脱走以来、お外は窓からの見学のみになった(ずずさん提供)
脱走以来、お外は窓からの見学のみになった(ずずさん提供)

ハーネスを付けて日なたぼっこをしてた愛猫が脱走! 捕獲器を仕掛けて捜索したら…

「大切なペットが脱走した!もう戻ってこないのでは……」そう感じている方に知ってほしい。逃げた犬や猫の帰還ストーリーと、経験者に聞く保護のアドバイスです。

(末尾に写真特集があります)

猫用ハーネスのリスク

 近年、猫用のハーネスとリードを付けて、猫のお散歩を楽しむ飼い主さんを見かけることが増えてきた。まるで小型犬のように飼い主さんに歩幅を合わせ、横について歩くほほえましい姿を見ると、「うちの子も……」と考える人も多いはず。一方で、猫にハーネスをつけて外を歩かせることに警鐘を鳴らす人もいる。

「猫ちゃんの性格にもよるけど、ほとんどの子は脱走のリスクがあると思います」。そう話すのは、自身の愛猫がハーネスから抜け出した経験を持つ、ずずさんだ。今回は、彼女が「死ぬほど後悔した」と話す5年前の脱走事件についてお話を伺った。

脱走犯の「ぷん」。生後3~4カ月でスーパーマーケットの駐車場で保護され、ずずさんの家に譲渡された(ずずさん提供)

【逃げたペットについて】
名前:ぷん
性別:男の子
種類:キジ白ミックス
年齢:推定6歳
いなくなった場所:自宅前にとめていた自転車の前かご
理由:自転車の前かごで日なたぼっこ中、建物から出てきた人のハイヒールの音に驚いて、ハーネスから抜け出した

 ずずさんが、愛猫「ぷん」にハーネスとリードをつけて日なたぼっこを始めたのは、事件の1カ月ほど前のことだ。SNSで飼い主と共に旅をする猫を見て、憧れを持ったのがきっかけだったと言う。

「ぷんはビビリなので、外を歩かせるのではなく自転車のかごに乗せて日光浴をさせることにしたんです。しっかりとしたハーネスだったので抜けるところもないし、必ず家族がついていたし、背中を軽く手で抑えていたので逃げるなんて考えてもいませんでした」

 ぷんを保護したTNRをするボランティアは、ずずさんから日光浴の話を聞いてすぐに大反対した。「『ハーネスとリードをつけて外に出して逃がした人がいる、絶対にやめてください』とおっしゃったのに、私、『押さえてるから大丈夫ですよ』なんて反論していたんです。今となってみたら、保護主さんの言うことをきちんと聞いておけばよかったと心の底から後悔しています」

ずずさんが再現してくれた日なたぼっこの様子。「ベスト型ハーネスから抜けるとは思いませんでした」(ずずさん提供)

靴音に驚き脱走

 ある日の午後、いつものように自転車のカゴでぷんを日光浴させていると、近くの建物からハイヒールを履いた女性が出てきた。

「コツコツコツコツ、と耳慣れない音が大きくなるのが聞こえて、カゴの中で寝ていたぷんがパニックになったんです。カゴから跳ね上がった拍子に両手を上げてバンザイをする形になって、『あっ』と思う暇もなく、ハーネスが脱げてしまい走って行きました」

生まれつきの「びっくり顔」がチャームポイント(ずずさん提供)

【いなくなった時にしたこと】
・猫探しに詳しい保護ボランティアに連絡を取り、アドバイスをもらった
・家のまわりに猫砂をまき、玄関と裏口のドアを開けた
・近所の猫友達を呼んで一緒に捜索した
・警察や保健所などに連絡し、所定の手続きをとった

 ずずさんは慌ててぷんを追いかけ、家の裏の車の下にいるのを確認したものの、捕まえ切れずに逃げられてしまう。そこで、はらをくくってすぐにぷんの保護主である猫ボランティアに連絡を取り、助けを求めた。

「保護主さんは仕事中にも関わらず電話に出てくれました。私が事情を話して謝罪すると、『私がもっと強く止めていれば……』ともらしたのが今でも記憶に残っています」

 長年、猫と暮らしてきたずずさんだが、猫を脱走させてしまったのは初めてのことだった。猫探しの知識がないずずさんに、保護主はすべきことをアドバイスして、仕事が終わり次第駆けつけることを約束した。

