「こんにちは。にゃーにゃです。僕のお話が始まるよ。読んでね」(小林写函撮影)
「こんにちは。にゃーにゃです。僕のお話が始まるよ。読んでね」(小林写函撮影)

猫とポテトチップス 初代猫「ぽんた」がくれた人生のギフト

「猫とポテトチップスは似ている」と、ある人が言った。

 いったん袋を開けると、1枚、また1枚と手がのびて、止められなくなるのがポテトチップス。
一度でも飼い、ともに暮らす醍醐味を知ってしまうと、1匹、もう1匹と家に迎えたくなるのが猫。

 生き物とジャンクフードを一緒にすることに眉をひそめる人もいるだろう。でも私は、なるほど、と思った。

 私が人生ではじめて一緒に暮らした猫、ハチワレ柄の「ぽんた」を看取って1カ月が過ぎたときには、もう次の猫を迎えようと思っていたからだ。

(末尾に写真特集があります)

ご縁を待つ日々

 ぽんたは、自宅の近所で野良生活を送っていた成猫で、自分で保護をし、家に引き取った。

 猫はおろか動物全般が苦手で飼育の経験もなかったのに、どうしてそんなことができたのか、今でも信じられない。

 ぽんたは、保護して4カ月目に慢性腎臓病を発症し、2年8カ月の闘病ののちに旅立った。ぽんたと暮らした年月は3年にも満たないが、「猫=ポテトチップス論」を実感するには十分だった。

日向ぼっこする猫
「元野良のぽんただよ。日向ぼっこって幸せだよね」(小林写函撮)

 次の猫は「ご縁があれば」と最初は考えていた。

 例えば、道で出会った猫が家までついて来てしまったとか、知人の家に遊びに行ったら子猫が生まれていて、たまたま引き取り手を探していたとか、台風の日の夜、自宅マンションのベランダでびしょぬれで鳴く猫の姿を見つける、などだ。猫に興味がなかった私の前に現れたぽんたのときと同じような、「運命の出会い」を期待していた。

出会い求めて……

 だが、そうそう都合のよいめぐり会いがすぐに訪れるわけはない。出会いは待つものではなく、自分から探すべきなのではと思いはじめた。

 それで、いくつかの保護猫団体のウェブサイトを検索し、保護猫たちの写真をながめるようになった。ネットの写真に一目惚れをして保護猫を迎えたという知り合いもいたからだ。

 でも、子猫でも成猫でも、持病持ちでもかまわないと思っていた私にとってはどの猫も魅力的で、目移りして絞り込めない。

白猫
「鶴瓶に似てるって?よく言われるんですよ」(小林写函撮影)

 譲渡のための条件を読むと、脱走対策を万全にする必要があったり、トライアル中は団体に日々の様子を写真付きで報告する必要があるなど、迎える側にもそれなりの準備と心構えが必要だった。

 ちょうど仕事が立て込んでいたので、気になる猫がいたとしてもすぐに迎え入れるのは難しかった。それで、先の譲渡会の開催情報だけをとりあえずスケジュール帳にメモした。

意識は再び野良猫へ

 近所の野良猫たちを探して歩く「猫散歩」も再開した。ぽんたが亡くなった直後は、ほかの猫を見るのがつらく控えていた。

 私が住む町には野良猫が多く暮らしていた。特に去勢・避妊済みであることを示す耳の先に切り込みが入った猫を頻繁に見かけた。

 そういう猫たちは、人の姿を見てもすぐに警戒して逃げたりはしない。だが、こちらが1、2歩進んで距離を縮めようとするやいなや、散り散りに去っていく。

 そんな中に1匹だけ、ぽんたと同じように愛想のよい猫がいた。

 ぽんたの野良仲間、茶白猫の「にゃーにゃ」だった。

「にゃーにゃだよ。目つきは悪くても機嫌はいいんだ」(小林写函撮影)

 にゃーにゃは、私が勝手につけた名前だ。仲間といっても、ぽんたが生活圏としていたアパート前の砂利敷の駐車場にいつもいた猫というだけで、仲がよかったかどうかはわからない。ぽんたに威嚇され、逃げているにゃーにゃの姿を何度か見たこともあった。

 それでも、2匹はたいてい一定の距離を置きながら同じ空間を共有していた。お互いに認めた存在ではあったようだった。

 ぽんたとにゃーにゃにはほかにも共通点があった。近隣住民にかわいがられ、いつもご飯をもらっていたこと。はじめてこのエリアに現れたときには首輪をしており、去勢済みだったこと。逃げてきたのか、棄てられたのかはわからないが、かつては名前で呼ばれる猫だったことに間違いなかった。

出会いはもうそこに

 猫散歩の途中に砂利敷の駐車場にいくと、どこからともなくいつもにゃーにゃーが現れる。尻尾をピンと立てて近づいてきて、喉をゴロゴロならして足元にまとわりついた。

 栄養状態は良好らしく肉付きはよかった。でも毛はごわごわとばさついているし、お腹や足の白い毛の部分は薄汚れて灰色になっている。

 出会った頃のぽんたも、こんな様子だった。懐かしく思いながら、その後家猫になったぽんたの、すべすべとした毛の感触を思い出した。

「運命の出会い」は、すでに訪れていたのかもしれない。

 私は、にゃーにゃを家の猫にしようと決めた。

(次回は3月4日公開予定です)

【関連記事】sippo連載「猫はニャーとは鳴かない」が書籍に 人生を変えた猫「ぽんた」との日々

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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