「誰かと寝たいんじゃなくて、布団で寝たいってだけなのにな」(小林写函撮影)
「誰かと寝たいんじゃなくて、布団で寝たいってだけなのにな」(小林写函撮影)

猫の多頭飼い 何をもって「仲がよい」とするかは飼い主それぞれ、猫それぞれ

 元保護猫「ハナ」が家の猫になって10カ月が過ぎた。

 愛猫「はち」の同居猫としてハナを迎えるにあたり、私はある程度距離をおきながらでも、2匹が穏やかに過ごしてさえくれれば満足だと思っていた。

(末尾に写真特集があります)

心のどこかでは期待していた

 2匹目の猫を迎えようと考えたのは、多頭飼いが楽しそうというのもあったが、同時に、飼い主依存が強くなってきたはちの気をまぎらわせ、緩和したいという気持ちがあったからだ。

 はちとハナは、ともに外で暮らした経験が長く、個性が確立された成猫同士だ。だからくっついて眠ったり、並んで食事をしたり、グルーミングをしあったりという関係にはならないだろうし、なることは望まないつもりだった。

 でも実際に暮らしてみると違った。やはり心のどこかで、 SNSの投稿に上がってくるような仲睦まじい姿を見せてくれることを期待していた。

 だからハナがはちに猫パンチを繰り出し、はちが嫌がって威嚇する「パンパンパン!」「シャー!」が続くと落ち込んだ。ハナが近づいてくると疎ましそうな顔をして逃げるはちを見ると「はちには年上のグイグイ系の猫ではなく、くったくがなくおとなしい若い猫のほうがよかったのかも」と考えたりもした。

「この家に来てから、あたし寝てばかりいるわね」(小林写函撮影)

 だが多頭飼いをはじめて10カ月が経ったころ、私は気がついた。何をもって「仲がよい」とするかは、飼い主それぞれ、猫それぞれだ。

 はちとハナが、私のベッドの上で並んでいるとき、間には常に40㎝程度の間隔がある。人間にとっては広いように見えても、2匹にとってはこれが心地よい距離なのだ。

 これ以上距離が狭まることを望むのは、飼い主のエゴだと思うようになっていた。

猫たちの寝場所

 この頃からハナは、就寝時に私の部屋に来るようになった。それまでは、おもにハナマン(ハナのマンション=ケージ)の中か、リビングのソファで寝ていた。

 最初はベッドの足元にいたのだが、そのうち、私の腰の近くに寄り添って寝るようになった。

 はちは夜、私の部屋には来るが、ベッドの後ろに重ねた衣装ケースの上で眠る。家に迎えてから3年、一度も私にくっついて寝たことはない。甘えん坊なのに謎だ。

「今夜もあたしが布団の真ん中に寝るの、はちは隅っこね」(小林写函撮影)

 初代猫「ぽんた」は、家に迎えてわりとすぐに、私の布団の上にのってくるようになった。だから、はちが一緒に寝ない、寝たくない猫だとわかり少し寂しかった。

 だが実際、睡眠の質という観点からすると、猫とは別々に寝たほうがいいらしい。「猫を押しつぶさないように」と不自然な姿勢になったり、猫の行動によって夜中に起こされ睡眠不足になったりすることがないからだ。

 また寝具に付いた毛が猫アレルギーや、ノミやダニ発生の原因になったりすることもあるという。猫とは寝ないことにしている飼い主もいると知り、最初は寂しいと思った私も、次第に慣れた。

 ちなみに本当ははちは、ツレアイとなら一緒に寝たいようなのだ。だが彼は、就寝するときは猫を部屋から追い出してしまう。だから、しかたなく私の部屋に来るのかもしれなかった。

はちの欲求に変化

 ハナが私の部屋で寝るようになり、はちに変化があった。

 早朝、私の布団の上にのってきて、髪の毛を引っ張ったり噛(か)みついたりして起こすことが、いっさいなくなったのだ。朝、6時に自動給餌器(じどうきゅうじき)からフードが出てくるまでは寝ていて、食事のあとはキッチンに移動し、朝陽を浴びながらまどろむようになった。

「この後頭部、近所のイタリアンレストランのシェフにそっくりなんだって」(小林写函撮影)

 早朝だけではない。それまで、ツレアイと2人で留守にして帰宅すると、マンションの階段をのぼってくるあたりから、「遅い!なんで早く帰ってこないの」と抗議するような甲高い鳴き声で鳴いていたのだが、これがなくなった。玄関まで出迎えにきても、ベタベタすり寄ってはこず、迎えに現れないこともある。

 さらに「遊んで」「ご飯」の要求も以前より執拗ではなくなった。

「最近、はちは落ち着いたんじゃない?」と私。

「ハナのおかげかもしれないよ」とツレアイ。

 ツレアイは「2匹目の猫を迎えるなら、はちより強くて、はちの甘えを戒めてくれるような猫だといい」と言っていた。

 だが、たとえそうだとしても、はちもハナに負けたくない気はあるようだ。

 ある夜のこと。私がベッドに入ると、足元にいたハナが私の腰あたりまで近づいてきて、布団の上で丸くなった。電気を消し、しばらくすると、衣装ケースの上で寝ていたはちが立ち上がる気配がし、トンッとベッドの上に飛び降り、ハナと反対側の私の横で、やや遠慮がちに丸くなった。

 2匹の猫に挟まれて、私はうれしい気持ちで眠りについた。

(次回は10月4日公開予定です)

【前の回】多頭飼育開始から8カ月 猫たちが見せた行動とポーズのシンクロに2匹の関係を思う

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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