「保護主さんのアドバイス通り、まずはぷんが匂いで帰ってこられるように、トイレの砂を家の周りにまきました。それから、いつも自転車に乗せるときに出ていた玄関の扉と裏口の扉を、猫が通れる程度開けておきました。私自身はいてもたってもいられず、その日の仕事を休み、泣きながらぷんを探しました。事情を話すと近所の猫友達も駆けつけてくれて、1日かけて2ブロック先まで探し回りましたね。近所の人たちも捜索に協力してくれました」

捕獲器を7つ仕掛けたら…

 やがて日が暮れると、TNRボランティアをしている保護主が、捕獲器を持って駆けつけた。同時にずずさんの息子も帰宅し、捜索に加わった。

「保護主さんには、ぜったいまだ近くにいるので、見つけたら落ち着いた声で呼びかけ続けてくださいと言われていました。ところが、息子が家の裏の塀に登り、ご近所に許可を取って塀伝いに近隣を一周しているとき、隣の家の裏で固まっているぷんを見つけ、慌てて近づいてしまったんです」

ぷんが隠れていた隣家の裏。奥にある室外機の裏で固まっていた(ずずさん提供)

 驚いたぷんは、その場からも逃げ出してしまう。逃走したぷんは、ちょうど家の周りで捕獲器をセットしていた保護主の目の前を走り去っていったという。

「その日は両隣のおうちにもお願いして、家の周りに7つの捕獲器を仕掛けて解散しました。何もする気が起きないまま夜になり、他の猫が入っていたらいけないので、3時間おきに捕獲器を見て回っていましたね。一度、夜中にサビ猫がかかっていた以外は動きがなく、気づくと夜中の4時。眠れないのでお弁当を作ろうとキッチンに立っていたときでした」

 ずずさんは、背後で猫が階段を上るような「タンタンタン」という音を聞いた。「疲れて幻聴が聞こえたのかな……」そう思って耳をすますと確かに音がする。

 慌てて音のした部屋に向かい、ぷんのお気に入りの場所である寝室の二段ベッドの上をのぞき込むと、そこには今まさにずずさんの枕のそばで丸くなろうとしているぷんがいた。

ずずさんが寝ている二段ベッドの上段がぷんのお気に入りの場所(ずずさん提供)

「ぷんは全身にくっつき虫をくっつけている以外は元気な様子でした。急いで開けていたドアを閉めて、くっつき虫を落とすためにシャンプーをしました。その後、目やにが止まらないので獣医に見せると、植物か何かが目に刺さったようで、角膜に小さな穴が開いていました。脚の裏も何かで切っていて、ちいさなけがをしていましたが、いずれもすぐに治る程度のけがでした」

“猫は液体”を実感

ぷんの数年後にやってきた、しじみ(右)と(ずずさん提供)

【猫探しの教訓】
・できるだけ早く保護猫のボランティアや詳しい人にアドバイスを求める
・目線を変えて探してみる
・見つけた時は焦って捕まえようとせず、落ち着いて呼びかける
・ビビリの子はできるだけ少人数で探す

 ずずさんは、ぷんの帰宅は保護ボランティアの助言のおかげだと話す。

「トイレの砂をまくとか、家の扉を開けておくとか、私だけでは考えつきませんでした。なにせ、はじめてのことで焦っていたし、早く捕まえなくちゃ遠くまで行ってしまうという気持ちばかりで。息子が高いところから探したのも良かったですね。保護主さんは必ず近くにいると言っていたので、低いところや高いところ、目線を変えて少人数で探すのが見つけるポイントだったのかもしれません」

 脱走事件以降、ハーネスとリードを付けての日なたぼっこはすぐに廃止した。

「保護主さんの言うことを聞かなかった私のせいで、ぷんをふたたび野良猫にしてしまうところでした。冷静になって色々な人に話を聞くと、猫にハーネスを付けていても逃してしまったという話は本当にたくさんあり、なかには戻ってこなかったという子も……。どんなに『うちの子は大丈夫』だと思っても、“絶対に安全”はないんです。猫って驚かせてしまうとすごく素早くなるし、どんな隙間もすり抜けてしまう。私もぷんのことがあって初めて“猫は液体”という言葉を実感しました。ハーネスを付けていても脱走が多いことを多くの方に知って欲しいです」

 今年の7月7日で推定6歳を迎えるぷんは、現在、弟分の「しじみ」とともに平和な家猫ライフをエンジョイしている。

【前の回】甘えん坊の元野良猫が脱走 効果ある?唐揚げを仕掛けて待ってみたら

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原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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この連載について
迷子のペットが帰ってくるまで
「大切なペットが脱走した! もう戻ってこないのでは……」そう感じている方に知ってほしい、逃げた犬や猫の帰還ストーリーと経験者に聞いたお話です。
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