猫が登場するフリーペーパー 5匹の「猫スタッフ」に見守られながら編集
フリーのグラフィックデザイナー・ライターのさわたのりこさん(32歳)は、結婚後にひょんなことで保護猫に感心を持ち、今は5匹の猫とにぎやかに暮らしています。2年前から猫が登場するフリーペーパーの発行も始めました。かわいい愛猫たちのこと、日々の様子について伺ってみました。
店前からいなくなった野良猫が気になって
「いつも猫たちに見守られているというか、監視されています!パソコン横にマットレスを敷いて、本棚にもクッションがあるので」
秋田県の自宅の仕事部屋で話すさわたさんの近くに、1匹、2匹、3匹……。
「5匹です(笑)。5歳の雄のちくわと雌のよもぎ。その子どものなずな、あさり、わさび。子どもは、なずなだけ女子です。ちくわを中心に、猫家族がすごくまとまっているんですよ」
さわたさんが猫と暮らし始めたのは、5年前。その少し前に、きっかけとなる出来事があったという。
「夫とホームセンターに行った時に、店の前でおとなの猫を見かけました。捨てられたようでした。結婚して猫と暮らしたいなと思っていた時期だったのですが、その時は何もできず……その後、また店に行ったら猫がいなくなっていて。気になって、その猫のことが忘れられなくなってしまったんです」
さわたさんはそれを機に、外の猫や保護猫に強く感心を抱くようになった。保護猫サイトがあると知り、のぞいてみると、近所の人が「引っ越しで飼えなくなる2匹がいます。家族になって下さい」という情報を出していた。2匹は生後半年で、血のつながりはなかった。
「それが、ちくわと、よもぎです。離れ離れになると可哀想なので、2匹一緒に申し込みをしたんです」
こうして2匹の命を引き継いで、家に迎えると、ちくわはフレンドリーで初日からひざの上でごろごろした。一方、よもぎは警戒心が強く、隅っこに隠れて動かない感じだったという。
「少しずつ、新たな環境に慣れてくれればいいなあと思っていました……」
しかしその後、予想外のことが起きた。前の飼い主からは、ワクチンと避妊去勢がまだと聞いていたので、(整うまで)2匹は部屋を分けていたのだが、よもぎの妊娠がわかった。
子猫わらわら、イクメンぶりに感動
「病院では初め、3匹いるといわれました。もちろんびっくりしたのですが、うちは一軒家だし、子猫は3匹までなら大丈夫だねと夫と話しました」
定期健診をしていたが、生まれる1週間前になって赤ちゃんは5匹とわかった。そこで周囲に声をかけて、2匹を信頼できる友人に譲渡することを決めた。
「準備万端のつもりでしたが、出産は事前に調べたことと違うこともあり焦りました」
出産は休みの日だったので、夫婦そろってよもぎに付き添い、ちくわも一緒に見守った。リサーチする中で、「血の匂いで雄が赤ちゃんを食べることもある」と言う話を聞いたため、念のため、産気づいた時にちくわを少し離れた場所のケージに入れた。
「ところが、ちくわを離すと、よもぎがちくわを懸命に探すように追いかけて……歩きながら、赤ちゃんをぽと、ぽと、と床に産みおとしてしまって」
夢中になって夫婦で拾い、手袋を着けて温めて、1カ所に集めた。
さわたさんにとっても初めてのお産は大慌てとなったが、一段落し、わらわらとおっぱいを吸う子猫の可愛さにじーんとなったという。そして、感動したことがもうひとつあった。
ちくわが素晴らしいイクメンぶりを発揮したのだ。
「寄り添って、排泄(はいせつ)も手伝ってくれたんです。赤ちゃんが鳴いたら、ちくわがぱーっと走って世話にいく。ミルクをあげて疲れ果てているよもぎにとっても、心強かったことでしょう……。子猫を友人に譲渡したのは2カ月ほど経ってから。ワクチンを2度打つまでは、我が家で責任を持とうと思いました」
こうして2匹から5匹になり、にぎやかな所帯となったのだ。子どもたちは病気することもなく、すくすく育った。猫と暮らす感動は、いつしか、仕事にも反映されていった。
