ビジョンフリーゼの長引く反抗期　一緒に乗り越え寄り添ってくれる仲に

　お母さんの部屋着が穴だらけになるほどかみまくるビションフリーゼの子犬。ＵＧ　ＤＯＧＳアトラスタワー中目黒店（以下ＵＧ）の高橋信行店長のもと１週間の社会化お泊まりを経験し、お父さん、お母さんが「別犬」と感激するほど落ち着いた。しかし、一筋縄ではいかず……。　

　激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。　

「『特効薬』はない。愛犬を信じ、やるべきことをやるだけ」　

（前回のお話はこちら）

再び反抗するようになってしまった

　社会化お泊まりから帰ってきてから、わたあめちゃんのエネルギーと体力を解き放つため「とにかくお散歩！」とお母さんは頑張った。朝はもちろん、夜、仕事から帰ってきてからも出かけ、「１日２～３時間はお散歩していました」。　

　アフターケアのためにＵＧにも頻繁に通った。ところが、月齢６カ月を迎えたころ、わたあめちゃんは再び荒れ始める。自我が目覚め、反抗期が訪れたのだろう。　

「外に出ると『歩きたくない！』とリードをかみ始め、まともにお散歩ができなくなってしまったんです」　

　さらに、突然スイッチが入ったように部屋の中を走り回り、ほえてお母さんを威嚇するような行動を取るように。「ビションブリッツ」と呼ばれ、ビションフリーゼによく見られる習性のひとつと言われている。　

　この反抗的な行動は店長にも向かった。「お母さんを悩ませているのはこれか」。こう続ける。　

「わたあめちゃんにとって僕は怖くてうるさい存在。頭がいいので僕の前ではある意味、猫をかぶっていたのです。でも、成長とともに自分に自信がついて調子に乗り始めた。ダメなものはダメだよ、としっかり注意しましたが、僕にはそれができても優しいお母さんにはなかなか難しい」　

　ビションフリーゼについてはこう説明する。　

「それこそわたあめのように白くてモフモフで愛嬌（あいきょう）があり、抜群にかわいいですが、トイプードルと比べても体が大きく、気が強いハイパーな子犬の場合、家族を悩ますことは少なくありません。頭はいいものの、周りがちゃんと見えるようになるのに時間がかかる子も。ただ、頭がいいからこそ、やれば応えてくれる犬種でもあります」　

反抗期が長引き夫婦ゲンカに発展

　前編で触れたが、わたあめちゃんはお母さんのたっての望みで迎えた。「私がめんどうを見るから」と説得した手前、お母さんはお父さんの手を借りずほとんど一人で世話をしていた。なのに、わたあめちゃんはお母さんにははむかい、お父さんには甘えたりと態度を変える。

　懸命に頑張っていた分、お母さんは「なんで？　なんで私にだけ反抗するの？」と理不尽な思いにさいなまれ、お父さんにつらく当たってしまうことも。売り言葉に買い言葉、言い合いになることもあったという。お父さんはこう話す。　　

「それまでほとんどケンカもしたことがなかったのに、わたあめを迎えてから家の中がギクシャクするようになってしまって……。なんとかしなければと、朝晩のお散歩など可能な限り僕が担当することにしました」　

　わたあめちゃんの反抗期は長引き、ストレスからかお母さんはダウン。原因不明の高熱が１カ月も続き、さらに服用した薬が合わず全身に薬疹が走った。店長は「考えていたよりも時間がかかり、心身ともにボロボロになっているお母さんを見るのはつらかった。でも『特効薬』はないのです。

　やるべきことをやった上で、愛犬を信じて待つしかない。わたあめちゃんも必ずどこかでひっくり返る日が来るはず。まずは１歳まで頑張りましょうとお母さんを励まし続けました」と振り返る。

　そんな中、さらなるピンチが。お父さんがコロナに感染。お母さんもまだ体調が戻っていなかったため、悩んだ揚げ句、わたあめちゃんをしばらくＵＧに預かってもらうことに。　

わたあめちゃん、いよいよ激変

　わたあめちゃんは２週間、ＵＧで過ごした。持ち前の体力でハイパーな子犬たちの遊び相手をこなしながら、やりたい放題の子には「いい？ここにはルールってものがあるのよ！」とばかりに姉御肌を発揮。しかし、連日続く子犬たちの相手に、さすがのわたあめ姉さんも疲れを見せ始めた。　

　回復したお父さん、お母さんがお迎えに行くと、わたあめちゃんは「待ってたよー！　」と大はしゃぎ。「わたあめはＵＧが大好きなので、それまではお迎えに行っても帰りたがらなかったのですが、さすがに家が恋しくなったのか初めて帰りたそうな顔をしていました」とお母さん。店長は「おうちで甘えていたわたあめちゃんが、いい意味で現実を知ったのだと思います」　　

　このお泊まりをきっかけにわたあめちゃんは激変した。お父さんはもちろん、お母さんにも甘えるように。「体調が悪いと『大丈夫？』みたいにそっと寄り添ってくれて」と、お母さんは本当にうれしそう。

　お父さんもすっかりデレデレだ。「これまで育てたどの子もかわいかったけれど、わたあめが一番いい子かもしれません」と目尻を下げる。笑顔を取り戻したお母さんはこう語る。　　

「本当に大変だったし、家族の危機も経験しました。でも、大変だったからこそ結束が強まり、今ではわたあめがいないわが家は考えられません。もう、かわいくてかわいくて仕方なくて」　

一緒に乗り越えて絆が深まる

　かけがえのない家族となったわたあめちゃんは、まもなく１歳を迎える。　

　子犬を育てることでノイローゼになるなんて、ましてや家族が壊れてしまうかもなんて「大げさだ」「覚悟が足りない」という声はあるかもしれない。しかしＵＧには、子犬のかみやほえなどの行動に追い詰められ、思い悩む飼い主が次から次へとやってくる。

　筆者自身も先代の子を10年以上育てたにもかかわらず、次に迎えた子犬がとびきりのハイパーで、途方に暮れてしまった経験がある。大の大人を追い詰めたり、家族をギクシャクさせたりする破壊力のある子犬もいるのだ。でも、迷ったり悩んだりするのは、その子犬を愛したい、わかり合いたい、家族になりたいという飼い主の心の底からの強い思いの表れでもある。　　

「うちにやってくるような気が強くて頭のいい子犬は、育てるのは大変かもしれない。でも、一緒に乗り越えることで絆が深まり、これ以上ないほどの幸せな日々が訪れる。僕はこれまで、そういう犬とご家族をたくさん見てきました」　　

　最後に店長は、笑顔でひとこと。　

「わたあめちゃんご一家もそうですが、そのあと待っているのは最高のゴールデンタイム！　十数年の幸せな時間を家族みんなで楽しんでほしいですね」　

高橋信行店長　プロフィール

物心がつく頃から動物関係の仕事に就きたいと考え、動物系の専門学校を卒業後、ペットショップに就職。いくつかの転職を経て、現在はUG DOGSアトラスタワー中目黒店店長。これまでカウンセリングは1300件以上、お泊まりで預かった犬は1000匹を超える。愛犬は、ジャック・ラッセル・テリア「ロイス」。