生き延びた犬を保護するポーランドの動物愛護団体 過酷な状況でも「頑張るしかない」
ウクライナへのロシアの攻撃が終わらない。ニュースを見るたび、胸を痛めている。
今年の4月、戦争が始まって2カ月後のポーランドとウクライナに行って来た。戦火のなか、犬や猫や動物たちを救うひとたちに会いたかったからだ。これはその取材の記録です。
過酷な状況だが世界中からボランティアが来た
ウクライナとの国境沿いの街、ポーランドのメディカに「ケンタウロス財団」の臨時シェルターがあった。ポーランド西部の都市ヴロツワフに本部を持つ、馬の保護がメーンの動物保護団体だ。ソ連時代の牛舎を借りて犬舎にし、コンテナを並べて猫や人が暮らしていた。
このシェルターを仕切るのは、マリク(40歳)さん。戦争が始まって数日後には、この地に駆け付けた。以来、水道も電気もガスもない臨時シェルターで暮らしながら、ウクライナから被災してきた犬と猫の世話を続けていた。世界中からボランティアが手伝いに来ているとはいえ、その毎日は過酷だった。早朝から深夜まで、いつ、被災した犬や猫がやって来るかわからないのだ。
が、笑顔を絶やさず、一匹でも多くを救おうとしていた。
「なぜ、そこまでするんですか?」尋ねると、マリクさんは1本の動画を見せてくれた。
そこに写っていたのは、ウクライナの首都キーウ近くの街・ボロディアンカの犬のシェルターだった。公営のシェルターで、当時500匹くらいの犬が暮らしていた。
「このシェルターでとても悲しいことがあった。アウシュビッツを思い出したよ」
ロシアの攻撃中 施設にいた半数の犬が息絶えた
ウクライナの街中では野良犬をよく見かける。飼い主がいない犬は、保健所が捕まえて、不妊去勢手術をして、耳にタグをつけて、再び街に戻す。道ゆく人がフードを与えたりして、特に邪魔にされることなく、生き延びることができる。地域犬のようなしくみだ。そのため、多くの都市には不妊去勢手術を待つ犬たちの施設がある。マリクさんが見せてくれたのは、そんな施設のひとつだった。
2月24日から始まったロシアの攻撃は、3月に入って激化した。特に首都キーウにはロシア軍が侵攻し、攻撃は凄惨(せいさん)を極めた。住民たちはシェルターに逃げるしかなかった。犬の施設の職員たちも、施錠して、その場をあとにした。およそ一カ月、攻撃は続いた。
4月になってようやくロシア軍が撤退した。職員たちは、施設に駆け付けた。その日の映像を見た。鍵を開け、大急ぎで走って犬舎に入って行く。犬舎のなかは凄惨な状況だった。犬たちの悲痛な鳴き声が響く。500匹の犬のうち、およそ半分の犬が息絶えていた。水も食べ物もないなか、一カ月以上を過ごし、犬舎のなかで命つきたのである。
映像には、職員たちの泣き声が入っていた。泣きながら、犬舎をまわっている。嗚咽(おえつ)が聞こえる。多くの犬の亡きがら。山のような遺体が集められた。
私は、福島県の原発20キロ圏内を思い出した。2011年3月のことだ。福島の第一原発が津波で事故を起こし、周囲の住民に避難勧告が出された。住民たちは着の身着のまま、避難するしかなかった。まさか二度と戻って来れなくなるとは思わず、犬や猫を置いていった人もいた。置いていかれた動物たちのうち、命を亡くしたものも少なくなかった。痛ましいことだった。
ケアを受け、新しい飼い主を見つけた犬もいる
「生き延びた犬を保護したんだ」
映像を見せてくれたマリクさんが言った。凄惨な現場だったが、生き延びた犬もいたのだ。ガリガリに痩せ、うずくまっていたが、命はつながった。250匹近くいた。職員たちは、水やフードを与え、ケアを開始した。
支援を求めると、国境を越えて助けがやってきた。マリクさんたちも助けに駆け付けたチームのひとつだった。60匹の犬をケンタウロス財団の臨時シェルターに保護した。彼らはここでケアを受け、すぐにポーランド西部の本部へ移っていた。本部でさらにケアを受け、新しい飼い主を見つけた犬も多いという。
「だから、頑張るしかないだろう」。マリクさんは笑顔で再び犬の世話を始めた。
キーウ近くの攻撃については、のちにブチャで民間人が殺害されたことがわかり、ジェノサイド(集団殺害)とも言われた。人間も多くが命を失ったのだ。そんな状況でも、動物の命のために奮闘する人がいる。
この取材の話をすると「戦争中に犬や猫の心配か!」と非難されたこともある。だけど、本当にそうだろうか。ウクライナに取材に行ったとき、「動物を助ける人を撮影しに来ました」というと多くの人から歓迎された。「どうぞたくさん撮って、私たちのことを伝えてください。もの言えぬ動物たちも巻き込まれていることを伝えてください」と言われた。避難所では、犬や猫と一緒に避難している人にたくさん会った。そこに動物がいることが、心を穏やかにしてくれると聞いた。
戦火のなかでも動物の命を救う人たち。彼らの存在に光を感じる。この後も、取材の報告を続けます。
【前の回】ライフラインはないがシェルターを作り犬猫を助ける ポーランドの動物愛護団体
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