一緒に暮らしている動物と避難するのは当然 ウクライナの国境の町で見た世界のうねり

 ロシアによるウクライナへの侵攻が始まって以来、現地からの悲惨な報告を数多く見てきた。徹底的に破壊された町や失われた命。目を背けたくなるものが多かった。ごくたまに犬や猫の姿を捉えた写真も見た。戦争の中、彼らはどうしているのだろう。矢も楯もたまらず、ウクライナへ行くことにした。これはその報告の2回目です。

(末尾に写真特集があります)

避難所には動物愛護団体が集まっていた

 まずはポーランドに入った。4月中旬の時点では、ウクライナは陸路でしか入ることができなかった。首都ワルシャワから車で5時間、国境の町、プシェミシルに着いた。国境付近は、避難民でごった返し、「人買い」がいるとか、治安が良くないという人もいた。が、町はいたって平和で、歴史的な建造物が多く美しかった。

ウクライナと国境を接するプシェミシルの市内。歴史のある美しい建物が多い

 プシェミシルには大手のスーパーマーケット「テスコ」の跡地を利用した避難所があった。避難民が一時的に宿泊できる施設だ。広大な敷地で、犬を散歩させる人をよく見かけた。動物(犬、猫、ウサギなど)と一緒に滞在できるという。結構なサイズの大型犬を連れた人もいたが、特に困った様子はなかった。一緒に暮らしている動物と避難することは当然のこととされているのだ。

 避難所前には、世界中からやって来た動物愛護団体のテントがあった。フランスの女優、ブリジット・バルドーが代表を務める財団。おそろいのパーカーを着たメンバーたちが、ペットフードを始め、犬や猫を運ぶケージ、首輪やリード、オモチャなどを無料で配っている。近くの動物病院を紹介したり、同行避難のためのアドバイスもしていた。

 他にも118年の歴史を誇るデンマーク最大の動物愛護団体もテントを常設していた。手術を行う医療用の特別車両もあり、すべては無料で利用できる。とにかく至れり尽くせりだ。

オデッサから大型犬2匹と避難してきた家族

犬を介してつながる人々

 ウクライナ西部の町、リビウから避難してきた一家と出会った。ラッキーという名のジャックラッセル・テリアを連れている。数日前にリビウが攻撃され、避難を決めたという。飼い主の女性は不安そうだった。3人の子どもと高齢の母親が一緒だった。

 まずは避難所で使うためのケージを勧められた。犬の大きさに合わせて候補を見せてくれる。次はフードを選ぶ。「他に困っていることはない?」とデンマーク人のボランティアが優しく話しかける。飼い主はケージとフードと薬を受け取った。

 ラッキーはもらったばかりのケージに早速潜り込んだ。その姿を見て飼い主は笑顔になった。それまでの緊張がほぐれたのか、飼い主は目に涙を浮かべながら何度もお礼を言った。ボランティアは飼い主をハグした。その周りをラッキーが走りまわる。犬を介して、国を超えて人と人がつながっていく。

リビウから避難してきた家族とデンマークの動物保護団体のメンバー

 翌日、ウクライナに行くために国境を接する町、メディカへ向かった。目的地は西部の町、リビウとドロホヴィッチ。そこで動物愛護活動をしている人に会うことになっていた。戦闘が激しいのは首都キーウとマリオポリなど東部だと聞いていても、やはり少し恐かった。数日前にリビウにも爆撃があったし、次に何が起こるか誰にもわからない。緊張しながら、メディカに着いた。

 驚いたのはここでも避難民を迎えるための熱気にあふれていたことだ。国境へ向かう180メートルの通路の両側には支援のためのテントが並ぶ。いつでも温かい食事が食べられるワールドセントラルキッチン、医療用の施設、携帯電話用のSIMカードが提供されるテントもあった。

「ピザを食べていかない?」「温かいコーヒーがあるよ」と声をかけられる。私たちは取材チームで避難民ではないからと断ると、「そんなこと気にしないで。戦争のことを伝えに来たんでしょ。同じ仲間だよ」と返された。気温は1℃近く。受け取ったコーヒーの温かさがうれしかった。

国境へ向かう通路にはさまざまな支援施設が並ぶ

動物ケアも人と同じくらい大切

 さらに国境に向かって進むと、アメリカの大きな動物愛護団体ifawのテントがあった。ここでもフードやリードやケージなどを無料提供している。

 一番驚いたのはその場所だった。国境へ向かう直前の場所に設置されているのだ。通路の反対側は赤ちゃんと母親のためのテント、その隣に医療施設があった。つまり、避難してきたひとが、一番最初に目にするのがこの3つのテントということになる。

 赤ちゃんと母親や医療が必要な人向けの施設が国境にもっとも近い場所にあるのは理解できる。が、ほぼ同じ場所に動物のための施設もある。動物のケアも人と同じくらい大切だと考えられているからだろう。あらためて、ヨーロッパの動物への愛護精神の深さを感じた。

通路の案内図。犬のマークの箇所で国境を越えたらすぐに動物のケアができる

 ifawのテントに入るとメキシコ人の獣医師エリカ・フローレンスさんが猫の診察中だった。エリカさんは飛行機を3回乗り継いでまる一日かけてやって来た。24時間対応で4人のスタッフで運営している。

 テント内には、9匹の猫がいた。預かりもしているのかと聞くと「これは特別」と言って、一枚の写真を見せてくれた。昨夜の1時ごろ、80代くらいのおばあさんがひとりで13匹の猫と1匹の犬を連れてウクライナから避難して来た。4匹の猫が目の病気を煩っていて、すぐに病院に運んだ。おばあさんは意気消沈していて、この先猫を連れて避難するのが難しい様子だった。

 ifawで全部の猫を預かって譲渡先を探すことにしたという。大変でしたねと労うと「動物を救うために獣医になったんだもの。全然苦じゃないわ」と笑った。

メキシコ人の獣医師:エリカ・フローレンスさん

 戦争は国と国が争うこと。でも、ここには国を超えて動物を救おうとする人がいる。彼らは動物だけでなく、動物と一緒にいる人も救う。ごく当たり前のように。

 ウクライナへ入ることを恐れていたが、気持ちが変わった。戦火のなかでも動物を救おうとする人の献身を少しでも伝えられたら。これからいよいよ、国境を越える。続きは次回です。

【前の回】動物が気になり現地取材 ウクライナ、戦火のなかでも犬と猫を救う人たちと出会って

山田あかね
テレビディレクター・映画監督・作家。2010年愛犬を亡くしたことをきっかけに、犬と猫の命をテーマにした作品を作り始める。主な作品は映画『犬に名前をつける日』、映画『犬部!』(脚本)、『ザ・ノンフィクション 花子と先生の18年』(フジテレビ)、著書『犬は愛情を食べて生きている』(光文社)など。飼い主のいない犬と猫へ医療費を支援する『ハナコプロジェクト』代表理事。元保護犬のハル、ナツと暮らす。

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この連載について
ウクライナの犬と猫を救う人々
ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まり、映画監督で作家の山田あかねさんは現地に向かいました。ポーランドとウクライナで動物を助ける人達を取材した様子を伝えていきます。
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