いつも明るい笑顔がかわいい、車椅子の「みるくてぃ」(奥村まみさん、想一朗さん提供)
いつも明るい笑顔がかわいい、車椅子の「みるくてぃ」(奥村まみさん、想一朗さん提供)

障害のある元保護犬「みるくてぃ」 多くの人に助けられ自力で歩けるよう奮闘中!

 個性豊かな雑種犬の魅力を紹介する連載企画。第23回は、きれいな毛色とマロ眉がかわいい「みるくてぃ」。生まれつきの障害により自力では歩けませんが、持ち前の明るさと、飼い主夫妻やSNSを通じて出会った人々の助けを借りながら、2歳になった今も歩けるよう日々奮闘しています。

(末尾に写真特集があります)

【基礎データ】ミルクティ色の和犬系中型雑種犬

DATA
《名前》みるくてぃ
《年齢/性別》2歳/メス
《役割》SNSで活躍中の保護犬のインフルエンサー!
《サイズ》体高38cm・体⻑44cm・体重13.5kg
《チャームポイント》よく笑う顔と、ときどき二重になるまぶた
《特性》
人慣れ度★★☆
犬好き度★★☆
食いしん坊度★☆☆
運動量★★☆
トレーニングしやすさ★★☆
ケアのしやすさ★★☆

誰にも見向きされていなかった譲渡会

 奥村さん夫妻が結婚して初めて迎えた愛犬は、山中で生まれたばかりのところを保護された元保護犬。また脳に障害があり、歩くことができない子でした。

 飼い主のまみさんは、明るく話します。

「二人とも動物好きで、猫がたくさんいる島でカメラ好きの集まりがあり、そこで仲良くなったんです。もともと私が保護犬を迎えたいと思っていて、結婚して1~2カ月経ったころに、『まずは勉強のため譲渡会に行ってみようか』って軽い気持ちで出かけました」

春爛漫!ななかでの笑顔(奥村まみさん、想一朗さん提供)

 譲渡会の会場に着くと、入り口には入場の順番待ちをする人の列ができていました。並びながら様子を見ていると、前に入った人たちは入り口近くのクレートをのぞいてすぐに離れていきます。いざ奥村さん夫妻の順番が来て、そのクレートをのぞいてみると、そこにはもうすぐ生後3カ月になる「みるくてぃ」がいました。

2年前の春、お迎えしたばかりのころ(奥村まみさん、想一朗さん提供)

「見た瞬間、『むちゃくちゃかわいい!』って釘付けになりました。そうしたら、保護団体の方が『この子は障害があるんですよ』って教えてくれて、だからみんな離れていったのか、と。でも私たちは離れることができなくて、けっきょく譲渡会が終わるまで約2時間、ずっとみるちゃんのそばにいたんです。他の子はまったく見ませんでした(笑)」

生後5カ月、耳が大きい!(奥村まみさん、想一朗さん提供)

 

 命を迎えることには責任が伴うだけに、安易には決められません。それでも夫妻は、「自分たちの生活費を削ってでも、この子のためにできることは何でもしたい」という思いでした。また、まみさんは人間の介護職の資格を持っており、「人間の介護の経験もあるから大丈夫だろう。何とかなるさ」という気持ちもありました。

 そうして、夫婦で真剣に話し合って覚悟を決め、保護団体の代表の方に迎えたいと伝えました。

排便時に異常に興奮

「何とかなるさ」で迎えたものの、最初の1カ月は大変すぎて、大変だということにも気づかないほどだったと言います。

 みるくてぃは、生まれたばかりのときに里山の洞穴にきょうだい5匹でいるところを保護され、保護団体のスタッフと預かりボランティアさんにミルクを飲ませてもらって育った子です。

 ところが、生後1カ月近くになっても、5匹中3匹は、まともに伏せたり座ったり、立ったり歩いたりすることができず、何らかの障害があることが判明。原因ははっきりわかっていませんが、小脳の異常の影響で、みるくてぃの場合はバランスが保てない、手足が突っ張る、首がぐらつくといったことのほかに、排便時に異常に興奮するという症状がありました。

保護されたころ。いちばん左の、毛色がいちばん薄い子がみるくてぃ(奥村まみさん、想一朗さん提供)

