脱走以来、窓は開けていない(れいこさん提供)
脱走以来、窓は開けていない(れいこさん提供)

真夏日に窓を開け間違い愛猫が脱走 隠れていたのは意外な場所だった

 「大切なペットが脱走した!もう戻ってこないのでは……」そう感じている方に知ってほしい。逃げた犬や猫の帰還ストーリーと、経験者に聞く保護のアドバイスです。

(末尾に写真特集があります)

網戸側の窓を開けたつもりだった

【逃げたペットについて】
名前:サスケ
性別:男の子
種類:スコティッシュフォールド
年齢:脱走当時4歳(現在6歳)
いなくなった場所:マンションの4階の共用廊下に面した窓

「家に帰ったら、愛猫がいない。ふと窓を見ると、出かける前に開けたはずの窓は網戸じゃなかった」。そんな血の気が引くような体験を話してくれたのは、スコティッシュフォールド(男の子・当時4歳)と暮らすれいこさんだ。

 れいこさんは夫とサスケの3人(2人と1匹)暮らし。その日は夫と買い物に出かけることになっており、午前11時を過ぎたころ、マンションの玄関を出た。

「その日は7月の真夏日で、外に出た瞬間、熱気を感じました。ふと、通路側から通路に面した窓が閉められているのに気がついて。『なんで開けておかないのよ』なんて、先に行ってしまった夫に心の中で文句を言いながら、鍵のかかっていない小窓を外から開けたんです。その時は、確かに網戸側の窓を開けたつもりだったんですけど……」

 この勘違いが事件の引き金となる。

いつもの出迎えがない

家の中にはサスケの写真パネルがたくさん(れいこさん提供)

 サスケはれいこさん夫婦にとって、きまぐれな王子様のような存在だ。抱っこが嫌いで、普段からスリゴロの甘えん坊ではないが、かまってほしい時にはそっと寄り添ってくる。家族が帰宅したときは、玄関まで出迎えに来てくれる習慣もあった。れいこさんはそんなツンデレなサスケがかわいくてたまらなかった。

 ところが、その日2人が買い物から帰って玄関を開けた時、いつもならあるはずのサスケの出迎えがない。

「ちょっとだけ違和感はあったものの、寝てるのかな? なんてのんきに思ってたんです。でも、部屋中探し回ってもいない。サスケのお気に入りの場所をひとつひとつ探しているうちに、少しずつ嫌な感じがしていました。夫がまだ外にいたので、呼びに行かなきゃと振り返った瞬間、出かける前に自分が開けた窓が目に入ったんです」

 窓は、網戸がない方が開いていた。

「サスケが逃げた! と理解するのに少し時間がかかりました。でも、いくら探してもいないから、やっぱり逃げたんだ、と」

ペット探偵に電話

「無防備な寝姿がいとおしい」とれいこさん(れいこさん提供)

 れいこさんが外にいた夫を呼び状況を報告すると、夫もパニックになっているようだった。

「猫を脱走させるなんて初めてで、2人とも何をすればいいのかもわからず、とりあえずサスケの好きなおやつを持って、名前を呼びながらマンション中を探し回ったんです。近所への聞き込みもしました。同じ4階の全部屋と上下の部屋を回りましたが、猫の影すら見つからなくて……」

 れいこさんは、焦りから何度も自宅と外を行き来して、サスケを捜索した。マンションの外に出て、草むらや公園も探した。一方れいこさんの夫は、ネットで猫の探し方を検索していた。するとペット探偵の情報にヒットした。

「以前、夫婦で見ていた動物番組に出ていた会社でした。早速電話をしてみると、テレビに出ていた探偵さん本人が出て、まずは自分たちで探してみてほしいと、猫の探し方についてアドバイスをしてくださったんです」

近くに隠れている?

