兄弟猫2匹がシンガポールに引っ越し 新生活で猫たちのキャラが逆転した
東京都内に住んでいた2匹の兄弟猫が、昨年、飼い主さんの仕事の都合でシンガポールに引っ越ししました。予防接種や証明書の手続き、家の片付けの関係で、猫たちは家族と別の日に出国することになりました。心配は山積みでしたが、飛行機の長旅を終えた猫たちは、その後、無事に家族と再会……。出国前や、今の生活について、お話を聞きました。
時間差でシンガポールへ
「愛猫のまるもんたと吉太がこちらに来て5カ月経ちました。後から来た私よりも猫の方が先輩なので、すっかり家になじんでいますよ(笑)」
シンガポール在住の晴美さん(33歳)が、1月半ばにオンラインで取材に応じてくれた。画面に映る2匹の猫(ともに6歳)は、気持ちよさそうにくつろいでいる。
しかしここに至るまで、大変だったそう。
晴美さんの家族は、まず夫が6月に日本を出て、続いて8月に猫たちが、そして最後に晴美さんが11月に出国と、3者が時間差で“渡星”をした。
手続きは代行業者に頼み、夫が家探し
「海外赴任の話が出た時、『猫と私が安全に暮らせる地域なら行く』と言ったんです。国によっては、夫と別居もあり得ました。シンガポールは大丈夫そうだったので、猫を連れていくことにしたのです」
だがリサーチを始めると、猫の輸入許可申請の手続きがいろいろあることがわかった。
「ワクチン接種、マイクロチップや去勢済みの証明書、狂犬病の2回の予防注射とその抗体検査の証明書(日本語と英語)、検疫の証明書など必要な書類があまりに多くて……。日本とシンガポール間のペットの輸送代行業者を探して、複雑な作業を頼むことにしたのです」
獣医師に書類を書いてもらったり、愛猫を空港まで連れていくなどできることは自分たちですることにしたが、各種手続きには時間がかかった。
たとえば、狂犬病の予防注射を打つ時期を指定されたり、1回目と2回目の注射の間を一定期間空けないといけないなど、申請をすべて終えるまで3~4カ月必要だった。
そのため、ペットの申請をする間に、じっくり家を探すことにした。
「私が日本に残って猫の輸送の手続きをあれこれしている間に、一足先にいっていた夫が家を探しました。住むのは賃貸のコンドミニアム(マンション)です。シンガポールは日本と違って、ドアを開けるとすぐリビングという間取りが多いとわかり、13軒くらい、家を見てもらいました」
たくさん探した中で、猫が脱走しにくい(万一部屋から出てもエレベーターホールで捕まえられる)プライベートエレベーターがある物件が見つかり、住まいの件は一件落着した。
「日本の家とは違い石床なので、夫が猫のためにふかふかのジョイントマットを部屋に敷き詰めてくれました。また、何軒かペットショップに通い、猫グッズやキャットタワーも探してくれました」
猫を迎え入れるための部屋作りが進むなか、猫を輸送できる時期も決まった。
しかしコロナがおさまっていないため、晴美さんは日本でコロナのワクチンを2度打ってから行くことにした。
「猫の手続きやワクチンもあり、私だけ遅くなりました。結局、“猫だけ”を飛行機の貨物で輸送することにしたのですが、8時間くらいかかるし、やはり心配でしたね」
輸送には1匹ずつキャリーバッグが必要だった。中で猫がターンできて立ったり座ったり横たわれる余裕のあるものを用意した。
輸送中に暴れて爪が折れた
8月の猫の出国の数日前、晴美さんは書類の提出とICチップの動作確認で2匹を羽田空港支所(動物の輸出入検査をする場所)に車で連れていった。
事前に獣医さんに処方された安定剤を飲ませていたが、まるもんたが、車内で「出せー」とばかりに騒いだそうだ。
「吉太は静かでしたが、まるもんたが少しケージで暴れたんです。飛行機での輸送当日も、安定剤を飲ませて、祈るように送り出しました……」
コロナによる規制もあったため、空港には代行業者に来てもらって入国の手続きを済ませ、夫の待つシンガポールの家まで連れていってもらった。
まるもんたは、爪の先が折れて少し出血していたという。
「薬は飲んでいたけれど、ケージで騒いだようです。着いてから、夫に、日本人の先生がいる動物病院に連絡して聞いてもらうと、『痛そうにしたり、歩き方がおかしかったら連れてきて』といわれたそうです。普通に歩けたので、そのまま新居で夫に様子を見てもらうことにしました」
晴美さんは、毎日のように夫とラインのビデオ通話やスマホの無料通話で会話をし、2匹の様子を知らせてもらった。
「最初は2匹ともベッドの下に隠れたけど、だんだん慣れて、兄弟猫と夫と男同士の絆が生まれたみたい(笑)。日光浴ができる窓辺など、すぐお気に入りの場所も見つけたようです」
トイレの砂とフードは、猫たちが到着する前に慣れたものを3カ月分送っていたので、とくに問題は起きなかった。晴美さんの次の心配は、「私のこと覚えてくれているかな?」ということだった。
2017年にまるもんたと吉太を迎えてから、昨年8月まで4年間、晴美さんは猫たちと離れたことがなかった。合流するまでの会えない時間、とても長く感じたという。
果たして、猫たちは晴美さんを覚えていたのだろうか?
