マンションの4階から逃走、飛び降りて行方不明になった愛猫 11日間の大捜索
「大切なペットが脱走した!もう戻ってこないのでは……」そう感じている方に知ってほしい。逃げた犬や猫の帰還ストーリーと、経験者に聞く保護のアドバイスです。
4階から飛び降り…
- 【逃げたペットについて】
- 名前:あんず
性別:メス
種類:サビ猫のミックス
年齢:脱走当時1歳(現在7歳)
逃げた状況:同居猫が開けた二重扉を抜け、玄関を開けたところでマンションの廊下に出て4階から飛び降りた。
保護までの日数:11日
埼玉県で2匹の愛猫と暮らすIさん夫婦は、2019年、“愛娘”のあんずの脱走を経験した。
「その日は妻が海外旅行に出発する日で、私は妻を空港に送り届けるため、家の中は朝からバタバタしていました。妻を送り1人で帰宅し、ドアを開けた瞬間、玄関からあんずが飛び出してきたんです」
とっさに状況を確認すると、普段は閉めてある玄関の前の二重扉が開いている。「きっと、同居猫のぽんずが、遊びの延長で開けたのだと思います」とIさんは振り返る。
「あんずはもともと、環境の変化に敏感な性格なんです。旅行の準備で、普段と違う家の中の様子に不安になったタイミングで二重扉が空いていたので、家族が出て行った扉の向こうを確認するつもりだったのかもしれません……」
自分でも思いがけず外に出てしまい、知らない場所にパニックになったあんずは、マンションの廊下を走り回って逃げた。
「あんずは何度か廊下を往復すると、ぴょんと廊下の塀に飛び乗りました。そして、私の目の前で、止める間もなく、塀の下に飛び降りてしまったんです。本当に一瞬のことでした……」
ペット探偵と捜索
- 【いなくなった時にしたこと】
- ・ペット探偵を呼び、猫の探し方のアドバイスを受けた
・迷子チラシを作成した
・脱走経路を防犯カメラで確認した
・毎日同じルートを通って異なるエリアを捜索した
Iさんの家は、マンションの4階。あんずが飛び降りた塀の下は、住民用の駐車場になっている。「もうダメかもしれない……」と絶望的な気持ちになりながら、Iさんは駐車場に走った。しかし、飛び降りたはずの位置にあんずの姿は見えない。
「車の下を一台一台確認し駐車場をくまなく探したけれど、あんずはいませんでした。自分だけではどうしていいか分からず、テレビで見ていた有名なペット探偵の方に電話をかけると駆けつけてくれました」
捜索範囲をマンション全体に広げ、ペット探偵や近隣住民とともに探すものの、あんずの影も形も見つからない。
なんとしてでもあんずを探し出したいIさんは、ペット探偵から猫の習性や探し方についてアドバイスを受け、あんずが見つかりやすくなるよう迷子チラシを作成した。
「目からウロコだったのが、『サビ猫』のような猫飼いにとってはなじみのある表現も、猫を飼っていない人には伝わりにくいということ。言葉の表現や写真の選び方まで、プロならではの視点でアドバイスを受けられたので、とても助かりました」
しかし、チラシを配ってみてもあんずらしき目撃情報は見つからない。Iさんは、連日仕事を休んであんずの捜索を続けたという。
防犯カメラに映る姿
あんず脱走から2日後のこと、捜索に一筋の光がさした。あんずが落ちた場所に設置されていた防犯カメラの閲覧許可が出たのだ。
「もともと、防犯カメラは事件以外では開示できないルールなのですが、ダメ元で事情を説明したところ、マンションの理事長が命の重さを理解されている方で、管理人立ち会いのもと、特別に見せてもらえることになったんです」
早速、映像を確認すると、4階から落ちたあとのあんずの足取りがわかった。
「あんずは4階の廊下から落ちて駐車場に着地し、そのままフェンス沿いに走って出入り口から駐車場を出て行きました」
防犯カメラはあんずの無事とともに、捜索の重要なヒントも教えてくれた。
「映像を何度も見返して気づいたのが、あんずが壁沿いに移動しているということでした。猫が壁沿いに移動する習性があるなら、駐車場を出てすぐ道路を渡ったのではなく、壁がある道に沿って歩いて行ったはずだと思ったんです」
そこでIさんは、あんずが出て行った方向から、壁や石垣のある道に沿って捜索を始めた。まず、区役所で地域の地図を取り寄せ、捜索が済んだエリアに色をつけた。