【いなくなった時にしたこと】
・近所の部屋と上下の部屋に聞き込みを行った
・ペット探偵のアドバイスをうけ、近くの室外機裏に猫砂をおいた
・迷子ポスターを作った

 れいこさんは、ペット探偵のアドバイスに従い、サスケが使っているトイレの猫砂を持ってマンション内の自宅付近に設置されている室外機の裏においた。迷子ポスターを作った方がいいとも言われ、夫は自宅で慣れないパソコンを操作し、ポスター作りに奮闘した。

「『家猫は短時間では遠くへ行かないので、近所を重点的に探してください。両隣の部屋か、どこか近い場所に隠れています』と言われたのですが、正直、半信半疑でした。こうしている間にも、サスケがどんどん遠くへ行ってしまうんじゃないかと気が気じゃありませんでしたね」

 しかし、結果的にペット探偵のアドバイスは正しかったことがわかる。8時間後、サスケが意外な場所から発見されたのだ。

隣の家の中から…

主張がある時はそばに来て訴える(れいこさん提供)

 捜索から8時間後の夜9時ごろ、れいこさんが部屋に戻ると、夫がポスターを完成させていた。

「印刷に向かう道中でももちろん、サスケを探しながら歩いていたんです。共用廊下で『サスケー!』と呼んだときでした。どこからともなく『ニャー!』と聞こえた気がしたんです」

 れいこさんがもう一度呼ぶと、確かに猫の鳴き声が聞こえた。サスケの声だ。周囲を見渡すと、隣の部屋の廊下に面した網戸が開いていた。聞き込みをした際、留守だった部屋だ。網戸に向かって「サスケー!」と声をかけてみる。すると、「ニャー!」と中で声がすると同時に、隣の家の玄関が開いた。

「お宅の猫ちゃん、うちにいるよ!」

 網戸を見ると、死ぬほど会いたかったサスケのシルエットが見えた。

あたたかい体に触れて

お気に入りの場所にいると機嫌がいい(れいこさん提供)

 お隣さんの話によると、サスケは廊下に面した寝室のベッドの下に潜んでいて、住人が寝ようとしたところ、ベッドの下から飛び出してきたのだという。あとで見たところ、午前中、換気のために細く開けていた玄関の網戸が破られていた。

「いたずら心で外に出て、我が家と間違えて入っていったのだと思います。部屋にいたサスケを抱き上げるとあたたかくて、凍り付いていた体にあたたかい血が湧いてきたような感覚になりました。サスケは抱っこが嫌いですが、引き取る時はぎゅっと抱きしめて連れて帰りましたね」

 れいこさんの夫も、心からホッとしている様子だった。

「夫には『おまえのせいで』と責められるかと思ったけど、全く責められませんでした。夫が苦労して作ったポスターも、前向きな気持ちで回収しました」

すぐ近くを探してほしい

普段はツンデレな王子様(れいこさん提供)

 捜索から8時間で無事に帰宅したサスケは、自宅に帰れた喜びと興奮で、部屋をキョロキョロと見回し、「ニャーニャー」といつもよりもよく声を出した。暑さでのどが渇いていたのか、出された水をガブガブと飲んだ。

「その年の夏は暑かったので、野良猫が死んでしまうことも多かったと思います。もしサスケが戻ってこなかったら、どこかで飢えていたり、車の事故にでも遭っていたら……。一生、罪の意識を感じながら生きていくところでした」

 れいこさんは今回の件で、「家猫は遠くには行かない」というペット探偵の言葉を身をもって感じたという。

「SNSでこの体験を話したら、ときどき猫が脱走したという相談を受けるようになりましたが、皆さんに、『すぐそばにいるはずなので近く探してください!』とお伝えしています」

 その夜は興奮してなかなか寝付けなかったサスケは、次の日の昼にはいつも通りマイペースなツンデレ王子に戻った。「いつまでもそばにいて長生きしてね」れいこさんはサスケにメッセージを送る。

【前の回】ハーネスを付けて日なたぼっこをしてた愛猫が脱走! 捕獲器を仕掛けて捜索したら…

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原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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この連載について
迷子のペットが帰ってくるまで
「大切なペットが脱走した! もう戻ってこないのでは……」そう感じている方に知ってほしい、逃げた犬や猫の帰還ストーリーと経験者に聞いたお話です。
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