世界新を出したスケボー犬コーダ がんを克服しサーフィンで新たな夢に挑戦
サーフィンやスケボーが得意な愛犬コーダと保護猫たちと暮らすドッグトレーナーの浅野さんから見た犬や猫たちとの暮らしをつづります。
スケボー犬コーダ、ギネス世界新
さかのぼること10カ月前。昨年の10月、私の携帯電話にイタリアから電話がかかってきました。最初は間違いだと思ったのですが、それはイタリアのテレビ局からのオファーで、「コーダとミラノへ来て、テレビ番組の中でギネス世界記録に挑戦し、その記録を破ってほしい」と言うのです。競技は、「犬がスケボーに乗って人間の足の間を通過する」というもの。それまでの世界記録は33人だそうで、それを更新してほしいということでした。
コーダはスケボー犬として、今までイベントやテレビ出演(日本の)をしたことは多々あったのですが、人間の足の間をくぐったことはありません。ましてやミラノへ行くだなんてめちゃくちゃなオファーだと私は半信半疑でしたが、挑戦してみたい気持ちがわき、オファーを引き受けてみました。
そして練習を重ねてイタリアへ。19時間のフライトを経てミラノに到着し、2024年2月27日にイタリアでいちばん大きなテレビ局であるMEDIASETの人気番組「Lo Show Dei Record」に出演し、「スケボーに乗って40人の人間トンネルをくぐる犬」としてギネス世界記録を更新してきました。
私とコーダはイタリアには2週間滞在し、ミラノからフィレンツェ、ジェノバ、ピサへと電車で移動してドッグフレンドリーなヨーロッパを堪能しました。なかでも、映画「チャーリーとチョコレート工場」の舞台にもなったミラノのガッレリーアのアーケードを、コーダがスケボーで駆け抜けたのは最高の思い出になりました。
小さな異変から腫瘍を見つける
帰国してすぐに、コーダがメインキャラクターを務めるスケボー犬の祭典「KASAMA DOG MARKET」の主催をし、コーダはタイムレースやデモンストレーションをこなしてくれました。埼玉県で開催された蓮田ロータリークラブの保護犬・保護猫のチャリティーイベントへも出展しました。そして、大手ペットフード企業のウェブCMに起用していただいたり、テレビにも出演したりと、しばらく忙しく過ごしていました。
一段落ついた2024年3月末。「明日はペットのイベントに行こう」とうきうきしていた前夜、コーダが耳をすごく痒がっていたのです。
翌朝、地元の動物病院へ行き、診察がてら「体重は変わっていないのに最近太ったような気がする」という話をしたところ、獣医師はコーダを念入りに触診したあと、「気になるところがあるのでエコーとレントゲンをとらせて」と言うのです。嫌な予感で私の心臓はバクバク……。耳を見せに行っただけなのに、なぜエコーをとるの?と動揺しました。
エコーとレントゲンを見ると、コーダのおなかの中に大きな影が写っていました。検査結果をCD-ROMに焼いてもらい、その足でかかりつけの動物病院へ。そこでもう一度エコーとレントゲンを撮ってもらいましたが、結果は同じ。腹部に腫瘍(しゅよう)のようなものが確認できる。他にも、腸の方にポコポコと影がある――。
腫瘍は悪性ならがんで、良性なら腫瘍(=細胞のかたまり)となります。場所はほかの内臓とはくっついていない部位で、おなかの真ん中より下のほう。主治医の見解では、「精巣のようだけど、コーダはすでに去勢手術をしているから、何なのかわからない」ということでした。
腫瘍の専門医を紹介してくださったので、私たちはサードオピニオンで日本小動物医療センターへ行きました。がん治療で有名な病院です。
コーダは以前から心臓病はありました。でもまさか、私のコーダががんになるわけがない! しかし、検査をしてもらうと、腹部の腫瘍は握り拳大の大きさで、リンパ節にも転移し、そこにも腫瘍ができていることがわかりました。おそらく精巣が残っていたものががん化して、未去勢の状態だったようです。というのも、未去勢の雄に見られる肛門(こうもん)腺の腫瘍も2つ見つかったからです。
コーダは何がしたいだろう?
