猫のかゆみが止まらない 皮膚科の専門医が伝えたい本当の原因と治療法とは
猫にもいわゆるアトピー性皮膚炎のようなかゆみが続く皮膚病があります。その他にもかゆみが生じる原因はありますが、症状から特定するのが難しく、診断や治療に時間がかかることもあります。また、生涯付き合っていくケースも少なくありません。しかし、「治らない」と決めつけてあきらめるのは早計です。
アジア獣医皮膚科専門医であり、犬と猫の皮膚科クリニックの代表を務める村山信雄先生によれば、「かゆみを抑えればきれいな肌を維持できる」とのこと。まずは上手にかゆみ止めの薬を使い、猫のつらさを早く取り除くことが重要。かゆみを抱える猫がよりよい治療を受けるために、村山先生に話をうかがいました。
猫の「アトピー性皮膚炎」は全年齢で発症する
猫にもいわゆるアトピー性皮膚炎はあります。人や犬のように皮膚のバリアー機能の異常(敏感肌といわれる体質/皮膚の個性)をもっていることが一因として挙げられますが、違う点も多いんです。たとえば、発症年齢は約6割が3歳以下ですが、7歳以上も2割を占めています。猫は全年齢で発症する可能性があると考えたほうがいいでしょう。
また、アトピー性皮膚炎を発症しやすい猫としてアビシニアンが言われていますが、長毛短毛、毛色を問わず、いずれの猫種でも見られます。最近、飼育される機会が増えた特定の猫種では、温厚な性格などの長所を重視した結果、比較的特定の猫がブリーディングに用いられ、アトピー性皮膚炎という短所も受け継がれた可能性があると思われます。
猫は4種類のかゆみから原因を特定する
かゆみが生じる病気はアトピー性皮膚炎だけではなく、食物アレルギー、ノミアレルギー性皮膚炎、過剰な毛づくろいといったさまざまな病気や行動があります。しかし、いずれも同じようなかゆみに似ている症状が出るため、原因を特定するのはなかなか大変です。まずはかゆみの症状を見分けてから診断をつけていきます。
[猫の基本的な4つのかゆみ]
(1)頭頸部掻破痕(とうけいぶそうはこん)
猫は頭や首にかゆみが出やすく、かき壊しにより皮膚を傷つけてしまう。
(2)粟粒性(ぞくりゅうせい)皮膚炎
栗のように小さい粒がたくさんできる。粒の一つひとつが刺激によるもので、虫刺されや自分の舌(ザラザラした突起)が原因になる。
(3)外傷性脱毛
過剰な毛づくろいによって毛がちぎれ、脱毛したように見える。
(4)好酸球性肉芽腫群
好酸球(白血球の一種)が集まって口や腹部が盛り上がる。なめ壊しの原因だけではなく、生まれ持った体質が関与している。
猫はかゆみ止めの薬に副作用が起きにくい
猫は犬に比べてアトピー性皮膚炎などのかゆみの治療の選択肢が少なく、かゆみ止めの第一選択としてステロイド(免疫・炎症反応を抑える)が使用されています。ステロイドは猫では副作用が起きにくい薬となりますが、ステロイドの反応が乏しい、ステロイドの反応(治療による改善)が乏しい、またはステロイドで副作用が見られるなどの猫に対して、シクロスポリンという免疫調節薬を使用することもあります。
一方、抗ヒスタミン薬(アレルギー反応を抑える)というかゆみ止めも猫では使用されることもあります。抗ヒスタミン薬はかゆみ止めの効果だけではなく、眠くなる作用もあり、かゆいところに対する意識が散漫になることから、「なめさせない・かかせない」ための対策として使用することもあります。きれいな肌を維持できればかゆみが出にくくなる好循環を生み出すことができます。
私がおすすめする治療法は、かゆみが出やすい春から秋の高温多湿を中心にかゆみ止めの薬を飲んできれいな肌を維持すること。それができれば、かゆみの少ない、またはかゆみのない冬に薬をやめられる可能性があります。
