何やら語らい合う貫太くんとフク
何やら語らい合う貫太くんとフク

外をさまよい3日3晩大声で鳴き続けた子猫 捜索に加わった少年と家族になる

 にゃあっ!にゃあっ! 千葉県内で個人で猫の保護活動を続けている喜美子さんの耳に、どこからか子猫の必死な鳴き声が聞こえてきた。だが、家々の隙間や茂みを転々としているらしく、姿は見当たらない。ボランティア仲間や近所の人の協力も得て、捜索は3日3晩続いた。すぐ近くに住み、捜索に参加していた小学2年生の貫太くんは、鳴き声に小さな胸を痛めながら、こう決めていた。「見つかったら、お父さんとお母さんに頼んでうちの子にして、幸せにしてやるんだ」

(末尾に写真特集があります)

鳴き声を手掛かりに捜索は3日続いた

 喜美子さんは、訪問介護の仕事をしながら、たくさんの猫の命を救ってきた。今自宅にいる4匹も、保護したての母子猫4匹も、よるべなく外をさまよっていた猫たちである。

 今年9月末のある夕べ、自宅にいた喜美子さんの耳に、子猫の鳴き声が聞こえてきた。この辺には、もう飼い主のいない子猫はいないはずである。最初は空耳かと思ったが、外に出てみると、必死な鳴き声は、近隣の家と家の間から聞こえてくる。外に出て何時間も探してみたが、鳴き声は丈高い草むらや茂みに移動して、姿を見つけることはできなかった。

 ひとりぼっちの子猫なら早く見つけてやらなくては。喜美子さんの懸命な捜索が始まった。その様子を見た近隣の人々が、情報や捜索を協力してくれた。ボランティア仲間も捕獲器持参で遠くから駆けつけてくれ、あれこれアドバイスしてくれた。

 近所に住む小学2年生の貫太くんは、お父さんと来たりお母さんと来たり、ときにはひとりでも懐中電灯で照らしながら、公園周辺の草むらを探した。お父さんと一緒のとき、一瞬子猫らしい姿を見たが、すぐに茂みの奥に逃げていってしまった。

 キジトラの子猫が捕獲器に入っていたのは、3日目のこと。捕まえてみれば、人懐っこい子猫だった。生後ひと月半もたっていないくらいだろうか。捨て猫と思われた。

子猫
保護されたあとは甘えん坊全開

「うちの子にしようよ」

 喜美子さんは、保護後すぐに、捜索でお世話になった人たちに「無事保護できました」と報告に行った。貫太くんの家に行くと、みな「よかったよかった」と喜んでくれた。貫太くんはじめ、お姉ちゃんもお兄ちゃんも「うちの子になるといいよ」とすっかりその気である。

 その後、喜美子さんの家に子猫を見に来た貫太くんは、愛らしいその姿を初めて見た。子猫の顔も見ていないうちから、どんな子でも「うちの子に」と決めていたが、そのちっちゃさにびっくりした。

 だが、お母さんは、首を縦に振れずにいた。「いきなりやってきた子猫を、先住猫のチータが受け入れなかったら」と心配だった。チータは、迷い猫だったのを迎えた長毛の2歳の猫である。一家の寵愛(ちょうあい)を一身に浴びていた。

 ためらうお母さんに、貫太くんは「絶対飼いたい! 面倒見るから」と言い、お姉ちゃんとお兄ちゃんも「飼わないという選択肢はないでしょ」と迫る。お父さんも子どもたちに賛成だ。

かごの中の子猫
みるみる元気になっていった「ちびた」時代

 子猫は、ひとまず喜美子さんのうちの預かり猫となり、「ちびた」という仮の名をつけられた。下痢もしていたし、獣医さんの検診も済まなけば、すぐに譲渡するわけにはいかない。

 毎回、喜美子さんのうちにやってくる新入り保護猫たちのいいお兄ちゃんになってくれるのが、気のいい茶白の龍之介くんである。ちびたは、龍之介お兄ちゃんを追いかけたり、しっぽにとびかかったりと、やんちゃを極めた。喜美子さんが振るおもちゃにも食らいつきがいい、屈託なく活発な子猫だった。3日3晩大声で鳴き続けていたのだから、かなり生命力のあることは間違いない。

先住猫とたちまち仲よしに

 ちびたが少しふっくらした頃、貫太くんたちの熱望が通り、トライアルが開始された。ケージ越しのご対面で、チータは小さく「シャー」と威嚇したが、一度きりだった。ちびたのほうは、最初からまったく怖がらない。喜美子さんの家で、先住お兄ちゃん猫たちに可愛がられていたからである。ひとまず大きなケージに入れられたが、翌朝、ソファの上にちょこんと座っていて、家族を驚かせた。ケージの隙間から出られるほど、チビだったのである。

ケージと子猫
このケージの隙間から脱出。チータはすぐに新入りを受け入れた(貫太くんのお母さん提供)

 チータとちびたは数日ですっかり仲良くなり、ちびたは貫太くんのうちの猫として迎えられた。新しい名は「フク」である。プロレスごっこで、フクはチータお兄ちゃんに負けてないそうだが、やさしいお兄ちゃんが大いに手加減しているのだろう。

 貫太くんたち家族は、フクを迎えることに決めたあと、ある約束をしていた。

 それは、誰でも帰宅したときは、フクより先にまずチータに話しかけたりなでたりしてやることである。可愛いのは、チータもフクも同じだが、子猫の方をかまいがちになってチータに寂しい思いをさせるのは絶対にしないと約束したのだった。

子猫
遊び盛り育ち盛りの、貫太くんとフク

「チータとフクは仲良くなると思ってた。フクがうちの子になってうれしい。外で鳴いていたとき、すごくおなかもすいたし、すごく寂しかったと思う」と、貫太くん。少年サッカーチームの一員で、将来の夢は、「プロのサッカー選手になること」だ。貫太くんの成長を、フクは、これからそばでずっと見続ける。

 貫太くんが、とても気になっていることが一つあるという。それは、こんなことだ。

 今のフクは、ボクと同じくらいの年齢だそうだ。子どもだから、ボクが宿題してるときに鉛筆かじったりするんだ。でも、猫の方が年を取るのが早いから、すぐに追い越されてしまうらしい。フクとチータは、いつまでボクのそばにいてくれるのだろう。「まだまだずっとずっと先のことよ」とお母さんたちは言うけれど、フクやチータがいなくなる日のことを考えただけで、悲しい。2匹とも、ボクの大事な友だちで家族で宝物だから。

 でも、貫太くんは、こうも思っているに違いない。だからこそ、毎日うんと可愛がってあげなきゃ、と。

男の子と子猫
「ずっとずっと一緒だよ」

 貫太くんのお母さんは、そんな息子の気持ちをそっと見守りながら、ほほ笑んでこう語る。
「チータを迎えたときも家族の笑顔や会話が増えたのですが、フクを迎えた今も、またいっそう笑顔と会話が増えました。何でもないことですけど、これが『しあわせ』っていうことなのかもしれませんね」

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「猫との約束」「里山の子、さっちゃん」など。Webサイト「フェリシモ猫部」にて「道ばた猫日記」を、辰巳出版Webマガジン「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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この連載について
猫のいる風景
猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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