モデルもお得意の「らく」(伊藤さん提供)
モデルもお得意の「らく」(伊藤さん提供)

生後10日で保護され社会化トレーニングを受けた雑種犬「らく」 立派なデモ犬に!

 個性豊かな雑種犬の魅力を紹介する連載企画。第21回は、サモエドや秋田犬のように、大きな体にフサフサの長毛を持つ「らく」。生後10日ごろからドッグトレーナーの飼い主に育てられ、人や犬を怖がることもなく、トレーニングのデモンストレーション犬をするまでに成長しています。

(末尾に写真特集があります)

【基礎データ】サモエドのように白くて長毛の大型雑種犬

DATA
《名前》らく
《年齢/性別》1歳/オス
《役割》トレーニングのデモンストレーション犬、季節の花と写真を撮るときのモデル犬など、役割いろいろ!
《サイズ》体高55cm・体⻑61cm・体重25kg
《チャームポイント》垂れ目の困り顔と、全身白いのになぜか茶色い耳
《特性》
人慣れ度★★★
犬好き度★★★
食いしん坊度★★★
運動量★★★
トレーニングしやすさ★★★
ケアのしやすさ★★☆

乳飲み子のときに保護

 生後10日ほどの乳飲み子のときに、ドッグトレーナーである現在の飼い主の伊藤さんが運営する動物保護団体によって、動物愛護センターから引き出された「らく」。愛知県内で野犬が産み落とした子犬7匹を、愛護センターが保護していたのを、もともとしつけ教室を運営していた伊藤さんの団体ですべて引き受けて世話することになったそうです。

保護して間もないころ。きょうだいも基本的にみんな真っ白だが、長毛と短毛がいるそう(伊藤さん提供)

「最初は目も開いていないし、数時間おきに授乳が必要な状態で。生後1カ月で離乳するまでは、夜もスタッフが交代でお店に泊まって一緒に過ごしていました。このきょうだいは、野犬の子にしては珍しくミルクを飲まない子もいて、死んじゃうんじゃないかと思うこともあったし、入院したり点滴したりとけっこう大変でした」と伊藤さん。

子犬はかわいいけれど、離乳するまでの世話は大変(伊藤さん提供)

 当初は、しかるべき時期になったら7匹みんな譲渡する予定でしたが、日々成長する子犬たちの世話をするうちに、伊藤さんにとって手放せないと思う子が出てきました。なぜなら、ドッグトレーニングの師匠の亡くなった愛犬「ジョイ」にそっくりだと思ったから。ジョイは人に馴れていない子で、伊藤さんもジーンズの上から噛まれたり、台所でピーマンを切っていたら後ろから襲われたりと、付き合い方には苦労してきました。

「このジョイ似の子犬に毎日接するうちに、『ジョイが触れるようになって帰ってきたんだ』と思うようになって。生後2カ月のころには、手元に置いておきたいとほぼ決めていました。それが、今の愛犬らくです」

「らく」の名前は、ジョイ=「楽しい」の「楽」からとったもの(伊藤さん提供)

 周りのスタッフにも「この子を迎えるかも」と話して、正式に迎えると決める前には一緒に暮らし始めていたそう。「結婚する前に、先に同棲を始めてしまった感じですね(笑)」と伊藤さんは笑います。

困りごとは食いしん坊ぐらい!?

 らくのきょうだい7匹は、生後10日で伊藤さんたちのしつけ教室で預かり始めてすぐに、社会化トレーニングを始めています。そのおかげか、野犬の子とはいえ、一緒に生活するうえで大きな困りごとを抱えている子は、今のところいないそう。

こんな小さな子犬のころから、リードをつける練習も!(伊藤さん提供)

「らくたちきょうだいは、生後1カ月のころには、大きなベビーカーに7匹を乗せて外に出かけていろいろな刺激に触れさせることや、リードをつけて歩く練習を始めていました。しつけ教室の店舗でいろんなお客さんや犬たちと触れ合ったり、離乳後は毎日交代でいろんなスタッフの家に連れて帰ったりと、幼いころから社会化トレーニングには力を入れてきました。そのおかげか、らくは初めての場所や人、犬でも全然平気です」

