やんちゃも、寝るのも、いっしょの仲良し兄弟(友香さん提供)
やんちゃも、寝るのも、いっしょの仲良し兄弟(友香さん提供)

愛猫を亡くした半年後、子猫の仲良し兄弟を迎えた 家族は3匹と共に生きていく

 迎えて半年の愛らしい盛りの「詩」を病気で失った友香さん一家では、家じゅうの灯が消えたような日々が続いていた。半年たったある日、次男が「また猫を飼いたい」と言い出す。ちょうど動物病院に保護されたばかりの、詩に似た子猫に会いに行くと、2匹の元気な兄弟子猫が飛び出してきた。前編に続く、後編です。

(末尾に写真特集があります)

「また猫を飼いたい……」

 友香さん一家が保護猫カフェから迎えて半年の「詩」がFIP(猫伝染性腹膜炎)のため、8カ月の短い一生を終えたのは今年の1月だった。

 家族の口数はめっきり減ってしまった。誰も猫の話題を口にせず、ひっそりと日々が過ぎていった。泣いてばかりの日々が過ぎ、友香さんが詩のいない日常にようやく慣れ始めたころ、中学生の次男が言った。

「また猫を飼いたい……」

 ああ、と友香さんは思う。それは、友香さんが心のどこかで予期していたものだったから。夫は「まだ早いんじゃないか」と言い、詩を一番かわいがっていた高校生の長男は無反応である。

子猫
愛らしかった詩(友香さん提供)

 数日後、友香さんは「鎌倉ねこの間」に出かけた。ずっと励まし続けてくれたオーナーの永田さんに話を聞いてほしかった。

 鎌倉ねこの間は、詩のFIP発症以来、長期間の休業の後、大きくカフェの運営の形を変えていた。変えざるを得なかったのだ。

 猫コロナウイルスは、トイレの共有などによって感染し、突然変異で強毒化したときにFIPを発症する。ねこの間では、保護された子猫の諸検査の中にコロナウイルス陰性も確かめたうえで迎えているが、抗体価が変動することもある非常に厄介なウイルスである。詩発症のケースは、検査をクリアしてねこの間入りした後に、急激に抗体価が上がってしまった猫がいたと考えられた。そのため、昨年5月以降ねこの間に滞在した保護猫たちは、ほとんどが陽性となった。

 子猫たちのやさしい保父さんを務めるスタッフ猫のトラとシマも、陽性だった。この2匹は性格の良さから、「譲渡対象ではないのですか」と聞かれることもたびたびだった。

「休業中によくよく考えました。いい方にトラとシマを譲渡して、本来そうであったように、猫コロナウイルス陰性の子だけを受け入れる保護猫カフェに戻すのが、最良の方法だとわかっていました。でも、私は、トラもシマも手放すことなどできなかった」

 永田さんにとって、2匹は家族であり同志であった。

2匹の猫
ねこの間の新入り教育を務めるスタッフのトラ(右)とシマ(左)(鎌倉ねこの間提供)

 悩み抜いた末に永田さんが決めた大きな覚悟は、猫コロナウイルス陽性の子のみ受け入れるカフェにすることだった。

 検査で陰性だった子は、病院やボランティア宅で育ててもらいながら紹介し、「ねこの間の外猫」として譲渡する。ねこの間に迎えた猫は、「陽性の子(特に1歳未満の子)はFIPを発症するリスクがある」ことをよく理解してもらったうえで譲渡する。そんなこれまでと逆の形で、ねこの間は再スタートをした。

 訪ねて行った友香さんが「下の子が、また猫を飼いたいと言い出して」と、オーナーの永田さんに話すと、「ちょうどプリモス動物病院に保護された子猫がいるの。詩ちゃんにそっくりの子よ」と写真を見せてくれた。プリモス動物病院は、保護された詩がねこの間に来るまでを過ごしたところである。

「うわあ、詩にそっくり」

 友香さんは、写真を一目見て思った。同じキジトラだが、男の子である。「朗希」という野球界の若きヒーローの名を仮につけてもらっていた。「朗」の字は、息子二人の名にもある字である。縁を感じた。友香さんの胸に、また猫と暮らしたい気持ちが定まってきた。

