高齢の母が緊急入院! 部屋に残された2匹の猫たち、家族が覚悟したこと
高齢の親が倒れて、飼っているペットが残されたという話をたびたび聞きます。この前、私の身にも起きました。前日まで元気だった80代の母が急病で救急搬送されて、母の可愛がっている2匹の猫が実家にぽつん……。幸い母は退院できましたが、慌ただしかった日々を振り返り、あらためて高齢者とペットのことも考えてみました。
突然の出来事
昨年の春、このコラムに猫好きな母のことを書きました。認知症で、飼い猫の餌やりやトイレ掃除が前よりうまくできなくなったけれど、猫が好きで、私と会うたびに「(歴代の)愛猫の名を言い当てるクイズをして楽しんでいる」という内容でした。
その後、母は転んだりもしましたが、今年1月に無事に88歳の誕生日を迎えることができました。米寿です!そう喜んだ矢先……2月に突然、倒れてしまいました。
「ママの様子が変」という弟からの連絡で実家に駆けつけると、布団に寝たまま震えて腹痛を訴えています。母の愛猫ルビィ(9歳)とちび(7歳)がのぞくようにそばで見ていました。
意識はあるものの顔色があまりにも悪いので、救急車を呼びました。救急隊員がバタバタと部屋に入ってくると、2匹の猫はクモの子を散らすように、ぱーっとどこかに隠れました。
コロナで会えず、病室に猫の写真を届ける
検査の結果、母は急性膵炎(すいえん)の疑いがあり、そのまま入院になりました。その時(今もそうかと思いますが)病院ではコロナ対策のため救急の診察室までしか家族は付き添えず、一般病棟に移ってからは、直接は会えないことになりました。
翌日、医師に呼ばれて容体を聞くと、「覚悟してください」という思いのほか重い言葉。膵炎だけでなく誤嚥(ごえん)性肺炎も起こしてしまい、胸水がたまり、絶対安静でした。
まず72時間、それを越えても1週間は危ない。延命治療や、緊急時に関する様々な書類にサインをし、本当に「覚悟」をしました。
入院時に母はもうろうとしていたので、薬で痛みが取れた時に「ここはどこ」「なんで家族に会えないの」と思うはずです。コロナが蔓延(まんえん)していなければ面会できるのに……と、歯がゆく思いました。認知症のため携帯電話の操作が難しくなったので、つい最近、母の携帯を止めたばかり。医師を通じて母の様子は聞けるものの、母と直接、話す術はありませんでした。
母に何かできることはないかと思い、私はルビィとちびと家族の写真を届けることにしました。点滴を受けながらでも、写真は眺めることができる……。自分が昔、入院して家の猫に会えない時、飽きずにずっと猫の写真を見ていたし、他の患者さんからも、「愛犬の写真を病室に貼って(はやく帰れるように)治療の励みにしている」と聞いたからです。母にとって写真が少しの支えになれば、と祈るように思いました。
椅子で爪を研ぐルビィ、棚から降りないちび
母の急な入院で慌てたのは、私たち子どもだけではありません。猫もおろおろ。毎日母と一緒に寝ていたちびは、添い寝する相手が帰ってこないせいか、食欲を失い、高い棚の上からほとんど降りなくなりました。母のひざによく乗っていたルビィは、部屋を落ち着きなく歩き、母が座っていた椅子でやたらと爪をバリバリ。
……母は72時間がんばり、1週間がんばりました。でも予断は許さない状況。家に戻れたとしても、介護でヘルパーさんなどが入るかもしれないので、私は仕事を休み、実家の掃除や片付けをしました
なになに?と猫たちはまたびっくり。デリケートな猫は、模様替えでもショックを受けるといいます。家族が減って、家具の配置も変わるダブルの変化で、ルビィもちびも落ち着きません。(でも仕方なかったんです)可哀想に、ルビィは何度か嘔吐(おうと)してしまいました。
母は一人暮らしでなく、私の弟と住んでいますが、弟も体調を崩して(母が倒れる前から)自宅で休んでいるので、弟には猫の世話を全面的に頼めない状況です。弟からも、「このまま(母に)何かあったら、猫を頼む」とはっきり頼まれました。
万が一の時、陽気なルビィは私の姉の家へ、繊細なちびは、私の家で預かろうと決めました。ちびはシャイで難しいのですが、私が棚の上まで食事を運ぶと、手からぺろぺろとごはんを食べてくれるので、そこにつながりと希望を感じたのです。
私は18歳のイヌオと4歳のはっぴーとマンションで暮らしているのですが、(マンションは3匹までOKなので)、何とか引き取って、うまくやっていきたいと思い、チビの受け入れのため3段ケージを新たに買いました。ケージを組み立てながら、母と過ごした日々を振り返り、棺にいれるための手紙の文句まで、考えてしまいました。
〈ママ。天国のクロやベガやユキ、リーナに会えるといいね〉というようなことを……。
久々の再会に猫たちは……
ところが、母は起死回生。入院から2週間して炎症が治まってきて、3週間すると治療が終了し、歩く練習もはじめ、退院のめどがたったのです。
「お母さんはがんばりました。あの状態から奇跡的です」と、主治医も驚いていました。
1カ月して退院した母は、認知症がさらに進み、トイレ事情などいろいろ変化もありましたが、「ルビィちゃん、ちびちゃん」と猫の名を呼びました。家に戻ったとたん、入院していたことを忘れてしまったのですが、猫のことを覚えていてほっとしました。
猫はといえば……大喜び。犬のようにシッポをぶんぶん振って抱きつくことはありませんでしたが、ルビィは「にゃあ(どこいってたの)」と母を見て鳴き、高い所に上っていたちびは、そそくさと降りて、母の“枕もと”にちょこんと座ったのです。
その姿をみて、胸が締め付けられました。
やっぱり母のことが好きなんだ。あんなにかたくなに上から降りてこなかったのに……。
じつはケージを組み立てた日、もう母は実家に戻れないかもしれないと思い、キャリーバッグを持っていき、ちびを私のマンションに連れていこうとしました。けれど、普段はおとなしいちびに「いやだここにいる!」とすごく抵抗され、諦めたのです。
ちびは、知っていたのかもしれません。もう1回、「ママに会える」ことを。
母は生命力が強く、薬も効いて運よく助かったと思っています。今は、神様がくれた贈り物のような時間。高齢だし、またいつ何があっても不思議でないと覚悟しています。
高齢者にとって、飼い犬や飼い猫は「刺激を受ける」「会話や笑顔が増える」「精神的に落ち着く」存在といわれます。幸せホルモンが心を癒やし、体の痛みまで取ることがあるのです。
共にいる犬や猫も、お年寄りの声、手、ゆっくりとした動きなどに癒やされているはずです。
私も間近で、母と猫の相互の関係を見てきました。そして今回つくづく思ったものです。
とつぜん大好きな相手がいなくなった時の、ペットの“心身の健康”をよく考え、その後のケアやフォローをよくしないといけない、と。せっせと実家に通って世話しましたが、ルビィもちびも1カ月で少しやせました。
我が家はいつか、環境の変化がくるでしょう。その時まで、母と猫と、少しでも穏やかに過ごしてもらいたいと思っています。
ルビィちゃん、ちびちゃん。今日もママと、どうかいい時間を。
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