まだ子犬だけれど、桜と一緒に一丁前の決めポーズ(伊藤さん提供)

 らくを迎えたとき、伊藤さんの家には先住犬としてチワワの「姫」(現在13歳)と、ボーダー・コリーの「希姫」(キキ、現在4歳)がいました。希姫は多頭飼育崩壊家庭からレスキューした子で、迎えた当時は生後7カ月になっていたにもかかわらず、体重が5kgとガリガリ。外に出たこともリードをつけたこともなく、普通に社会生活を送れるようになるまでにだいぶ苦労をしたと言います。

「犬の性格を決めるのは、先天的な遺伝が半分、後天的な環境が半分と言われています。犬種の特性はもちろんありますが、生育環境が最悪だった希姫に比べて、生後10日からずっと社会化トレーニングをしてきたらくを育てることは、断然楽でしたね」

同居犬の姫、希姫と一緒に(伊藤さん提供)

 困ったことがあるとしたら、興奮レベルが高く人に飛びついてしまう場合があることと、食欲旺盛で盗み食いに注意が必要なことだそう。

「私はラ・フランスが大好きなんですが、ある日自分へのごほうびに果物を買いに行って、リンゴと一緒に、500円ぐらいのラ・フランスを1個だけ買ったんです。それを棚に置いておいたら、見事にラ・フランスだけらくに食べられてしまって。今までに唯一そのときだけ、もう離婚しようかと思いましたね(笑)」

雑種だからこそ柔軟に付き合いたい

 雑種の子犬であるらくを迎えるうえで、姫や希姫のときと違ったのは、どんなサイズの、どんな特性を持った犬に成長するか、まったくわからないことだと言います。

「子犬のころ、獣医さんからは体重15kgぐらいにはなりそうと言われていたんですが、らくは7匹のきょうだいの中でもいちばん大きくて。1歳7カ月の今は、体重25kgという大型犬サイズになっちゃいました」

今やボーダー・コリーの希姫よりも大きな体に!(伊藤さん提供)

 ただ、伊藤さんの場合、どんな子が来たとしても、柔軟にその子に合った付き合い方をしようと覚悟を決めているそう。

 チワワの姫は、伊藤さんがトレーナーになってからは、セラピードッグやトレーニングのデモンストレーション犬として活躍。姫が高齢になって引退し、希姫にその役割を継いでもらおうと思っていたものの、希姫は初めての場所で人に囲まれると何も指示が聞けなくなるため断念。水遊びが好きだとわかってからは、伊藤さん自身は海や水遊びが苦手であるにもかかわらず、希姫と遊ぶために海や川、プールに出かけたり、SUPやカヌーをしたりしています。

ほとんどの犬と仲良くできる、らく。野犬出身の保護犬で、仲良しの「こあ」君と(伊藤さん提供)

「らくは新しい場所に行くのも、人も犬も好き。今はしつけ教室のグループレッスンや専門学校の授業などで、デモンストレーション犬としての活動をしてもらっています。それに、休みの日には一緒に自然の中に出かけたり、季節の花の写真を一緒に撮りに行ったり。どんな付き合い方がらくに合うか様子を見ながら、自分がやりたいことと、らくがやりたそうなことを天秤にかけて、折り合いがつくことを一緒に楽しむようにしています」

(次回は9月27日公開予定です)

【前の回】雑種犬の雑誌創刊のきっかけになった「あげぱん」 古民家で悠々自適生活

山賀沙耶
フリーランス編集ライター。北海道大学文学部卒業後、編集プロダクション、出版社勤務を経て、独立。現在は雑誌や書籍、ウェブメディアを中心に、犬やアウトドアなど幅広い分野で活動中。犬メディアとのかかわりは、約20年前の編集プロダクション時代から。プライベートでは、2頭の雑種犬と外遊びを楽しむのが至福の時。

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この連載について
雑種犬図鑑
見た目も性格も個性豊かな雑種犬の魅力を、犬種図鑑のパロディで紹介。毎回1匹の雑種犬にフォーカスし、チャームポイントから生い立ち、暮らしのエピソードまで情報や魅力をふんだんに伝えていきます。
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