声を失った犬が教えてくれる悲しみへの向き合い方と出会いへの感謝 映画『ハウ』

映画「ハウ」
©2022「ハウ」製作委員会

 生まれた時から犬と過ごしてきたという“犬派”の俳優・田中圭さんと、もふもふした愛くるしい大型犬が織りなす映画『ハウ』。ほんわかしたビジュアルにほっこりさせられますが、予定調和な動物映画とは一線を画す骨太な一作になっていました。本作では常に人に寄り添う犬の包容力をあらためてかみしめつつ、想定外の結末では切なくも爽やかな余韻に包まれます。

(末尾に写真特集があります)

飼い主をたずねて三千里ならぬ798km!

 田中さんが演じる主人公の役所職員・赤西民夫は、いきなり婚約者にフラれ、人生のドン底にいました。そんな彼が、上司に進められ、飼い主に捨てられた保護犬を飼うことになります。

 その犬はワンと鳴けず「ハウッ」というかすれた声しか出せませんが、人懐っこくてすぐに民夫と意気投合します。民夫は犬を“ハウ”と名付け、仲良く毎日を過ごしていくことに。気がつけばお互いにかけがえのない存在となっていきますが、あることがきっかけで、離れ離れになってしまいます!

 必死にハウを探し続けるも、まったく消息がつかめず、落ち込む民夫でしたが、どうやらハウは北の大地、青森県で生きていたようです。一方で「民夫に会いたい」と心から願うハウ。こうして、青森県から民夫のいる神奈川県へと向かうハウの大冒険がスタートします。

 移動距離はなんと798km!観ているほうは、前のめりになって応援するしかないのですが、その道中でいろんな人に遭遇したり、事件に巻き込まれたりと、ドキドキハラハラの連続となります。

映画「ハウ」
©2022「ハウ」製作委員会

演技初挑戦とは思えない1歳の演技派犬

 本作のメガホンをとったのは『ジョゼと虎と魚たち』(03)や『のぼうの城』(12)の犬童一心監督。名前に“犬”がついていますが、『いぬのえいが』の1編「ポチは待っていた」(05)や『グーグーだって猫である』(08)など犬猫映画の秀作も手掛けていて、動物たちに愛を持って接し、絶妙な演技を引き出してきた監督でもあります。

 原作は『余命1ヶ月の花嫁』(09)、『キセキ ーあの日のソビトー 』(17)などの脚本家である斉藤ひろしの同名小説。自身が飼っていた愛犬への思いを書きつづった本作で、犬童監督と初タッグを組みました。そしてスタッフ陣で特筆すべき立役者は、ハウ役のミックス犬、ベックを“演技派犬”に育てあげた名ドッグトレーナー、宮忠臣かと。

 宮さんは、名作『南極物語』(83)を皮切りに『ハチ公物語』(87)、『クイール』(04)、『マリと子犬の物語』(07)、『犬と私の10の約束』(08)などの動物映画に関わってきたレジェンドです。撮影が始まったころ、ベックはやんちゃ盛りな1歳でした。でも、さすがは宮さんが見込んだだけあり、とても賢いベックは演技初挑戦とは思えない熱演を見せ、スタッフや俳優陣を驚かせたとか。

 あるシーンではベックの動きや表情が見事すぎて、CGじゃないの!?とうたぐってしまいましたが、ベックの演技でした(笑)。田中さんたち共演陣もベックに心をわしづかみされたのは言うまでもないこと。犬との本格的な共演は初だった田中さんですが、最初からベックになつかれ、ベックとの間には芝居を超えた絆が生まれていったそうです。

映画「ハウ」
©2022「ハウ」製作委員会

人に寄り添い、多くのものを与えてくれるハウ

 ハウは、青森から岩手、宮城、福島、茨木、栃木、群馬、埼玉、東京を旅し、最後に神奈川にたどり着きます。その間、ハウはいろいろな場所で人とふれあっていきます。

 東日本大震災で受けた心の傷や町の過疎化、DV問題など、社会問題にも切り込みつつ、身近なペットロスへの向き合い方なども含めて、様々なエピソードが描かれる本作。そんななか、ハウは一貫して、人々にただ寄り添おうとします。

映画「ハウ」
©2022「ハウ」製作委員会

 愛犬家かつ愛猫家として知られる石田ゆり子さんが、ハウの心のうちを代弁するナレーションを担当していますが、そのつぶやきにも心が洗われます。元気のない人にはそっとそばへ行って見守り、危険な目に遭っている人々を見つけると、ひるむことなく命懸けで救おうとするハウ。

 果たして、私たち人間も、ハウと同じように動けるでしょうか? ハウと出会う人たちは、ハウに餌や寝る場所を与えてくれますが、ハウはそれ以上の恩返しをしてくれます。

 人生において、出会いと別れはつきもので、当然ながら後者はとても心の痛みを伴うものですが、その悲しみをどう受け入れ、前に進んでいくのかを、ハウが教えてくれた気がします。そして、結末は、ハンカチ必携の名シーンとなっているのでご注意。また、映画を観終わったあと、『ハウ』というタイトルに込めた原作者である斉藤さんの思いに、あらためて心をはせることになりそう。

 とはいえ、やっぱり一番の見どころは芸達者なベックの熱演です。もんぜつするほどかわいいし、メロメロになること請け合いです。なのでぜひ、エンターテインメント作品としてめいっぱい映画を楽しんでください。

『ハウ』
8月19日(金)全国ロードショー
公式サイト:haw-movie.com
監督:犬童一心
原作:「ハウ」斉藤ひろし(朝日文庫)脚本:斉藤ひろし、犬童一心
出演:田中圭、池田エライザ、野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世理奈、深川麻衣、長澤樹、田中要次、利重剛、伊勢志摩、市川実和子、田畑智子、石田ゆり子(ナレーション)、石橋蓮司、宮本信子ほか
配給:東映
©2022「ハウ」製作委員会

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山崎伸子
ライター、ときどき編集者、カメラマン。映画やドラマのインタビューやコラムをメインに執筆。趣味は旅行、酒場&酒蔵巡り、パンダグッズ集め。好きな映画と座右の銘は『ライフ・イズ・ビューティフル』。実家に帰るとやんちゃなわんこが二足歩行でお出迎え。

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