、①高齢や病気②引っ越し③問題行動である。そのような動物をシェルターで受け入れるときには、正直に「病気」や「問題行動」に関して記載していただけるような書類や環境が必要で、具体的なアドバイスも試みる。
動物は最初の24時間は大変緊張し、攻撃性が出たりもするため、性格判断の時は考慮に入れる。時間があるときは落ち着いてからの方が良い。シェルターにいる間に簡単なトレーニングをしておくと譲渡に有効。たとえば、人が通ると「おすわり」ができるや散歩中に引っ張らない等々。日々の健康面のみならず、スタッフとの関係性で問題があった際にも記録しておくとよい。
譲渡の時に考慮しなければならないことには、「高齢」や「慢性疾患」・「重度の持病」、「攻撃性」のような動物の抱える問題を一般の方に渡しても良いか?ということである。
攻撃性に関しては「治療可能」かも知れないが時間がかかり、一般の人が犬との関係を想像した場合とは違う関係性を結ぶことを強要することになる。猫の場合も環境や生活状況をかなり考えて行かないといけなくなる。
譲渡後のアドバイスとして「分離不安を発症しやすい」、「最初は緊張しているのでおとなしいが、譲渡後1~2週間するとリラックスして本性が出る」や「問題行動が出た場合に誰に相談できるかの窓口確保(獣医系大学や近隣の専門家との連携)」を伝える。
○「行政による犬と猫の殺処分―これまでとこれからの問題を考える」
対馬 美香子 先生獣医師・元行政職員
犬の飼養頭数は増え続けたのに、犬の殺処分数が減少を続けたのはなぜか? そこには、飼いきれない子犬を生ませない(不妊去勢手術の普及、捨て犬・野良犬の減少)、「最後まで飼う」飼い主責任の普及、迷子犬の返還率上昇、動物愛護団体・行政などの普及啓発活動・譲渡の広がりがある。
猫の殺処分数は1991年をピークに減少に転じたものの、犬のように減らないのはなぜか? そこには、飼いきれない子猫が生まれている、子猫の供給源としての「飼い主のいない猫」と「飼い主のはっきりしない猫」の存在がある。「室内飼養」「最後まで飼う」等の飼い主責任は普及しつつあり、譲渡も広がってはいるが子猫の数が多すぎる。殺処分の減少には、繁殖の管理が必要不可欠(飼い主のいる犬・猫⇒適正飼養の普及、飼い主のいない犬・猫⇒減らしていく)である。
殺処分0目標達成の為に「一般家庭での飼養がむつかしい犬・猫」をどんどん譲渡するのではなく、譲渡する側の知識と十分なマッチング技術で「適正譲渡」を増やすことが目標達成の近道。
行政は公衆衛生を守り、市民の命を守ることも重要な任務の一つである。殺処分の数だけに着目し、目先の方法で数を減らそうとすると無理が生じる。生じた無理は飼い主のいない犬・猫の増加に繋がるかもしれない。
「目標は適正飼養100%」。その結果、「殺処分は限りなくゼロ」になる。
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