災害救助犬のココと能登半島へ向かう 3日分の持ち物をそろえて万全を期す

能登半島出動に持参する食料品などをココのクレートの上に並べてみた

 ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬の「ココ」との生活に込められた、喜びや挑戦を伝えていきます。

(末尾に写真特集があります)

出動に備えて持ち物をそろえる

 1月2日19時9分、NPO法人日本救助犬協会の救助犬部から私とココが所属するTEAM7に、能登半島への出動決定の連絡が入る。集合時間、場所を調整した結果、22時18分、出動チームは「3日6時に中央自動車道の諏訪湖SAに集合」、目指すは被害の甚大な珠洲市に決まった。

 2日は出動が決まる夜まで自宅待機が続いていたので、昼間に出動に備えて持っていく物を確認した。個人用防護具(PPE)や制服・制帽、宿泊品や食料品、デジタル無線機などの備品だ。

 PPEは、ひと月ほど前の12月6日に実施した取手・我孫子消防との合同訓練で装備したため準備ができている。

 例えば頭を保護するヘルメット、周囲を照らすヘッドライト、目をカバーするゴーグル、防塵(ぼうじん)対策用マスク、騒音対策用の耳栓、緊急連絡用の笛、ひじ当て、ひざあて、手袋に安全靴などだ。これに加え、能登半島は3日、雨予報だったので雨具も用意した。レインウエア、長靴、傘、レッグカバー(スパッツ)など。

 車の中で寝るための寝具も必要だ。冬用の分厚い寝袋、携帯カイロ、ネックウォーマーなど。寒がりの私にとって防寒対策は念入りにする。ウールの下着に帽子、スキー用の靴下、ダウンベストにダウンジャケットなど。

 身につけるものだけではない。デジタル無線機や懐中電灯、携帯の充電器、折りたたみ椅子なども忘れられない。ガス欠にならないよう携行缶に入れたガソリンも持っていくことにしたが、携行缶がなかったので、一緒に行く仲間に持参をお願いした。被災地のガソリンスタンドは閉鎖されているし、その周辺のガソリンスタンドでも朝から長蛇の列になっていると報道されていた。さぞや現地も混乱していることだろう。出動は原則完全自立型なので、必要と思われるものは持っていくよう万全を期したい。

 これらの装備品に加え、食料品や犬のドッグフード、排せつ用品も持っていく。災害地での調達は店が閉まっていてできない。水2リットルのペットボトル6本にカップ麺、缶詰、レトルト食品にシリアルバーなどの栄養補助食品、途中のサービスエリアなどではパンなどの食料品も買い足したい。お湯を沸かす携帯コンロも必要だ。2泊3日分を想定しておけば、なんとかなるだろう。

 家の中や外でそれらの準備をしていると、庭でながめていたココがソワソワし出した。どこか遊びに連れて行ってくれると思っているらしい。確かに、2年に1度くらいしかない災害地への出動などとは思ってもいまい。私だってそうだ。そんな正月を過ごすとは思ってもみなかった。しかし災害はお盆も正月も関係ない、油断こそ大敵なのだとあらためて認識する。

車の横に「救助犬」、後ろには「救助犬輸送中」のステッカーを貼る。どのくらいの人が気づいてくれるだろうか

 いつ起きるかわからない災害だが、ひとたび発生すると捜索活動は時間との闘いだ。そのひとつの目安が災害発生時から72時間。能登半島地震でいえば1月4日の夕方になるのだが、72時間を超えると生存率が厳しくなると言われる。

 実際、国土交通省近畿地方整備局が発災7年後の2002年にまとめた「阪神・淡路大震災の経験に学ぶ」には、救出者中の生存者の割合(生存率)の推移が掲載されている。地震発生当日1月17日の生存率は74.9%、18日は24.2%、19日は15.1%、20日が5.4%だった。「早く助けるほど生存の確率は高かった」と結論づけている。

 もっとも今回の地震では珠洲市で90代の女性が倒壊家屋の1階でがれきに挟まりながらも、124時間後に救出されている。夜間の冷え込みや高齢であることなどを考えると、人間の生命力の強さに驚かされる。

捜索訓練時のココの様子。要救助者は2階の箱の中に隠れている。体臭が地上に落ちてきて、それを嗅ぎ取ったココはあっという間に2階へかけ登った

深夜に出発!

 3日の午前1時半過ぎ、私はココを車のクレートに入れて千葉の自宅を出発した。

 幸い、直前の2時間だけだったがぐっすり寝られた。目覚めがスッキリしていたのは、2021年7月の熱海の土石流災害以来の出動で緊張していた上、「救助の一助になりたい」と高揚していたからだろう。

 熱海の時も午前1時過ぎ、ココを乗せて自宅を出た。出動時は深夜に出発することが多い。千葉県浦安市に当時あった訓練場に2時に集合、出動メンバーは隊長、サポーターとハンドラー2人の計4人、救助犬は2頭だ。熱海の災害現場は山の斜面で現場へ行く道路は道幅が狭く駐車スペースもないため、自分の車は訓練場に置いてワゴン車一台に全員が乗り込んだ……。

 午前3時半過ぎ、諏訪湖SAに向かう途中、東京で仲間1人、救助犬1頭とその荷物をピックアップする。小さな自家用車は後部座席を倒して荷室にしても満杯になった。ココはふだんと違う車内の真ん中に追いやられて少し戸惑ったような表情で顔を出した。いつもならハッチの扉を上げたすぐのところにクレートを置くのだが、今日は荷物をたくさん積んでいるので、ついつい後ろに追いやってしまった。

いつものクレートの場所と違うので少し不安げな顔をして私を見るココ

(次回は4月3日の掲載予定です)

【前の回】愛犬を災害救助犬に! 犬種や血統を問わず、飼い主自身の訓練によって育成する

河畠大四
フリージャーナリスト、編集者、災害救助犬ハンドラー、日本救助犬協会 救助犬部副部長。1984年小学館入社、ビッグコミックで手塚治虫担当ほか。1989年朝日新聞社入社、週刊朝日、経済部などで記者、編集者を務める。2020年に早期退職して、テントと寝袋を積んで日本縦断自転車ひとり旅に出る。自転車旅と救助犬育成を中心にX(@e37TQUBRKJcf49z)「ココ&バイク」で発信中。

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この連載について
災害救助犬、ココと行く
ジャーナリストで災害救助犬のハンドラーとしても活動する河畠大四さんが、愛犬であり信頼を寄せる災害救助犬のココとの生活に込められた喜びや挑戦を伝えていきます。
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