日々の過ごし方から旅行まで 猛暑の夏、犬を守るために飼い主ができること
「公益社団法人アニマル・ドネーション」(アニドネ)代表理事の西平衣里です。私たちアニドネは「日本の動物福祉向上」を目指して活動をしています。動物の福祉のレベルをあげるために必要なのは、人間側が犬猫の生態を理解し、彼らが心地よい環境やマインドをつくることに他なりません。
人間だって逃げ出したくなるほど暑い夏。愛犬たちの「もっとこうして!」に気づける賢い飼い主でいるために知っておくべきことをまとめました。
知らなかったじゃすまされない
私が住んでいるエリアは大きな公園の近くだからか、愛犬家の多い街です。マナーも悪くない印象です。しかしこの季節、炎天下に犬を連れている飼い主を度々見かけます。これは明らかににNG行動。だまっていられなくて意を決して「この時間の散歩は犬につらいのでは?」と声がけするものの「毎日のことだから」とか「うちの子は平気みたいですよ」と言われた経験があります。つまり、愛犬家の方でも知識がないがゆえに間違えた行動をしてしまうことがあると感じています。
今回、夏に特に気をつけたい、犬のために知っておくべきことを獣医師さんに取材しました。
- 池 英里先生
- 獣医師、株式会社ライフメイト経営企画本部長、株式会社LVG ライフメイト動物病院グループ事業部長。個人の活動としてアニドネのボランティアチームに所属する。愛犬は、多頭飼育崩壊からレスキューされた「きなこちゃん」。ライフメイト動物病院グループの山口獣医科病院は猫のTNR活動に積極的だ。
「犬の熱中症は命にかかわります。素早い対応を」
実は、私の愛犬は昨年、エアコンの効いていないマンションの廊下を200mほど歩いたあとに嘔吐が続き、動物病院に駆け込みました。急いで点滴をしてもらい事なきを得ましたが、その時愛犬は18歳。凍り付いた経験でした。
「病院にも毎年熱中症で運ばれてくる犬がいます。嘔吐や体温の上昇、意識レベルの低下といった症状がみられます。犬の体温は平常で37度から38度台ですが、41度前後まで体温が上がるとかなり危険です。また犬はよく吐く動物だから、と放っておくと取り返しのつかないことになります。とにかく、いつもと違う行動が見られたら動物病院に駆け込んでください。また、この季節の散歩は、早朝か日が沈み涼しくなってからにしてください。犬種や排せつ習慣によりますが、暑すぎる日はお散歩をスキップしてもいいと思います。それくらい酷暑だし、犬は人よりさらに暑さに弱いです」
【暑さに対するお役立ち情報】
●犬の体温を下げるために氷水に全身をつけるのはNG。熱を放出するために拡がった血管を縮めてしまい逆に体温がこもってしまう。氷や凍った保冷剤をわきの下や股、首のあたり(太い血管部分)に当てる、もしくは流水やぬらしたタオルをかけてうちわなどで扇ぎ、気化熱で体温をさげるほうが有効
●お散歩に出たときに、自分の手や素足でアスファルトを触ろう。犬用の靴も有効
●灼熱下のマンホールは肉球がただれることも
●車の中で待たせることは短時間でも危険。エアコンをつけていても直射日光で車内温度があがることも
犬連れでレジャーを楽しむことも増える夏。工夫することは?
夏休みは愛犬を連れて避暑地に行く計画をしている方もいるでしょう。一緒に楽しく過ごせることは、とても素晴らしいこと。だけど日常と異なる環境では、より一層の注意が必要です。アドバイスを池先生に伺いました。
「実はバーベキュー時の誤飲で運ばれる犬が夏は多いんです。愛犬が肉の骨やバーベキューの串を飲み込んでしまい、慌てて病院に来られます。レントゲンやエコーで判断し、吐かせるか内視鏡で取り出します。飲み込んだ直後の犬たちは割と平気な顔をしていますが、放っておくと最悪の場合、消化管に穴が空いて、命に係わる状況になってしまう場合もあります」
バーベキューなどでは、飼い主も楽しくなって犬を放置してしまいがち。おいしい肉の匂いにつられて思わず骨付き肉を食べちゃった、ということは想像にやさしいですよね。飼い主さんは犬から目を離さないことも大事です。
【レジャー時のお役立ち情報】
●積極的に海や山に出かけるなら、混合ワクチンはレプトスピラも入った8種以上がおすすめ
●海や湖、プールなどで犬と水遊びを楽しんだあとはしっかり乾かしてあげて。皮膚トラブルは夏に急増
●花火の大きな音は犬によっては恐怖でしかない。パニックを起こして脱走さないように気を付けて
●使い慣れているキャリーケースやクレートも要注意。夏は中の湿度や気温があがって危険になることも
家の中はエアコンをいれっぱなし。それでも危険が!?
この季節は27度位でエアコンはつけっぱなしにしています。屋内なら安心では、と思うものの、毛皮に包まれた犬たちはリスクがあるようです。
「例えば飼い主さんが出かけたとき、エアコンをつけっぱなしで犬をハウスに入れました。しかし、ハウスの場所は時間によって直射日光が当たり熱中症に、ということも起こり得ます。犬たちが日光から逃げられるスペースを作ってあげましょう。また気温もそうですが、できれば除湿機能も使ってあげたいですね。犬は気温25度前後、湿度は50%くらいを好みます」
【室内時のお役立ち情報】
●エアコンは常時つけておき、温度設定は25~27度に。ただし、冷え過ぎからの逃げ場も必要
●クールアイテム(ひんやりシートやバンダナなど)を活用する
●飲料水は新鮮なものをたっぷりと。一日2回は新しい水に変えてあげよう
良かれと思ってサマーカット、二度と毛が生えてこないことも!?
「飼い主さんが良かれと思ってサマーカットにしたことで、アロペシアXという病気を発症してしまうことがあります。ポメラニアンやプードルに多い症状です。脱毛症となり、二度と毛が生えてこない原因不明の病気です。長毛種の飼い主さんでもこの病気のことを知らない方が多いので、飼い主責任として知ってほしいと思っています。脱毛症にならなかったとしても、短すぎて直射日光があたり逆に暑くならないよう、配慮したいですね」
私が19歳の老犬と暮らす中で気にしているのは、愛犬が平熱かどうかを把握すること。触ることによって手で感じる、舌の色を見る、呼吸の回数やリズムを観察することで確認し、そこに気圧による影響も加味します。敏感なのが「気圧」。なんだか調子悪そうな日は必ずといっていいほど気圧が低い日です。夏は気圧も乱高下しがち。そんな日は決して無理はさせません。
夏休み真っ最中。「今年の夏も楽しかったね」で終われるよう、正しい知識を身につけることが愛犬たちの幸せにつながります。しゃべらない犬たちだからこそ、飼い主が賢く判断して家族みんなが健康にこの夏を元気に乗り切ってほしいものです。
(次回は9月5日公開予定です)
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