猫のキャラ逆転と、習慣の変化
「あの時はちょっとショックでした(笑)」
猫たちとの再会シーンを、晴美さんはよく覚えている。
「玄関のドアを開けたら、吉太がそばに来たのだけど『お前、誰?』みたいな感じで、“へっぴり腰”で私を見ました。まるもんたに至っては、寝室から出て来ようともせず、ちょこっと顔をのぞかせていた……さすがにシャーはなかったけど、どうしようかと思いました」
しかし、晴美さんが自分の手の匂いをかがせたり、スキンシップをしてみると、少しずつ思い出してくれたようだ。その日の夜にはすっかり打ち解けたという。日本で、絆がしっかり結ばれていたからだろう。
しばらく2匹を見ていた晴美さんは、新居での2匹の変化に気づいた。
兄的だったまるもんたと、弟のようだった吉太のキャラが、逆転していたのだ。
「日本では、まるもんたが率先して室内を探索したりして、吉太がその後をついて歩いてました。でもここでは、吉太の方がリーダーシップをとる感じで。もしかしたら、飛行機の中でまるもんたが暴れて傷ついたのを見て、『僕がまるもんたを守らなくては』と思ったのかもしれませんね。いずれにしても、移動は猫にとって大きなことだと実感しました」
シンガポールの気温は通年27~30℃。日本で暖房を入れる時期に、冷房を入れている。
そのため、晴美さんが楽しみにしていた“あること”がかなわなくなった。
「夜、猫たちと一緒に寝るのが楽しみでしたが、こちらにきたら冬の寒さがないから、布団に入ってこなくなったんです、ちょっとさみしい(笑)」
まるもんたは窓際に置いた猫用ベッドで、吉太は椅子に寝ているという。
晴美さんが来てから、2匹の“朝方の行動”にも、変化があったそうだ。
「私が来る前、朝4時、5時頃に夫を起こしたり、夫の頭の上で暴れて、スマホの充電コードの保護コードをかんだりしていたそうです。でも今はぴたっとやんだので、家族みんながそろって、安心したのかもしれませんね」
健康に気を付けて猫との暮らしを楽しみたい
猫たちはまだシンガポールの動物病院に行っていないが、5月には健康診断をして、狂犬病の予防注射も打つそうだ。
「日本の(狂犬病の)ワクチンが1年しか有効でないので、また打つ必要があるんです。健康に気を付けてあげたいですね」
晴美さんは現在、健康関係(腸内を整える菌活)の仕事をしている。ペット部門のカスタマー担当をリモートでしていて、自宅で働きながら、2匹を見守っている。
「シンガポールに来てから、2匹とも5キロ台を維持して体重の変動もそうないし、こちらで手に入るオセアニア系のフードなども試して、好きなものがいくつか見つかりました。とにかく今は落ち着いていて、一緒に来てよかったな、と思います」
猫たちは今年の7月で7歳。こちらでの生活は、2024年の夏まで続くそうだ。
「赴任を終える時は9歳。生活に慣れた頃、シニアに入るんですよね。また戻る時には長時間輸送が待っているわけですが……そこに備えるためにも、日々伸び伸び、心身健やかであってほしいですね。みんなでこのまま仲良く過ごしたいな」
夕刻を過ぎても窓から明るい陽が差す居間で、晴美さんが2匹を見て、優しくほほ笑んだ。
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