「僕はティオ」「後ろの私はペペよ」(小林写函撮影)
「僕はティオ」「後ろの私はペペよ」(小林写函撮影)

猫との暮らしは癒やしや楽しさばかりじゃない やんちゃ過ぎた子猫期と闘病生活

 東京23区西部の住宅街に開業して3年のS動物病院が、みさきさんの愛猫2匹のかかりつけだ。茶トラのオス「ティオ」と、キジトラのメス「ぺぺ」はきょうだいで、ともに今年で11歳になった。

 2019年12月、当時8歳のティオの食欲がなくなり、訪れたのが最初だった。以前通っていた動物病院が移転し、家から徒歩10分の距離にできたばかりと知ってのことだった。

 明るい待合室には、親しみやすい雰囲気が流れていた。ここに頻繁に通うことになろうとは、そのときは思っても見なかった。

(末尾に写真特集があります)

手のひらサイズの子猫は、無条件にかわいかった

 みさきさんにとって、暮らしの中に猫がいることは子ども時代から日常だった。だが、2010年の暮れに4代目の猫「トラ」が18歳で天寿をまっとうしたときは、当分猫を飼うつもりはなかった。

 みさきさんには2歳の娘がおり、2人目を妊娠中だった。新たに猫を迎えて世話をする余裕はないと思っていたからだ。

 だから、母親の知り合いを通し「生まれたばかりの猫の4きょうだいがいて、2匹ずつ引き取ってくれる家を探している」と聞いたときも最初は断った。

 だが、何度か打診されるうちに「見に行くだけなら」という気持ちになり、実際に目にした瞬間、子猫たちの虜になった。団子になってミーミー鳴く生後2週間の手のひらサイズの子猫は、無条件にかわいかった。

「いらっしゃい、ティオです。いつお帰りですか?」(小林写函撮影)

 みさきさんは、手足のがっしりとした健康そうな茶トラと、ピーターラビットの絵本に出てくる「こねこのトム」によく似たキジトラを選んだ。子猫たちは離乳が終わった生後1カ月でみさきさんの家に迎えられ、茶トラは「ティオ」、キジトラは「ぺぺ」と名付けられた。

大変な子猫期の世話を経て、性格の異なる2匹は仲良く成長

 2匹はやんちゃ盛りでかたときも目が離せなかった。カーテンによじのぼってはボロボにするし、ソファにも爪を立てる。縦横無尽に駆けまわるので、雑貨や花も飾れない。食欲が旺盛で、人間の食べ物にも興味津々。夜中や明け方には、追いかけっこをしている音で起こされた。

 子猫の習性については、過去の経験で十分わかっていた。それでも以前より大変だと感じたのは、子育てに加えてつわりがひどかったからだ。2年も経つ頃には2匹の行動は落ち着いたが、自分のことで手一杯で、かわいかった子猫時代をあまり堪能できなかったことが今も悔やまれる。

「今日は人が大勢いるわね」「ペペは隠れていれば」(小林写函撮影)

 ティオは人懐っこくて愛嬌があり、おっとりした性格。ぺぺは警戒心が強く察知能力があり、しっかりもので賢い。性格の違う2匹は仲が良く、2歳の頃、ティオが一時軽い尿路結石症を患った以外は、大きな病気をすることもなく成長した。

過剰な水飲み、怠慢な動き…茶トラ猫「ティオ」に起きた異変

 茶トラは食いしん坊だとよく言われる。ティオの場合も違わずで、請われるままにフードを与えていたら、いつの間にかぺぺと比べて1.5倍ぐらいの大きさになっていた。それでも、もともと骨格が太いし元気なので、あまり問題視はしていなかった。

 そのティオが8歳の冬、急に水をたくさん飲むようになった。以前、尿路結石を防ぐには水分補給が重要と聞いていたので、よい傾向だと安心していた。だがしばらくすると食事をとらなくなった。動きが緩慢になり、これはおかしいと連れて行った病院がS動物病院だった。

 受付では、若くやわらかな雰囲気の女性が応対してくれた。てっきりスタッフだとばかり思ったが、獣医師で院長のT先生だった。

 T先生は診察室でもとてもきさくだった。血液検査の結果、ティオは糖尿病と診断された。

 糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンが不足するか、もしくは正常に働かなくなり、血中の糖が増える病気だ。

 しかもティオはケトアシドーシスという状態で、極度の糖不足により飢餓状態に陥っている、とのこと。体重も減っており、そのまま3日間入院をし、緊急治療を行うことになった。

朝晩のインスリン注射、自宅での糖尿病治療がスタートした

 猫も糖尿病になるということを知り、みさきさんはショックだった。

 3日後、症状が改善されたティオとみさきさんを待っていたのは、自宅での治療だった。飼い主が毎日、血糖値を安定させるためにインスリン注射を朝晩2回投与する。

 猫に注射など無理だと尻込みしたみさきさんだが、ほかには方法はないと知り、腹をくくった。生理食塩水を充填した注射器を使い、ティオの肩甲骨の下の皮膚つまんで皮下に針を刺す練習を病院で行うと、ティオは抵抗することなく従ってくれた。

「お母さん、この人たちいつ帰るの?」(小林写函撮影)

 実際、家でのインスリンの注射は難しくはなかった。インスリンの投与は、猫がフードを食べている間か、食べ終わったことを確認してから行う。空腹時に与えて低血糖になる危険を避けるためだ。

 食事中は他のことがまったく気にならないティオの場合は、指定された量のインスリンを注射器で吸い取り、背後からさっと皮膚をつまんで針を刺すだけで問題なく投与できた。

 だが大変なのは、それからだった。

 次回に続きます。

(次回は8月12日公開予定です)

【前の回】猫たちを信じて暮らしを見守る 自分にできることは精一杯の愛情を与えること

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
動物病院の待合室から
犬や猫の飼い主にとって、身近な存在である動物病院。その動物病院の待合室を舞台に、そこに集う獣医師や動物看護師、ペットとその飼い主のストーリーをつづります。
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