「排便する前にものすごく興奮して心拍数が一気に上がって、頭をぶつけたりたりしそうで。危険なので支えが必要だったんですが、触れるとこちらがケガするほどでした。そのうえ、迎えてから1週間経ったのころ、みるちゃんが下痢をしてしまって。私たちはよかれと思って毛布やクッションをたくさん敷いたんですが、全部ウンチまみれのオシッコまみれ。奮闘する自分たちの手や顔、服も全部汚れて……ひどい状態でした」

試行錯誤の末、現在は人間用のおむつにシッポの穴を空けて使っている(奥村まみさん、想一朗さん提供)

 迎えて1カ月もすると、排泄物が漏れにくいオムツの作り方や、オムツ交換にも慣れてきました。

 2年経った今、みるくてぃの排泄の気配に想一朗さんはいち早く気づくことができるようになり、またみるくてぃも、排泄したくなると自分でマットの上に移動してきてくれるようになりました。

 障害があっても、お互いに慣れることと創意工夫をすることで、乗り越えてきたのです。

できることはしてあげたい

 奥村家にみるくてぃを迎えたころ、獣医師からは「おそらく歩けるようにはならないだろう」と言われていました。夫妻も、当初は「別に歩けなくても、みるちゃんはみるちゃんだから」と、歩けるようになることをとくに目指してはいませんでした。

「でもあるとき、私たち2人のほうに来ようとバタバタもがいているみるちゃんを見て、『あ、みるちゃんは歩きたいんだ。それなら歩けるようになるよう協力しよう』って思ったんです」

介護用ハーネスを使い始めて、「腰が痛くない!」と感動(奥村まみさん、想一朗さん提供)

 最初は道具も何も使わず、屈んで手で支えながら歩かせる練習からスタートしました。その後、きょうだい犬の飼い主さんから介護用ハーネスのことを教えてもらって導入してみたところ、革命的に楽なことが判明。

 さらに、まだ成長中だからと手を出せていなかった犬用車椅子も、インスタグラムのフォロワーさんが申し出てくれて、借りられることに。初日は怖くて暴れたものの、2日目には車椅子で寝てしまうほどリラックス。徐々に慣れさせて練習をするうちに、少しずつ歩くことができるようになっていきました。

車椅子にもすぐ慣れ、乗ると眠ってしまうように(奥村まみさん、想一朗さん提供)

 もう一つ大きかったのが、犬の整体師・ぱと先生との出会いです。

 きっかけは、みるくてぃのインスタグラムを見たぱと先生から、「ぜひみるちゃんに施術させてください!」と長文のメッセージが送られてきたこと。メッセージを読んで「いい人に違いない」と、昨年夏から現在まで月1〜2回、施術のために半日ほど時間を作ってもらっています。

「ぱと先生は私たちよりも、みるちゃんが歩けるようになると強く信じていて。というか、『みるちゃんはもう歩いていますよ!』とおっしゃってくれて、『そうか。他の子とは違う形だけど、みるちゃんは歩いているのか』と考え方を変えさせてくれました」

一時預かり中の子犬たちには母の顔を見せる(奥村まみさん、想一朗さん提供)

 

 現在、約2歳8カ月になったみるくてぃ。障害の症状は今も改善し続けていて、夫妻は「いずれみるちゃんが自力で歩けるようになったらいいな」と願っています。

 みるくてぃを迎えたときに、かわいい姿を見てもらいたいと始めたインスタグラムのフォロワーも、現在は2万8000人を超えています。明るく前向きなみるくてぃと夫妻のもとには、たくさんの人たちが有益な情報をくれたり、優しい応援メッセージを寄せてくれたりするそう。

 犬を大切に思う人たちの優しいコミュニティが、みるくてぃと、保護犬の預かりボランティアも始めた夫妻を中心に広がっています。

(次回は11月22日公開予定です)

【前の回】殺処分当日の朝に引き出された雑種犬「祭」 孫のように甘やかされ幸せに暮らす日々

山賀沙耶
フリーランス編集ライター。北海道大学文学部卒業後、編集プロダクション、出版社勤務を経て、独立。現在は雑誌や書籍、ウェブメディアを中心に、犬やアウトドアなど幅広い分野で活動中。犬メディアとのかかわりは、約20年前の編集プロダクション時代から。プライベートでは、2頭の雑種犬と外遊びを楽しむのが至福の時。

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この連載について
雑種犬図鑑
見た目も性格も個性豊かな雑種犬の魅力を、犬種図鑑のパロディで紹介。毎回1匹の雑種犬にフォーカスし、チャームポイントから生い立ち、暮らしのエピソードまで情報や魅力をふんだんに伝えていきます。
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