 だが、詩を溺愛(できあい)していた長男がうんと言わなければ、迎えるわけにはいかない。

 数日後、長男と2人きりになったときに聞いてみた。「もう一度猫を飼うとなったら、どう思う?」

 長男は何も言わず、静かに、ぽとりぽとりと涙をこぼした。そして、ひとしきり泣いた後、小さな声でこう言った。

「いてくれたら、うれしい」

 大丈夫そうに見えてはいたけれど、長男はずっと喪失感と悲しみを抱えて暮らしていたことを、友香さんは思い知る。

1匹でなく、2匹が出てきた

 長男は「詩に似た子は嫌だ」と言う。写真で見た朗希は、顔立ちはよく似ているが、男の子で活発そうなだけに似ていないとも思える。ともかくも朗希に会いに、夫婦ふたりで動物病院に出かけた。

「そしたら、待合室に2匹の子猫が元気いっぱい飛び出してきたんです。キジトラの朗希と、その兄弟でキジ白の翔平が」

 2匹は、仲良く跳びはね、遊び回る。「こんなに仲の良い兄弟の1匹だけを連れてはいけない……」と友香さんが思っていると、翔平が夫の靴で爪を研ぎ始めるではないか。

「夫の顔を見たら、目がハートになっていたんです」

2匹の子猫
朗希(左)と翔平(右)(友香さん提供)

 夫妻は、兄弟共に迎えることを決めた。息子たちには、そのことは内緒である。

 2匹を連れ帰ると、朗希のためにキャットタワーを組み立てて待ち構えていた次男が声を上げた。「えっ? えっ? 2匹!2匹!2匹!」と大興奮である。

 続いて帰宅した長男も叫ぶ。「おおっ!」

 2人の心底楽しそうな笑顔は、詩がいたときのそれだった。兄弟子猫は、部屋じゅうを走り回り、競ってご飯を食べ、また走り回る。遊び疲れて、重なって眠る。

 息子たちの名にもある「朗」の字をつけて、「朗希」は「雅朗(まさあき)」に、「翔平」は「福朗(としあき)」となった。愛称は「まさくん」「としくん」だ。

 友香さんの家をたちまち明るくするために、複数回の猫コロナウイルス検査をした上で2匹分のかっとびパワーを送り込んだプリモス動物病院の先生の策略は、大成功だった。

心にふたをすることはない

子猫と男の子
この暖かさ、この柔らかさ

 友香さんは、ほほ笑んで言う。

「悲しみの淵から抜け出すのに時間は少しかかりましたが、無理やり気持ちを引き上げようとはせず、悲しいのなら、ちゃんと悲しもうと思いました。いつかまた、猫と暮らしたいと思う日が来るかもしれない、と」

 友香さんは、猫を亡くしてもう新しい猫は飼わないという人の気持ちもよく理解できた。でも、こう思うのだ。

「猫の暖かさも柔らかさもいとおしさも知ったら、『また猫と暮らしたい』という心にあえてふたをすることはないのではないかしら。その人のペース、その家族のペースで、満ちてくるものがあるはずだから」

 その思いは、「やり直しのないように生きていこう」という思いとつながっている。

 取材に立ち会ってくれた次男君が、これまでの気持ちを話してくれた。詩のことを語るときは涙を手のひらで拭いながら、まさ、とし兄弟のことを語るときはうれしそうに目尻を下げながら。

「詩を見送るときには、ずっと『ありがとう』を言い続けていました。新しい子がやってきたのを、詩はきっと喜んでくれていると思う。やさしい子だったから」

2匹の子猫
やんちゃ兄弟、すくすく成長中

 いま、友香さんは信じることができる。自分が愛していた以上に、もっとずっと詩に愛されていたことを。

「詩がニャーと鳴いて『お母さん、大好き』って伝えてくれていたように、猫と暮らしている人はみな、その子その子の表現での愛をもらって、かけがえのない幸せな時間を過ごしているんですよね。詩からもらった愛は、胸の奥に大切にしまってあります。その愛をまさ、とし兄弟に伝えて、詩とはまた違う愛を2匹からもらって……そんな風に、愛が丸く巡るしあわせを感じながら、これから私たち家族は3匹と共に生きていくんだと思ってます」

 友香さんの笑顔は明るかった。

【前編】 子猫を病気で亡くし悲しみにくれる家族 半年後、次男が「また猫を飼いたい」と言った

佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」は11年目。

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猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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