捜索を始めてから数日後には、旅行の日程を縮めて帰ってきた妻も捜索に加わった。夫婦は、1日20時間以上、朝から晩まであんずを探して歩き回り、有力な情報を得ると、探偵に協力を仰いで重点的に探したと言う。
精神的にも肉体的にも、限界に近い状態ではあったが、Iさんはあきらめてはいなかった。
「希望というよりも、どんな状態であっても必ず見つけなくてはいけないという使命感でしたね。探偵さんの話では、行方不明の猫が見つかりやすいのは、外に慣れてくる10日前後なのだそうです。はじめは1カ所でじっと隠れている家猫も、そのタイミングで空腹を感じ始め、ごはんを探すために移動し始める。あんずの脱走から10日を前にして、なんとしてでもこのタイミングで捕まえなければと必死でした」
10日目の奇跡
Iさんの必死の思いが通じたのか、状況が変化したのは、脱走から10日目だった。
猫の存在に注目しながら、毎日同じルートを通り捜索していると、猫の集まる場所や通りやすい道、猫がこないエリアが感覚的につかめてくる。Iさんは、その日もいつもと同じルートを通って、まだ調べていないエリアに向かうところだったと言う。
「ふと気配を感じて見ると、家と家の隙間の壁に、あんずに似た猫のシルエットが見えました。そこで壁沿いに地域の保護団体から借りてきた捕獲器を設置したのですが、捕まらず、いま一度探偵さんを呼んで、作戦を立て直すことにしたんです」
翌日、20時。Iさんの案内で現場にやってきたペット探偵は、周囲を調べたのち、塀を渡って行った先にある、工事現場の資材置き場に捕獲器を設置した。Iさんが現場に残り、祈りながら待ち続ること4時間。最初にかかったのは、あんずではなかった。
「24時をまわった頃でした。捕獲器が閉まる音が響き渡り、同時にあんずに似た小柄な猫が逃げて行く影が見えたんです。近づいて確認してみると、中にいたのは近所のボス猫でした」
一瞬落胆したIさんだったが、逃げた猫の影があんずだったかもしれないと思い直し、ボス猫を逃して再び捕獲器セットし、帰宅。明け方にもう一度見に来ることにした。
「朝5時に再び現場に訪れると、遠目に猫が入っているのがわかりました。中を確認すると、あんずが入っていたんです」
Iさんはうれしくて跳ね上がりそうになるのを必死で抑えて、家で待つ妻に連絡した。捕獲器を抱えてマンションまで帰宅し、入り口で待っていた妻とともに、明るい場所であんずの顔をしっかりと確認したと言う。
あんずの帰還
- 【今回の教訓】
- ・環境の変化に敏感な猫は、動揺させないよう生活する
・迷子チラシは“猫飼い用語”を使わない
・猫がいる場所、いない場所を知っておくと、変化に気づきやすい
・脱走10日前後が捕獲のチャンス
・近所に防犯カメラがあれば、見せてもらえると足取りをつかみやすい
・臆病な猫は、壁沿いに移動する可能性が高い
捕獲器ごと運ばれている間、あんずはずっと鳴きつづけ、声が枯れていた。
「状況が飲み込めず怖かったのかもしれませんね。でも、家に戻って体に触れたらケガもなくきれいでした。もしかしたら、あのボス猫にずっと守ってもらっていたのかもしれないね、と妻と話したのを覚えています」
健康状態に問題はなかったものの、あんずの体重は1キロも落ちていた。
「うんちをみると、葉っぱや植物の茎ばかりでしたね。やはり、探偵さんの言うように空腹で行動範囲を広げたところだったようです。このタイミングで捕まらなければどうなっていたか。見つかって本当にほっとしました」
衝撃の脱走劇からおよそ6年。あんずは現在、兄弟猫のぽんずとともに元気に暮らしている。Iさんはあんずの脱走経験から、自分たちが注意すべきことを改めて考えたという。
「あんずは、変化にとても敏感な子なんです。日常の変化があんずの心に負担をかけることがわかっていたのに、あの日はあんずを気にしてやる余裕がなかった。あれ以来、ささいな出来事でもあんずの様子に注意して、ケアしてあげることを忘れないようにしています」
【前の回】ペット用キャリーの底が開いて愛猫逃走! ペット探偵に依頼し15万円支払ったが…
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