コーダのがんの治療方法は3種類。成功率80%だけど手術としてはかなり難しいといわれているものか、放射線治療か、抗癌剤治療か。選択に相当悩みました。
この頃、コーダは急激に老いたようになり、寝ている時間が増えたり、今まで駆け上がれていた坂道を登れなくなったりしていました。私はそんなコーダの姿に動揺し、悩んで夜は涙が止まらず、20%は成功しない手術が怖くて怖くて、選択できずにいました。
そんなとき友達が「コーダじゃなくて病気を見るようにならないでね」と言ってくれたのです。
ちょうどあちこち調べて迷走し始めていたので、友人の言葉に目が覚め、私は手術をすることを選択しました。手術代は私にとってとても高額でしたが、ドッグスクールの生徒さんやフォロワーさんがたくさん応援してくれたこともあり、無事にコーダに手術を受けさせることができました。
手術は成功し、精巣がんとリンパ節へ転移した腫瘍、肛門線腫瘍を合わせて8個を摘出。がんに血管が複雑に巻きついたコーダの手術は難しく、かつ珍しい症例だったそうです。開腹手術のため、コーダのおなかには30センチの傷が縦に入りました。
入院は1週間の予定でしたが、家に帰りたすぎたコーダには鎮静麻酔が効かず、手術の麻酔から目覚めたあとから病院のケージを掻きむしり、鳴き叫ぶので、一泊で帰宅することに。帰宅後は、いつも喜んで食べていたペースト状のフードも食べられず、ひたすら眠り続けて歩くこともできませんでしたが、日ごとにどんどん回復し、術後20日目には海で遊び、26日目にはサーフィンができるほど元気になりました。
そこで私たちは最後の夢をかなえることにしました。
もう一度、夢に挑戦
アメリカ・カリフォルニア州で開催される、ドッグサーフィン世界大会に出場するのが長年の夢でした。まず、私の航空券をとり、コーダの分は出発日までに体調が優れなければ連れて行かないことを選択肢にいれ、当日支払う航空券にしました。
手術から3カ月。コーダはまるで若返ったかのように元気になり、長時間サーフィンをしていてもまだ遊びたがり、起きている時間も再び長くなりました。散歩のあと庭でするボール投げが楽しみで、急ぎ足で帰ることもしばしば。
そうして私たちは8月3日のドッグサーフィン世界大会に向けて、サンフランシスコへ向かいました。大会の結果は、ミディアムドッグサーフィンの部の銀メダルを獲得! 日本から渡米し、初めて入る海なのに、コーダは堂々とサーフィンしていて本当に立派でした。
昨年、ビデオエントリーしていた同大会の結果発表もされたのですが、そこではミディアムドッグサーフィンの部で金メダル、犬と犬のタンデムサーフィンの部で金メダル、犬と人のタンデムサーフィンの部で金メダル、そして最優秀選手賞で銅メダルを獲得。日本に持ち帰ったメダルは全部で5個になりました。
現地へは英語を話せない私とコーダだけで行ったのですが、インスタグラムでつながっていたドッグサーフィン界のスター犬であるCARSON(カーソン)とパートナーのJILL(ジル)さんにサーフボードを借りて、大会に出場することができました。大会翌日には、世界で1番会いたかったサーフィン犬のSkyler(スカイラー)に会いに行き、一緒にサーフィンをしました! ずっと憧れていたサーフィン犬たちとそのパートナーたちと友達になれたなんて、今でも信じられません。
悔いのないように育てる
コーダのがんが発覚したときは、「全てが終わる」と絶望感でいっぱいでした。コーダが生きていないなら、自分も生きている意味がないとすら思いました。自分の息子のように育てて、一緒に成長してきた親友でもあり、仕事のパートナーでもあり、コーダがいるだけで大舞台に立っても緊張せずにいられるのです。もう、ドッグトレーナーを続けるのは無理かもしれないとも考えていました。
再び楽しめるようになったのは、まさに奇跡。神様からもう一度チャンスと命を与えられたのだと思い、今まで以上に時間を無駄にせず、真剣に生きなければと感じたんです。だから「コーダが命を全うするときに後悔がないように育てる」ことをかなえずに、長年の夢を夢のままで終わらせていたら、くやしくてたまらなかったと思います。
獲得した銀メダルは私たちにとって本当に特別で、輝いて見えて、コーダにはたくさん「ありがとう」を言いました。コーダは私が喜んでいて、うれしそうでした。
コーダと出演したCMのキャッチコピーが「いっしょに、めいっぱい、生きていこう。」というものだったのですが、コーダのがんがわかった時、その言葉にとても励まされました。コーダは犬だから、私がよく観察して、体調やメンタルに無理の無い範囲で、これからも一緒にめいっぱい生きていこうと思います。
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