「人が動物を助け、動物が人を助ける」 カリフォルニアの保護シェルター

1991年設立、アメリカ・カリフォルニア州コントラコスタ郡にある犬猫の保護シェルター「Tony La Russa’s Animal Rescue Foundation(通称:ARF)」

 公益社団法人「アニマル・ドネーション(アニドネ)」代表理事の西平衣里です。アニドネには海外在住のボランティアスタッフがいます。日本から海外へ移り住んだ途端に、動物の扱いの違いに驚き、日本にいる動物たちのために活動したくなった、という方々です。

 仕事の関係で渡米し、カリフォルニア州サンフランシスコにお住まいの李静佳(り・しずか)さんもその一人。降り立った空港で、犬が生き生きと歩いていることに衝撃を受けたそう。今回、李さんがボランティアをしているカリフォルニア州コントラコスタ郡ウォールナットクリークにある犬猫の保護シェルター「Tony La Russa’s Animal Rescue Foundation (トニー・ラルーサズ・アニマル・レスキュー・ファウンデーション」(以下ARF)を、みなさんへ紹介したいと思います。

(末尾に写真特集があります)

カリフォルニア近郊の動物事情もさまざま

 アニドネでは海外の動物法の調査等をしていますが、アメリカの状況は州によって大きく異なります。その中で、カリフォルニア州は動物福祉に関しては進んでいる印象があります。ただ、李さん曰く、同じ州内でも状況は異なっているのだそう。

「エリアによって貧富の差がものすごく激しいので、同じ州内でも犬との暮らしぶりや好まれる犬種に違いがあります。家族と同じように犬に愛情をもって暮らしている方が多いですが、貧しいエリアでは人間と犬がお互いの身を守る役割を果たすこともあります。保護活動も同じくで、私がフォスターボランティアをしているARFは保護・譲渡以外にも活動を拡げられるリソースがありますが、他のシェルターでは噛み癖・吠え癖などの問題を抱えた犬が多かったり、譲渡が難しかったりといった問題もあります」

今回取材をしてくれたクラブアニドネの李静佳さん。ARFの保護動物のフォスター(一時預かり)活動をしている

 その中で、今回紹介するARFは、広大な敷地(約3,465平方メートル)に、犬猫の保護施設や事務所、大規模な獣医療施設、ボランティアや地元の人への啓発活動のためのセミナールーム、メンタルサポート犬育成のための専用の訓練施設、物販エリアなどが備わっています。77名の従業員に加え、数百名のボランティアスタッフが所属。2021年は1,200頭以上の犬猫を保護し、1年間におよそ1,000万ドル(12億円)の寄付に支えられている、カリフォルニアの中でもトップクラスの規模を誇るシェルターです。

発端はメジャーリーグの試合中に球場に迷い込んだ猫

 ARFは、1991年に設立されました。創設者はメジャーリーグ元監督のトニー・ラルーサ氏で、試合中にグラウンドに迷い込んだ一匹の猫が設立のきっかけです。

約30年前、試合中にグラウンドに迷い込んだ猫「イービー」。この子が人々の心を動かした

 当時アメリカのメジャーリーグを牽引していたオークランド・アスレチックの試合中、グラウンドに迷い込んだ猫が保護されました。しかし、その頃オークランド近郊のエリアには動物保護施設が充実しておらず、この猫の安全が保証されないことを知ると、トニーと妻のエレインは、この猫の安住の地を見つけるためにARFを設立。

「イービー」と名付けられた猫が人の心を動かし、シェルターが誕生したのです。なんとも、ほっこりする逸話です。

多岐にわたるシェルターの役割

 日本では、保護シェルターというと、行政でも民間でも保護して譲渡することがメインです。同じくARFも犬猫の保護譲渡がメインではあるものの、より広くサポートを行っています。
 例えば、シェルターには獣医療設備やトレーニングのできるドッグパークがあり、犬猫の心身の健康を守る設備が充実しています。そして動物側だけでなく、人間側へのサポートも考えられています。

開放的な「ドッグパーク」。犬たちの運動や遊び、トレーニングなどで利用

 保護犬猫を引き取る際に相談できるコーナーの設置や、飼育グッズの販売もされています。子どもたちは施設を見学することができ、またサマーキャンプやセミナー、施設での誕生日パーティも可能です。
 さらに、アメリカらしい試みとしては、PTSDを抱える米国退役軍人のために、トレーニングを受けた犬たちをマッチングする「Pets and Vets」というプログラム専用の建物もあります。2001年の米中枢同時テロ以降、米国の現役・退役軍人の自殺者数は、戦死者の4倍以上とも言われており、アメリカでは深刻な問題となっているようです。

PTSDを抱える米国退役軍人のためにトレーニングを受けた犬。もちろん犬にとっても幸せなスタートとなるように、譲渡先のスクリーニング、譲渡後のフォローアップなどが「Pet and Vets」には含まれている

法整備も欠かせない要素

 カリフォルニア州法の改正もご紹介させてください。ARFのような素晴らしい活動が根付いている背景には「法整備」も大きいと私は考えます。
 カリフォルニアでは、2019年からペットショップで展示できる犬・猫・ウサギは、動物保護施設やシェルターから受け入れた子に限られています。2020年には、商業ブリーダーから入手した犬を「保護犬」と偽って販売するなど、法の抜け穴をつく行為を規制するためにさらに法律が強化されました。

ARFの医療施設の一部。一般的な動物クリニックよりも多くの手術台があり、一度に6匹の不妊・去勢手術に対応することもあるのだそう

 具体的には、譲渡までにマイクロチップの装着、ペットショップでは保護動物の展示をする際に手数料を取らないこと、新しい飼い主さんへの譲渡にかかる費用は総額500ドルを超えないことや不妊・去勢手術を義務とすることなど、細かく規定をされています(カリフォルニア州法§122350 – 122361)。

人が動物を助け、動物が人を助ける

 私は、ARFの「People Rescuing Animals … Animals Rescuing People®(人が動物を助け、動物が人を助ける)」というミッションに深く感銘を受けました。動物たちは決して商品ではありません。私たちも動物に助けられて生きていることは、sippoの読者さんなら深く理解をしてくれると思っています。アメリカとは国土や文化の違いはあるものの、大切な動物に対しての気持ちは同じはすです。

 今回のシェルター紹介記事が、日本の動物福祉向上に繋がればと願います。
 アニドネの海外情報レポートには、ARFのスタッフインタビューやより詳細が掲載されています。ぜひお読みください。「保護だけではない、多岐にわたるシェルター活動 <海外情報レポート・アメリカ編>

(次回は8月5日公開予定です)

【前の回】自分の財産を未来の動物たちのために役立てる 「遺贈寄付」という選択

西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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