「僕はひとりじゃ遊べないんだ」(小林写函撮影)
「僕はひとりじゃ遊べないんだ」(小林写函撮影)

攻防戦の末にたどり着いた成功の兆し ぽっちゃりになった愛猫「はち」のダイエット

 元野良猫「はち」を家に迎えて9カ月目に入った10月初旬、はちの体重は保護当時から0.5kg増の6kgになってしまった。「これ以上は太らせないように」と動物病院から注意をされた上限だ。

(末尾に写真特集があります)

まずはフード量の見直しから

 体重が増え始めてから、フードの量は少しずつ減らしていた。それなのに太ってしまったのがショックで、謎としか思えなかった。だが体重が増えるのは、消費カロリーより摂取カロリーが多いからにほかならない。私は保護した当時の体重5.5kgに戻すべく、はちの食事と運動について見直すことにした。

「嫌な猫に追われることもないし、鍛えなくてもいいんだ」(小林写函撮影)

 食事は、1日55gだったドライフードの量を3g減らして52gにすることにした。最初は70gだったのに、ここまで減らして大丈夫なのかと心配になったが、調べると、1日に必要なカロリーは、その猫の年齢や生活環境によってかなり幅があるようだ。適正カロリーの算出方法もさまざまで、完全室内飼いでシニアに近い年齢のはちの場合は、問題ないことがわかった。

運動も意識的に取り入れる

「上下運動をさせたり、おもちゃで遊ぶなど、からだを動かす機会を増やしては」という動物看護師さんのアドバイスに従っての改善も試みた。

 うちには猫が上下運動をするのに最適といわれるキャットタワーがない。家が狭くなるのと、掃除が大変そう、という理由からだ。その代わり、家具の配置に高低差をつけ、運動ができるように工夫していた。例えば、私の部屋の窓際には、プラスチック製の衣装ケースが2列5段積み上げてある。この上にさらにもう1個、箱を置いてステップを作り、より高い位置までのぼれるようにした。

 おもちゃは、新しいじゃらし棒を購入した。留守中、キャットシッターさん持参のじゃらし棒ではよく遊んでいた。はちが飽きたのは遊びではなく、おもちゃそのものかもしれないと考え直したからだった。

「僕は太ってないよ」(小林写函撮影)

 こうして、本腰を入れたはちのダイエット作戦がスタートした。

 はちは、フードを器に盛ったら盛っただけ食べ、忘れたかのように次を欲しがる。そのため、家に迎えた当初からずっと、規定量を1日5回、小分けにして与えていた。そのほうが、こまめに食事ができてストレスを感じにくいと考えていた。

 1回目の食事は朝8時。はちは、朝食の時間になっても私が寝ていると枕元までやってきて、「ペチッ」と前脚で頭を叩く。「ご飯ちょうだい」の合図だ。

勃発したはちとの攻防戦

 それが、フードの量を52gに減らしたその翌日から、催促の時間が早朝4時と早まった。

 眠いし、決めた時間以外にフードを与えるのはよくないと無視していると、髪の毛をひっぱったり、頭にかみつこうとしたりと執拗だ。布団をかぶっても諦めず、今度は布団カバーを歯や爪で強く引っ張る。それでも私が動かないと、部屋の中にあるビニールの袋を食いちぎる。

 根負けして起き上がり、廊下に置いてあるはちの食器に、ドライフードを5粒ほどチャリンと落とす。すると待ってましたとばかりにかぶりつき、数秒後には満足した様子でリビングに去っていくのだった。

「新しいおもちゃなかなかいいよ」(小林写函撮影)

 このような日が数日続き、破れて穴の空いた布団カバー見ながら考えた。ご飯を減らされたことへの、はちなりの抗議だろうか。これまで特に行動に変化はなかったのに、55g→52gのラインは特別なものだったようだ。

 しかし、毎朝4時に起こされるのはたまらない。

 ネットで調べたところ、猫に夜中や早朝に起こされて、寝不足になる飼い主は多いようだ。対策として「夜、飼い主が寝る前に猫とたっぷりと遊び、その後ご飯をたっぷりあげると、猫は適度に疲れた上に満腹になるので満足し、夜中もぐっすり寝るようになる」というアドバイスをみつけた。

 なるほど、これなら効果的に運動を取り入れることもできる。

「本腰ダイエット」開始

 午前0時ごろ、はちが5回目のご飯を欲しがってウロウロしたり鳴いたりし始めたタイミングで、新しいじゃらし棒をふってみた。

 じゃらし棒が気に入ったのか、空腹が紛れるのか、はちは驚くほど熱心によく遊んだ。

 ここ数ヵ月は、床やソファにあおむけに転がったまま、脚で棒の先に付いたぬいぐるみをちょいちょいとつつく程度だったのが、振り上げれば飛びかかり、床をはわせれば腰を落とし、お尻を振って臨戦態勢をとった。

「おばちゃん、ありがと。そろそろ寝るかな」(小林写函撮影)

 ひとしきり遊び、集中力が切れたところでフードを与える。昼間に与える量を減らす代わりに、5回目の給餌量は増やした。

 この方法は功を奏した。食事を終えるとはちは満足そうに顔を洗い、その日の気分で好きな場所で丸くなり、眠るようになった。午前4時にご飯をねだりに来ることもなくなったのだ。

 それでも、食卓に並べたサバの塩焼きに手を出してツレアイに叱られたり、前の晩に使い終わって処分したはずの出汁パックが、朝日の差し込む台所の床に袋が食いちぎられた状態で落ちていたりするのを目にすることはあった。

 はちにしてみれば、何らかの不満はあるのだろう。

 体重は、「本腰ダイエット」開始の2週間後から少しずつ減っていった。

(次回は5月5日公開予定です)

【前の回】愛猫「はち」の肥満に大ショック! ご飯を減らしても増えていく体重…思いあたるのは

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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