フリーペーパーの発行を始めた
さわたさんは2020年よりフリーランスとなり、「ねっこ編集室」としてグラフィックデザインをメインに雑誌やweb媒体の取材、執筆などを行っている。
そして、その年の秋から、フリーペーパーの発行を始めた。企画、編集、執筆はすべてさわたさん。タイトルは『ねことわたしの謎新聞 ネコノオト』。現在、最新号(No22)は7月に発行された。
「ネコノオトというタイトルは、猫の音(生活音)を聞きながら暮らしていることと、記録=ノートをあわせたものです。人に訴えかけるものではなく、休憩時などに気楽に読める内容で、何が書いてあるのかな?と手に取った人がふわっと読める。それで、謎新聞(笑)。私は話すのが苦手で書く方が好きなので、自分を知ってもらう手段でもあるのです」
今は1000部刷って、秋田県を中心に10都府県のお店などに置いてもらっているという。
No21を開いてみると、愛猫のコラム、フォトギャラリー、猫本コーナーが常設された図書館への取材記事や、その図書館のおすすめの猫本、そのほか、食べ歩きや作家の寄稿文など、楽しさがぎゅっと詰まっている。さわた家の“猫スタッフ”たちに見守られながら編集作業をしていると思うと、とてもほほ笑ましい。
「じつはネコノオトは最初、ネコといいつつ猫の話はほとんどなかったのです。でも猫好きさんに読まれることが多くなり、N015あたりから猫に特化していった感じです」
まさにニーズに応え、猫の出番が増えたのだ。
さわたさんは、猫首輪をはじめ、猫のイラストを描いたバッグや、缶バッチなども制作(販売)している。その売り上げは、ネコノオトを作る活動資金のほか、動物愛護団体や個人で保護活動をしている方などへの寄付にもなる。
「イベントなどに出店した際に得た収益の一部を、猫をたくさん保護している県内のお寺にごはん代として寄付することもあります」
これからも猫たちに尽くしたい
さわたさんと猫の4年はめまぐるしく過ぎたが、猫と一緒に暮らすうち、その生態や行動にすっかり魅了されたようだ。
「猫ってもっと自由きままな生き物だと思っていたのですが、人の気持ちがよくわかるんですよね。たとえば夫婦のどちらかが風邪を引いて寝たりすると、猫全員が“しおしお”として、運動会を控える。猫の誰かが少し体調を崩しても、やっぱりほかの猫たちが静かになるんです。相手の気持ちを察して行動するんだなと思って、それが意外でした」
じつは先月、よもぎが急性膵炎(すいえん)になり、夫婦もほかの猫も、落ち着かなかったという。
「いきなり何度も連続で泡のようなのを吐いたので、すぐに病院に連れて行くと膵臓の数値が悪く、すぐに点滴をしました。注射に3日通って、その後、薬を10日ほど飲みました。膵炎は怖い病気だし、慢性なら『一生、薬を飲むかも』と先生にいわれたので、本当に心配でしたね。ちくわや3匹の子たちもそわそわしていました」
今はよもぎも回復し、みんな元気いっぱいだ。
「在宅で仕事している時に異変に気付けたのでよかった」と、さわたさんは胸をなでおろす。
「猫に囲まれて生活し、作業もできるという最高の環境に身を置いているのだから、猫のことをよく見てあげたいし、これからも一生懸命、下僕としてお世話をさせていただきます。経験を生かし、“猫の可愛さ”も伝え続けたいですね」
保護猫の助けになるような活動も、続けたいという。
「我が家では猫の保護や預かりができないので、小さくても寄付や物資の支援を積み重ねていきたい。家族募集のちらしを作ったり、情報を拡散したり、できることをどんどんしたいと思います。うちの子たち、これからもお仕事の監視をよろしくね!」
猫をなでながら、さわたさんがハッピーな笑顔を見せてくれた。
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