タダ飯よりうまいものはない!? ネコもがんばった日はごはんがおいしくなるのか

ネコ研究最前線
1971年の論文には“Feline indolence(ネコの怠惰)”というタイトルがつけられていました

 だらだらと過ごした日の晩ご飯より、一生懸命働いたり思いっきり体を動かして遊んだ後の晩ご飯のほうがおいしいと感じる経験をしたことがありませんか? ヒトがただ餌を与えられるよりも、何かしらの対価払って入手した餌を得ることを好む傾向をコントラフリーローディング(逆たかり行動)といいます。

 今回は、このコントラフリーローディングについて調査した論文“ Domestic cats (Felis catus) prefer freely available food over food that requires effort”"を紹介します。

多くの動物にみられる労働の価値

 コントラフリーローディングはヒトだけでなく、チンパンジーやイヌ、マウス、キリンなどさまざまな種でみられます。ところが1971年に調査された動物の中で、ネコだけがコントラフリーローディングがみられない唯一の種といわれてきました。ただ、この時の調査ではたった6匹のネコが対象となっていたため、アメリカ・カリフォルニア大学の研究チームは新たに17匹のネコを対象に調査をおこないました。

 調査方法は、ネコ用のフードパズルを使います。フードパズルとは、ネコの狩猟本能を刺激するといわれている迷路のような形をした給餌(きゅうじ)器のこと。簡単にカリカリが食べられないフードパズルと同じサイズの簡単に食べられるお皿を用意し、どちらのカリカリを多く食べるかを調べました。

 また研究者たちは、活動的なネコのほうがフードパズルを好むのではないかと考え、首輪に活動計を装着し、ビデオ撮影をおこないました。調査は3~4日間、1日2~4回おこなわれました。

ネコ研究最前線
フードパズル(左)と同じサイズのお皿(右)を並べた実験風景

タダ飯よりうまいものはない!?

 結果は、フードパズルよりも簡単に食べられるお皿の餌を多く食べました。8匹のネコはフードパズルに触れることもありませんでした。また活動量との関連もみられませんでした。たった6匹で調査した1971年の結果と同じだったのです。

 動物は元来、そのまま食べられる餌があるならばわざわざ対価を払って獲物を狩ることはしないはずです。しかし、飼育下の動物は狩猟ができないため、退屈をまぎらわすためにコントラフリーローディングがみられるともいわれます。

 ではなぜ、ネコにはみられないのか。人間が考えたフードパズルではネコの退屈が満たされないのか、はたまた労働を毛嫌いしているのか。日々労働に駆り出されている身としては、怠惰といわれようが自らの欲望を優先するネコがうらやましい限りです。

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今回ご紹介した論文
“Domestic cats (Felis catus) prefer freely available food over food that requires effort”

イラスト:長崎訓子(ながさき・くにこ)

服部 円
編集者・研究者。武蔵野美術大学卒業後、ファッション誌の編集者を経てフリーランスに。 2011年にWEBメディア「ilove.cat」を立ち上げる。2021年、麻布大学で修士号(動物応用科学)を取得。現在は京都大学野生動物研究センターの博士後期課程に在籍し、ネコとヒトとの関係について研究を行っている。Instagram @madokahattori

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この連載について
ネコ研究最前線
京都大学野生動物研究センターに在籍中の著者が、ネコにまつわる最新の論文を紹介しながら、ネコ研究の面白さを伝えていきます。
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