猫と少女の物語 震災の心の傷を絵本に、祖父を亡くした女子大生
津波で祖父を失った宮城県女川町出身の東北芸術工科大2年神田瑞季(みずき)さん(20)=山形市=が手がけた絵本「なみだは あふれるままに」が出版された。震災で傷ついた少女の心の回復の物語だ。自身の心の傷とも向き合いながら、3年かけて18枚の絵を描いた。
女川一中の卒業式を翌日に控えたあの日。高台の女川高へ避難して難を逃れたが、行政区長だった祖父の明夫さん(当時77)は、住民に避難を呼びかけていて津波にのまれた。
両親が共働きだったため、小さいころから遊び相手だった。毎日一緒に散歩したり、趣味の史跡巡りに同行したり。1週間後、遺体は近所で見つかった。覚悟はしていたが、体中の力が抜けた。
その年の夏。ボランティアの人らへ感謝の思いを伝えようと、がれきの前で手をつなぐ、後ろ姿の5人の子どもの絵を描いた。この絵が町の絵はがきになった。東京の出版社の目に留まり、冬に絵本の話が舞い込んできた。文章は絵本作家の内田麟太郎さん(75)にお願いした。
13年2月、絵本作りが本格的に動き出した。
絵本の少女は、津波におじいちゃんを奪われる。後ろ姿で、廃墟(はいきょ)の前でただ立ち尽くす。暗い絵が続く。5枚目。少女は初めて顔を見せる。堅く閉ざされた窓から暗い目で外を眺める。
「つらいシーンほどスラスラ描けました。心の中の浄化されない闇が、絵に流れ込んだようでした」
だが6枚目。空が虹色を帯び、タンポポが咲く。春が来た――。母親に伝えようと少女は駆け出す。
少女はタンポポを摘む。その後ろ姿を、猫が見つめる。絵本は語りかける。
「きみの うしろすがたにも ほほえみかけている ひとがいる いつか きみは きづくだろう」
最後の絵。少女は胸に抱いた猫にほおを寄せ、ほほえみを浮かべる。
春が来た後、手をつないで花々に手を伸ばす子どもたちや、はじける笑顔を見せる少女の明るい絵が続く。でも、描く自分の心は喪失感が消えていない。
それが絵に現れるのか、「寂しさが出ている」「精気がない」と担当者に何度もダメ出しされた。プロとして応えたいと何度も書き直し、今年2月にようやく出版へとこぎ着けた。
表紙の少女は、輝く海を後ろ姿で見つめる。笑っているのか、泣いているのか。「心の復興の度合いは人それぞれ違う。見る側が想像してくれればいい」と話す。「絵本が、心が傷ついた人がいい方向に向かうきっかけになるとうれしい」
絵本は税別1300円。全国の書店で手に入る。
(茂木克信)
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