日本救助犬協会の第30回災害救助犬認定審査会が4月7日に実施された。捜索試験、服従試験がそれぞれ午前中に行われ、合否判定を待つココ。「合格 8番 ココ」が言い渡されるまでハンドラーの私がもっとも緊張したかも
日本救助犬協会の第30回災害救助犬認定審査会が4月7日に実施された。捜索試験、服従試験がそれぞれ午前中に行われ、合否判定を待つココ。「合格 8番 ココ」が言い渡されるまでハンドラーの私がもっとも緊張したかも

災害救助犬の出動「これが最後であってほしい」と願う 眼前の光景に気持ちが揺らいだ

 ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬の「ココ」(ボーダーコリー/メス11歳)との生活に込められた、喜びや挑戦を伝えていきます。

(末尾に写真特集があります)

これが最後の出動であってほしいと願う

 NPO法人日本救助犬協会の能登半島出動チーム6人は1月3日の13時過ぎ、北陸自動車道の金沢森本インターチェンジで高速道路を降りて、能登半島の北部、輪島へと向かっていた。

 高速道路を降りる前にSAでガソリンを満タンにした。地震直後の輪島市内ではガソリンスタンドは開いていない。仲間が携行缶にガソリンを積んで来たとはいえ、唯一の交通手段である自動車がガス欠を起こしては身動きがとれなくなる。私の車は満タンにすれば800キロは走れる計算で、これでひと安心だ。

 ココはおそらく最後の休憩となるため、ケージから出しておしっこをさせた。「もう少しの辛抱だからな」と頭をなでる。

 千葉をたっておよそ12時間、目的地の輪島消防署門前分署まであと100キロほどだ。途中で3回ほど休憩をとり、ココには1度、朝食にドッグフードをあげた。

 白髪が増えた目の周りを見ながら、これがココの最後の出動であってほしいと願う。月に2回から3回、捜索訓練に励むのだが、その一方で災害救助犬が活動するような震災が起きてほしくないと切に望んでいる。

災害救助犬認定審査会の翌日、朝の散歩で「さくら咲く」。認定犬に合格したココ(左)とこれから災害救助犬を目指す7カ月のハリー

最新情報を得ながら走っていたが…

 元日の地震で金沢市は震度5強だったが、運転席から見える市内の建物や道路には特に変わった様子は見られない。ガソリンスタンドもさまざまなお店も開いている。もっとも建物の中は物が落ちたりしているのかもしれない。

 車は日本海に出て、金沢と能登半島を結ぶ海沿いの自動車専用道路、のと里山海道を北上した。

 金沢から40キロほど北の羽咋市(はくいし)に入ったあたりだろうか、のと里山海道は通行止めとなり、一般道に降ろされた。ここからの道はひび割れ、陥没、隆起などで走行がかなり厳しくなるのだろう。そう覚悟を決め、スピードを落とし、路面に注意を払った。後続2台の“道先案内”を任されているというプレッシャーものしかかる。できるだけ短いルートで安全な走行を心がけながら、現地に一刻も早く到着したいというはやる気持ちが交錯する。

 一般道ははじめスムーズに進めた。「震災の被害は意外と広がってないのかもしれない」と思いかけた途端、前方に赤い三角コーンが見えた。近づくと道は大きくひび割れ、端が陥没していた。車を止め、破損状態を確認しながら、ゆっくりと迂回(うかい)した。後続の2台は心配そうにこちらの走行を見守りながら、間隔をあけてついてきた。

道路が突然、ひび割れて陥没していた。矢印の方へ進むと民家の敷地に入るように誘導されて寸断された道を迂回した

 元日の地震で震度7を記録した志賀町は輪島市の南に隣接する。この町に入るあたりで、前から来た車が私たちの進む道をふさぐように止まった。「どうしたんだろう」と思う間もなく、運転席から人が降りてきて「この先は土砂崩れで通れません。迂回してください」とまくし立てた。インターネットの道路情報ではまだこの先は通行止めになっていない。

 運転手の慌てぶりや道を封鎖する三角コーンなどがまだ設置されていないところを見ると、直前まで通行できていたのだろう。おそらく元日の地震で緩んだ地盤が、今日3日の午前中の地震で崩れてきたのかもしれない。余震、恐るべしだ。

 最新の情報を得ながら走っていたいので、まさか土砂崩れによって行く道を阻まれるとは思わなかった。私たちの車が、その場所を走っていた時に土砂崩れが起きたらと思うとゾッとした。もちろん、そんな確率は極端に低いだろうが、ないとは言えない。やむなく来た道を引き返して別のルートを探す。

 やはり震度7の地震とその余震の影響は計り知れない。志賀町を走っていると自宅の壁が崩れ落ちたり、屋根の瓦が落ちていたりする家があちこちに現れ始めた。そんな海沿いの集落をいくつか抜けながら、北に進めば進むほど地震の爪痕が激しくなっていくのがわかった。家が傾いていたり、電柱が斜めにかしいでいたりする光景が増え始めた。

石垣の上にあったブロック塀が崩れ落ちている。道の端に寄せられていたが、災害直後でまだ片付ける余裕もない

見たこともない光景に気持ちが揺らぐ

 それにしてもケージに入った救助犬は2頭とも静かだ。特にココはほえもしなければクンクンと鳴きもしない。普段から要求ぼえはまずしない。体位を変えるためにたまに立ち上がって動くくらいだ。犬に煩わされなくて済むのはありがたい。

 すると突然、道の真ん中に1メートルほど何かが飛び出しているのが見えた。「うわっ!」と思わず声を出した。スピードを落として反対車線に入り、突起物を回避する。助手席に座る仲間に「何これ?」と問いかけた。

 帰ってきた答えは、「マンホールですよ」。

 耳をうたぐった。地震の揺れによってマンホールの土管だけが道から浮き上がっていた。生まれて初めて見るその姿に、ついつい目を奪われてしまう。「ちゃんと前を向いて運転してください!」と助手席の仲間に怒られた。

 予想はしていたが、次々に現れてくる惨状に気持ちが揺れた。

車の助手席から撮影した動画。走行中に突然現れた2つの「道から突き出たマンホール」。異様としか言いようがない

(次回は5月1日に公開予定です)

【前の回】人より軽くて動きが機敏な救助犬が必要 能登に向けて災害救助犬のココが出動

河畠大四
フリージャーナリスト、編集者、災害救助犬ハンドラー、日本救助犬協会 救助犬部副部長。1984年小学館入社、ビッグコミックで手塚治虫担当ほか。1989年朝日新聞社入社、週刊朝日、経済部などで記者、編集者を務める。2020年に早期退職して、テントと寝袋を積んで日本縦断自転車ひとり旅に出る。自転車旅と救助犬育成を中心にX(@e37TQUBRKJcf49z)「ココ&バイク」で発信中。

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この連載について
災害救助犬、ココと行く
ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬のココとの生活に込められた喜びや挑戦を伝えていきます。
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