ライフラインはないがシェルターを作り犬猫を助ける ポーランドの動物愛護団体

ケンタウロス財団のマリクさん

 ロシアによるウクライへの侵攻が続いている。すでに半年が経過して、たくさんの命が奪われた。破壊された町や空を飛ぶミサイルを見ていると、なんでこんなことをする人間がいるんだろうと絶望的な気持ちになる。が、そんな場所でも犬や猫や動物を救おうとするひとがいる。まさに命懸けで。

 彼らに会うためにウクライナとポーランドに行って来た。今回はその報告の4回目、ポーランドの動物愛護団体のお話です。

(末尾に写真特集があります)

たどり着いたのはケンタウロス財団の臨時シェルター

 ウクライナとの国境沿いの町、ポーランドのメディカには、世界中から来た動物愛護団体が集結していた。避難所近くには、アメリカ、フランス、デンマーク、イギリスの団体のテントがあった。

 ウクライナから避難してくる人とそのペットのために、フードやケージや薬など、ペットと暮らすために必要なたいていのものがそろっている。もちろん、全部無料だ。治療が必要なら獣医師を紹介してもらえる。まず、その手厚さに驚いた。ここでは犬や猫と一緒に避難するのは当然のことで、彼らを迎えるための準備を、国を挙げて行っている。

「ウクライナとの国境近くに、犬と猫のための大きなシェルターがあるよ」

 そんな話を聞いて、国境近くを車で走って探した。たどり着いたのは、「ケンタウロス財団」の臨時シェルターだ。ケンタウロスという名前の通り、馬の保護をするのがメーンの愛護団体だ。(ケンタウロスはギリシャ神話に出てくる判人半獣の種族で、首から下は馬である)

 ポーランド西部の都市ヴロツワフに本部があり、そこでは500頭の馬を保護している。ヨーロッパでは保護犬、保護猫だけでなく、保護馬も多く存在するのだ。

ウクライナから避難してきた猫

電気もガスも水道もないがシェルターを作る

 臨時シェルターを仕切っているのは、マリク(40歳)さん。ロシアからの侵攻があって間もなく、友人と2人でヴロツワフを出て、ウクライナとの国境近くにやって来た。初めのうちは避難してくる人たちの犬や猫の世話を手伝っていたが、ウクライナ国内にも入り、行き場のない犬や猫を救いに行った。町が焼かれ、飼い主も家も失った犬や猫たちがそこら中にいた。

 その数はどんどん増えて、救い出してもシェルターがなければどうにもならなかった。とにかく場所を探そうとして見つけたのが、旧ソ連時代の巨大な牛舎だった。30年以上使われていなかったが、広大な土地もあり、シェルターを作るにはぴったりだった。早速、持ち主に連絡を取り、事情を話して無償で貸してもらった。

旧ソ連時代の牛舎

 場所はできたが、それからが大変だった。電気もガスも水道もない。3月初めのことで気温は零下で厳しい寒さだ。それでも迷っている暇は無かった。次々と被災した犬と猫が運ばれてくる。牛舎を改装して犬舎にして、コンテナを借りて猫舎を作った。マリクさんもコンテナで暮らした。

 インターネットで支援を呼びかけ、シェルターの様子をつづった。すると、手伝ってくるボランティアが世界中からやって来た。犬や猫用のフードや毛布や薬品などの支援物資も届くようになった。

コンテナの並ぶシェルター

自分で避難できない犬猫を助けたい

「今では夢のようだよ」というマリクさん。

 私が訪れた4月中旬には、コンテナがずらりと並び、ボランティアスタッフは10人ほどいて、順調に運営されていた。しかし、いまだに電気もガスも水道もない。電気は発電機を使い、水は地元の消防署が給水車で運んでいた。ちょうど給水車が来る時に居合わせたが、「水だ!水だ!」とマリクさんは大喜びしていた。

 臨時シェルターのしくみはこうなっていた。ウクライナ国内にもケンタウロス財団のスタッフがいて、被災した犬と猫をリビウ(ウクライナ西部の都市)のシェルターで保護する。現地でボランティアを募り、車に乗せてポーランドまで運ぶ。

このトラックで犬猫を運ぶ

 1日に10匹から20匹くらいが到着するのだが、いつ国境を越えられるかわからず、到着は深夜になることも多かった。ウクライナから避難してくる人が多いため、ポーランドに入国するのに数時間かかることもあるからだ。

 その上、動物には検疫なども必要でさらに難しかった。それでも、マレクさんはじめ、ボランティアスタッフは笑顔で動物の世話をしていた。

「犬や猫も戦争の被害者だけど、自分で避難することはできないでしょ。だから助けたいんだ」

 そう話してくれたのは、ベルギーから来たピピンさん(24歳)。大学を卒業したばかりで、ガールフレンドと一緒に卒業旅行のつもりでやって来た。ふたりでコンテナに寝泊まりしている。

 シェルターには隔離施設もあった。パルボウイルスに感染した犬が5匹暮らしていた。手伝いに来ていたフランスのブリジット・バルドー財団のスタッフとともにピピンさんも防護服を着て、感染した犬の世話をしていた。

パルボウイルスに感染した犬の世話をするピピンさん

 保護された犬と猫はこのシェルターで、健康チェックをして問題がなければ、数日でケンタウロス財団の本部へ運ばれた。車で8時間近くかかる。本部は設備も整っており、そこからあらたな飼い主を探す。シェルターが出来て、2カ月だったが、しっかりとした仕組みができあがっていた。

「すごいですね、なぜ、ここまでできるんですか?」

 マリクさんに尋ねると、「ウクライナでは本当にひどいことが起こっているから、やるしかないんだ」そう言って、1本の動画を見せてくれた。そこに映っていたのは、保護施設で大量に亡くなった犬たちの姿だった。

「アウシュビッツを思い出したよ」

 ロシアからの攻撃が激しかった3月。キーウ近くの町で起こった悲劇については、次回、報告します。

【前の回】ウクライナ、ITの力で飼い主とペットをつなぐ 戦時中でも犬を迎え入れる人々も

山田あかね
テレビディレクター・映画監督・作家。2010年愛犬を亡くしたことをきっかけに、犬と猫の命をテーマにした作品を作り始める。主な作品は映画『犬に名前をつける日』、映画『犬部!』(脚本)、『ザ・ノンフィクション 花子と先生の18年』(フジテレビ)、著書『犬は愛情を食べて生きている』(光文社)など。飼い主のいない犬と猫へ医療費を支援する『ハナコプロジェクト』代表理事。元保護犬のハル、ナツと暮らす。

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この連載について
ウクライナの犬と猫を救う人々
ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まり、映画監督で作家の山田あかねさんは現地に向かいました。ポーランドとウクライナで動物を助ける人達を取材した様子を伝えていきます。
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