ただ、猫の飼い主さんには投薬のハードルが高いですよね。私は苦いステロイドより比較的甘い抗ヒスタミン薬を処方することもあります。ステロイドも抗ヒスタミン薬も成人と同じ量が必要ですが、猫は薬の副作用が非常に起きにくい動物なのでしっかり治療しましょう。
皮膚科専門医の診察を受けるためには
猫のアトピー性皮膚炎などのかゆみの治療には、かかりつけの獣医師に猫に合う飲み薬や塗り薬、スキンケアを相談することが重要です。飼い主さんからはよく「ずっと治療したけれど治らなかった」という話を聞きます。しかし、それまでの検査や治療が必ずしも間違っているとは限りません。獣医師と飼い主さんでは「治る」という意味の捉え方が違う場合が多いからです。
私たち獣医師は適切な薬を使い、かゆみを抑え、きれいな肌を維持することを「治る」と考えていますが、飼い主さんはかゆみがなくなって薬をやめることが「治る」と思っていることも。行き違いがないように、猫の病気や状態に関してかかりつけの獣医師の説明を受けましょう。
そのうえで、解消しない疑問や納得できない気持ちがあれば、かかりつけの獣医師に皮膚科へのセカンドオピニオンを相談してみてください。猫のアトピー性皮膚炎などの皮膚病やかゆみを起こす原因とは、生涯にわたって付き合わなければいけないケースが大半なので、飼い主さんが治療法を理解し、納得することが必要だと思います。
手作り食やスキンケアより毎日のブラッシングを
猫のアトピー性皮膚炎などのかゆみを治すために、手作り食を試みる飼い主さんもいます。しかし、先にお伝えしたようにかゆみの原因はさまざまなので、食事で治すのはかなり難しいと思います。まずはかゆみを抑える治療を優先し、猫も飼い主さんもつらくない生活を維持することから始めて、余裕ができたら食事を変えてみるほうがいいでしょう。
人のアトピー性皮膚炎では有効とされる保湿剤のスキンケアも、猫では十分な効果を発揮できないこともあります。人は毎日体を洗って全身を保湿しますが、猫では頭から足先まで全身の保湿は現実的ではないですよね。シャンプーの頻度も週に1回程度で、保湿剤もかゆみが出やすい部分に塗るのが一般的ではないでしょうか。しかし全身の皮膚の問題だとすれば、症状が出ていない頭や背中にもスキンケアをしたほうがいいと考えられますが、猫の全身に保湿剤を塗ったらベタベタして、余計になめ壊す可能性もあります。
アトピー性皮膚炎などのかゆみが根本的に治しきれる病気ではないと考えれば、大事なことは継続できるかどうか。スキンケアとして、猫と飼い主さんが無理なく続けられるブラッシングを毎日の習慣にし、皮膚の問題を早いタイミングで見つけてもらうほうが大切だと思います。
日々の楽しい変化が猫のかゆみの対策に
猫のアトピー性皮膚炎などのかゆみが生じる問題が増えた背景には、室内飼育が広まったことも関係しているかもしれません。外的刺激の少ない環境でリラックスして過ごせる反面、持て余した体力やイライラした気分を発散する手段として、なめたりかいたりすることになり、かゆみの悪化につながります。
とくに完全室内飼育が推奨されている猫は限られた空間で暮らしているので、楽しく活動できる工夫をすることは重要だと思います。たとえばキャットタワーやキャットウオークを利用して、立体的に動く環境をつくること。飼い主さんと遊ぶ機会を増やすことも必要でしょう。意外かもしれませんが、楽しい刺激のある毎日も猫のアトピー性皮膚炎やかゆみを抑えることに役立つと思います。
- 犬と猫の皮膚科 村山信雄
- 獣医師。博士(獣医学)。アジア獣医皮膚科専門医。1994年、帯広畜産大学畜産学部獣医学科卒業後、動物病院などでの勤務を経て2010年にアジア獣医皮膚科専門医を取得。2012年には岐阜大学連合大学院にて博士(獣医学)を取得。犬と猫の皮膚科を設立し、2016年より同クリニックの代表を務める。
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