「僕はひとりじゃ遊べないんだ」(小林写函撮影)
「僕はひとりじゃ遊べないんだ」(小林写函撮影)

「はち」は猫エイズのキャリア猫 獣医師の反応は渋く否定的、それでも2匹目を考えた

 野良猫だった「はち」を家に迎えて2年が過ぎて春になった頃、私は以前から頭にあった計画を実行に移そうと考えていた。

 それは「2匹目の猫を迎える」という計画だ。

(末尾に写真特集があります)

幸せも2倍に?

 はちと暮らすようになってから、仕事でもプライベートでも、猫を飼っている人と知り合う機会が増えた。そこで驚いたのは、1匹よりも、2〜4匹の多頭飼いをしている人のほうが多いことだった。1匹の世話でも大変なのにと思ったが、彼らは「数が増えてもあまり変わらない」と口をそろえた。

 それどころか「猫同士で社会を作ってくれるため、飼い主にべったりにならないのが利点。留守中も退屈ではないかと心配する必要がなく、むしろ1匹飼いより楽」と言う。

 そしてなにより、個性豊かな猫たちがじゃれあったり、並んで食事をしたり、昼寝をしたり、人間に甘えてきたりという様子は愛らしく、見ているだけで幸せな気持ちになるのだそうだ。

 もちろん、医療費や飼育費は猫の数だけ膨らむし、ほかにも苦労がないわけではないだろう。だが多頭飼いには、それらを差し引いても余る魅力があることは、彼らの家で少しの間、猫たちと過ごすだけでも伝わってきた。

「野菜の苗、早く畑に植えないと徒長しちゃうよ、僕も転がれないし」(小林写函撮影)

 それで「うちにも、もう1匹いてもいいかもしれない」と思ったのだが、すぐには踏み切れなかった。はちにダイエットさせたり、歯磨きトレーニングをしたり、ストラバイト結石になって通院させたり、ご飯の催促が激しくなって自動給餌器導入をしたりと、生活がなかなか落ち着かなかったからだ。

ツレアイの意外な反応

 これらが一段落した頃、私は、ツレアイに恐る恐る切り出した。

「もう1匹猫を迎えるのはどうかな」

「えーっ、まだ飼うつもりなの!」

 ツレアイは、先代猫の「ぽんた」を迎えるときも、はちのときも最初は反対した。生き物を飼うのは責任を伴うし、お金もかかるし、亡くなったときにつらいから、というのがおもな理由だった。

 あきれた様子で文句を言いながらも、「でも、はちにとってはいいかもしれない」と意外な反応を示した。

「おじちゃん、まだ起きてるの。早く寝ないとおばちゃんにしかられるよ」(小林写函撮影)

 はちは、家に迎えて2年が経つ頃から、私たちへの執着が強くなってきていた。2人で留守にして帰宅すると、マンションの階段をのぼってくるあたりから、甲高い鳴き声が聞こえてくる。「遅い!早く帰ってきて」と責められているようだ。ご飯だけでなく、「なでて」「遊んで」の要求も、以前より激しくなってきた。

「はちは、退屈なのかもしれない。もう1匹猫がいれば気が紛れて落ち着くかもしれない。できれば、はちより強くて、はちの甘えを戒めてくれるような猫だといいね」 

 とツレアイは言った。

 私は、そういう猫がはちに合うのかどうかは疑問だったが、とりあえず、同意は得た。

「すすめられない」と主治医

 だが、ひとつ問題があった。はちは猫免疫不全ウイルス、通称「猫エイズ」のキャリアだ。猫エイズは、喧嘩(けんか)等でウイルスを持つ猫にかまれると感染する。同居猫がいた場合は移してしまう危険性が高い。

 知り合いからは「猫エイズキャリア同士だったら感染の心配はなく、問題はない」と言われた。それでも念のため専門家に確認したほうがいいと思い、私はかかりつけの動物病院の院長先生にたずねた。

「首長いね、僕には無理だな」(小林写函撮影)

「うーん、もう1匹ですか」と院長先生は渋い顔をした。

「猫はもともと単独で狩りをして生きていたので、1匹でも不自由することはなく、むしろ孤独を好む動物なんですよ。一概には言えませんが、きょうだいでもない限り、縁のない猫同士が仲良くなることは『まずない』と思っていたほうがいいでしょう」

 とのこと。

 先住猫にとって、あとからきた猫は自分の縄張りに入ってきた「不審者」だ。縄張りを犯されると、猫には多大なストレスがかかる。特に猫エイズキャリアの猫にとってストレスは大敵で、発症のきっかけにならないとも限らない。

 つまり「相手が猫エイズキャリアか否か以前に、はちに2匹目を迎えることは積極的にはすすめられない」というのが院長先生の答えだった。

さらなる否定的な意見、それでも…

 数日後、私は、「猫の多頭飼い」をテーマにした別の獣医師のオンラインセミナーを受けた。そこでも、「猫エイズキャリア同士の同居は可能か」について質問した。

 だがこの獣医師の意見も、院長先生と同じだった。「道で偶然、弱っている猫に出会ってしまったなど特別な縁があった場合をのぞけば、猫エイズキャリアの先住猫がいるところに、わざわざ探してまで別の猫を迎えることは獣医師としてはすすめられない」とのこと。そして、

「SNS上には、仲睦まじい猫の写真や動画があふれているのでそれがあたりまえのように思ってしまいますが、そうでない場合も実際は多いのですよ」

 と言われた。

 我が家に2匹目の猫を迎えることは、はちにとっては幸せなこととはいえないかもしれない。単なる私のエゴにすぎないのかもしれない。

 それでも私は、2匹目の猫を探してみることにした。 

(次回は10月20日公開です)

【前の回】愛猫「はち」の食べたい欲求 VS 自動給餌器 あるアイデアで落着し、訪れた平穏

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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