どんな問題犬も見捨てず信じて待つ 24時間フリーで過ごせるシェルターでケア
うなる、かむ、体にさわれない、首輪がつけられない――。そうした犬たちを迎え入れて、ケアしている動物保護団体がある。
見捨てない、裏切らない、あきらめない
静岡県焼津市の一般社団法人「わんずふりー」は、代表の齊藤洋孝さんが2021年に設立した。齊藤さんは2010年ごろから保護犬を家族に迎えて一緒に暮らしている。その中で、かんだりうなったりして「譲渡不適切」とされ、行き場がない犬がいることを知った。2014年ごろからそうした犬たちの保護を始め、そして2016年に保護シェルターを開設した。
わんずふりーは「どんな問題犬も、見捨てない、裏切らない、あきらめない」を掲げ、動物愛護センターなどの行政施設や動物保護団体から、犬たちを迎え入れている。齊藤さんによると、動物愛護センターなどの行政施設は、施設によって基準は異なるが、「かんでしまったら一般の人への譲渡はなくなり、あとは保護団体が引き取れるかどうか」だという。保護団体が何とか受け入れられればよいが、受け入れが難しい場合、わんずふりーに相談が来る。「もしわんずふりーが断ったら、殺処分になってしまう」と危惧する。
齊藤さんは、体罰を一切行わず向き合い、なぜかむのかを探り、かまなくなるためのケアを続ける。まったく触れず、おりの中でしか暮らせないと思われていた犬が、なでられるようになり、ごはんの前にお座りをして待てができるようになる。かまなくなったら、新しい家族を探す。あまりにも心に深く傷を負っている犬は、わんずふりーで終生飼養するという。
「どれだけでも待てる」
どのように犬たちと向き合うのだろうか。まず「安心と自由を感じさせること」だと齊藤さんは話す。
わんずふりーでは、犬たちが24時間、屋内外で自由に過ごすことができる。約1000平方メートルの木々に囲まれたドッグランと屋内施設をつなぐドアは24時間いつでも通ることができるため、犬たちは好きな時に屋内と屋外を自由に行き来することができる。
さらに齊藤さんは「その上で、いかに愛情を感じてもらえるか」だと言う。「とにかく信じてあげること。いつかはかまなくなる、どれだけでも待てる。もし私をかんだとしても、私のその犬に対する態度や気持ちは変わらない。そんな気持ちを伝え続けていると、みんな(かむ行為が)なくなるように思います」
静岡市の山の中で保護された犬「くまきち」は当初、ケージの中でも、人の姿を見るだけで歯をむき出しにしてほえて飛びかってきた。あまりにケージにぶつかるため、顔が切れてしまったほどだった。くまきちはわんずふりーで1年ほどを過ごし、旅立っていった。その間、少しずつ心を通わせていき、最後には抱っこもできるようになったという。
「ねねじ」と「とらじろう」
迎え入れた犬たちが変化する過程には、「スタッフ犬」の存在も大きい。わんずふりーには現在スタッフ犬や保護している犬など計25匹の犬が暮らしている。その頂点に立つのが、スタッフ犬でグレートデンの「ねねじ」だ。栃木県での多頭飼育崩壊からレスキューされた。普段は穏やかで甘えんぼうな性格だが、ここぞという時には頼りになる存在だ。
そしてナンバー2が、愛知県からやってきた「とらじろう」だ。スタッフ犬であり、わんずふりーの「新人教育係」でもある。新しく犬がやってくると、ぴったりとそばに張り付き、うなるとすぐに制するという。そしてうならなくなると、仲間として受け入れる。齊藤さんも「私の右腕」と大きな信頼を置いている。とらじろうが「教育」をやりすぎたとき、止めに入るのはねねじの役割だ。
今後、目指すことは2つある。1つは、2028年までに敷地面積1万坪超で300匹を収容可能な、わんずふりーのように完全フリー型の保護シェルターを作ることだ。そして、もう一つは、全国の保健所などにある殺処分装置を事実上撤廃させることだ。「受け入れたい犬がまだまだいるんです」
(磯崎こず恵)
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