「こんにちは、文京区出身のハナお嬢です」「お嬢じゃなくて汚女(おじょ)の世話をしているはちです」(小林写函撮影)
「こんにちは、文京区出身のハナお嬢です」「お嬢じゃなくて汚女(おじょ)の世話をしているはちです」(小林写函撮影)

砂をかかない、お尻を床につけ引きずる 2匹目の猫「ハナ」がするトイレでの行動

 元保護猫「ハナ」が家の猫になって1年が過ぎた。

 家族となる犬や猫がはじめて家にやってきた日、または保護犬、保護猫なら正式譲渡になった日のことを「うちの子記念日」と呼ぶそうだ。我が子の好きなご飯やおやつをその日だけはいつもより少し多めに与えたり、動物でも食べられるケーキを用意したり、おめかしをさせて写真を撮ったりするなど、盛大にお祝いをする家もあるという。

(末尾に写真特集があります)

多頭飼い開始から1年

 うちでは、先住猫「はち」のときも、初代猫「ぽんた」のときも、何もしてこなかった。だから、ハナのときも特別なお祝いはしない。

 はじめてのうちの子記念日に、ハナは私のベッドのど真ん中で昼寝をしていた。私はハナをなでて、「うちの猫になってくれてありがとう」といつもよりやさしく声をかけた。ハナは「ニャッ」と小さく声を上げ、ゴロゴロとのどをならした。

 ふと、ベッドの壁際に遠慮がちに寝ているはちの顔を見た。すると鼻の横に小さい引っかき傷があった。おそらく、ハナに猫パンチをお見舞いされたのだろう。

 1年経って落ち着いたとはいえ、2匹の「パンパンパン!」「シャー!」は、まだたまに勃発している。

 私は、空いている手ではちもなでた。はちも、ゴロゴロとのどをならした。

 ゴロゴロの合唱を聞きながら私は、「ハナを受け入れてくれてありがとう」と、はちの労をねぎらった。

「僕もこのボールのようにバリアが欲しいな」(小林写函撮影)

 ハナは、1匹の保護猫として見た場合は、10年近くも外で暮らしていたとは思えないほど手がかからず、とても飼いやすい猫だ。気は強くツンデレ気質だが、特に欠点らしい欠点が見当たらない。

 もし一つあるとしたら、それはトイレでの行動だった。

少し困ったハナのトイレ事情

 ハナはトイレで排泄したあと、砂をあまりかけない。家に迎えたばかりのときは勢いよくかけて「さすが外で暮らす猫」と感心したのだが、気がついたらしなくなっていた。

 ハナは、砂の上に行儀よく腰をおろして用を足す。はちのようにトイレ容器の縁に両前脚をかけて腰を浮かし、ときに誤って壁に尿をひっかけることもない。だが、終わるとぴょんと飛び出して、濡れた砂の跡をちらっと振り返ると、すたすたとトイレから立ち去ってしまう。

 これだけならまだよい。閉口するのは、排便のときだ。猫砂の上にごげ茶色のコロンとした排泄物を残し、そのあと、ずるずるとお尻を床につけ引きずって歩く。

 猫がお尻を地面にこすりつけながらズリズリと前進する行動は「お尻歩き」と呼ばれる。

 ハナは、このお尻歩きを、家に迎えた当初にときどき行っていた。ネットで調べると「お尻にかゆみや痛みなどの違和感があるときの病気のアラート」とあったので、かかりつけの動物病院に相談しに行った。

 そのときは院長先生に「肛門腺が詰まっているのかもしれない」を言われ、中に溜まる分泌物を絞り出す、肛門絞りという処置をしてもらった。だが分泌物はほとんど溜まっておらず、肛門周辺に異常もなく、お尻歩きは単なるくせだろう、ということで落ち着いた。

 その後、いつのまにかお尻歩きはなくなったが、気がつくと、再び排便後に行うようになった。

「え、トイレを水洗にするって?砂洗(すなせん)ってないの?」(小林写函撮影)

 私は、便のキレが悪いのではと思い、ハナの定期検診のときに院長先生に相談した。便の状態も見てもらったが、格別問題はないとのことで、やはりくせでは、という話になった。 

マーキング?はちへの主張?

 ハナがお尻を引きずった跡が、廊下のトイレからリビングに向かってうっすらついているのを見つけると、きれい好きのツレアイは悲鳴を上げる。

「またハナがお尻を床で拭いている!ウンチをこすりつけている!」

 ハナもはちも、私の猫なので、2匹が粗相をしたら後始末をするのは私だ。その掃除の仕方がいい加減だと、またツレアイは文句を言う。たまに、排泄物のかけらが床に転がっていることもあり、ことが大きくならないよう、私はツレアイが見つける前に処理している。

「ねえ、はち。なんか外、臭くない?」「ハナのトイレじゃないの」(小林写函撮影)

 猫が排泄物を隠す習性は、その強烈な臭いから自分の居場所を敵に知られないようにするための本能だといわれる。だが家猫の場合は、しないことも珍しくはないらしい。

 その理由についてネット上にはいろいろと掲載されているが、確かなものはないようだ。

 私は、ハナが自分の存在をアピールするためのマーキングの一種では、と考えた。するとツレアイは、次のように推察した。

「僕は自分がもし猛獣のいない無人島に1人でいたとしても、排泄物は埋めるな。不潔だし臭いがするから。それをハナがわざわざ放置するのは、不快なものを放置することで、他人にその場所に踏み込ませないようにするためじゃないかな。つまり『このトイレは私の場所、入らないで』と、はちに教えるためだよ」

 そんなある日のことだった。廊下から臭いがするなと思い見にいくと、案の定、猫トイレの上にちんまりとまとまってこげ茶色のブツが放置してあった。はちより食べる量が少ないハナの排泄物は、一目でわかる。

 片付けようとしているとはちがやって来た。ハナのブツの臭いをかぐと、ザッザッと砂をかき、隠しはじめた。すっかり覆われると、自分のトイレの処理したあとのように満足そうに、立ち去った。

(次回は10月18日公開予定です)

【前の回】猫の多頭飼い 何をもって「仲がよい」とするかは飼い主それぞれ、猫それぞれ

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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