猫が飼い主を急に激しく攻撃してくる 原因はいろいろ、まずは動物病院へ相談を

 猫と幸せに暮らすヒントや困りごとの解決法を、獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が教えてくれます。今回も、入交先生が読者から寄せられた質問に答えていきます。

ただ座っていた飼い主を猫が攻撃してきた

 sippoの読者で、ちょっと難しい問題に直面していらっしゃる方からご質問をいただきましたので、今回はそのご質問に関しての回答になります。ブリティッシュショートヘアの女の子のご相談です。

 Q1:ブリティッシュショートヘア、メス6歳の子です。猫の転嫁行動についてお聞きしたいです。

 夜いきなり部屋を走りだしと思ったら、マットに爪が引っかかったのかシャーと威嚇した後、座っていた飼い主を攻撃してきました。ただ座っていただけで何もしていなかったので、驚きました。足元を攻撃されながら何とか部屋からすぐ出たので、落ち着いたのか朝になると元に戻っていました。

 しかしこうなったのは、初めてではありません。4年ぐらい前に、しっぽに粘着テープがくっつきパニックを起こしてから、時々攻撃するようになりました。2年ぐらいは何もなかったのですが、今年の6月に2回攻撃され、その後は月2回ぐらい攻撃してきます。

 窓の外を見ていて何かがいたのか、近くに敷いていたひざ掛けに攻撃したり、長座布団にも威嚇したりしていました。トイレ掃除をしたときにも攻撃されたときがあったので、扉を閉めて見えないようにしています。

 1日数分しか会ってないので猫も寂しそうに鳴いていますが、落ち着くまでは少しずつ時間を延ばしていった方が良いかと思っています。どうすればストレスなく安心して幸せに暮らしてくれるかアドバイスをお願いします。(ハイジさんからの質問)

 A1:猫さんが急に激しく攻撃してしまうこと、実はたまにご相談として病院でもいただきます。猫を診察に連れてこられない方も多く、最初はインターネットでお話を伺います。猫さんがいつ襲ってくるかわからないために、お家に入れなくなっている方もいらっしゃるので、本当に今お心を痛めていらっしゃるのではないかと思います。

 今回お書きいただいた短い文章から「診断」ができないので、確実なことがお伝え出来ませんことをご承知いただいたうえで、解決への道筋のヒントにしていただけたらうれしいです。

猫
猫が激しく飼い主を攻撃してくるとき、まずは動物病院へ相談を

 まず、激しく猫が攻撃してしまう場合、原因は色々あると考えられます。内分泌疾患と言って、甲状腺の病気や副腎皮質の病気から脳の機能障害を起こす場合があります。また、脳梗塞(こうそく)、てんかん、神経の病気、疼痛(とうつう)など、気持ちがいらいらしたり、急に行動が変化する病気があります。

 血液検査、尿検査、歩き方、触ったときの反応などから、いろいろな病気の可能性を鑑別して、もし病気があった場合は治療をすることで攻撃性が落ち着きますし、猫さん自身も楽になるので、まずは動物病院にご相談いただきたいと思います。

 何らかの病気が見つかって治療をした、あるいは病気はなかった場合、それでも攻撃行動が続く場合もあります。そうなった場合に次に考えるのが、人でいう精神科の領域の治療になります。

 このような場合、診断と治療として獣医学の分野では「猫の精神」に関して、猫のその時の感情や気持ちは猫から直接お話を聞かせてもらえないので、症状を見て、攻撃行動の起こった状況のお話を詳しく聞いて、診断をしていくしかないのです。突発的に攻撃しているのは脳の問題があると考えて、ベストな治療法を選んでいくことはできると思います。

 今回のご相談者の場合は、昔から攻撃性が出ていたので、体の病気ではなく、原因は最初の粘着テープ事件がきっかけになっていると考えられ、また過剰に反応しているのは先天的な問題かとは思うのですが、この猫さんは人でいうPTSD(心的外傷性ストレス症候群)のような病気の可能性があるかなと思います。

 なんらかの大きなショックを受けた後、先天的にそのショッキングな事件で脳内の感情をコントロールするセロトニンというホルモンの枯渇が起こったり、あるいは脳の海馬などの萎縮も起こっているかもしれません。ちょっとしたきっかけで恐怖の状態が戻って、激しく攻撃してしまっているのかもしれません。

 現在PTSD的な問題に対しては、選択的セロトニン再取り込み阻害剤の中でも、いくつかの種類を使っています。この問題の治療には、専門的な知識も必要と思うので、お近くの獣医師より、獣医行動学の専門の先生を紹介していただいて相談いただくとよいかと思います。

 行動修正(人でいう認知行動療法みたいなもの)は、カウンセリングを行って状況を見ながら具体的になにをするか相談することになりますが、今の診断ができていない状況の段階では安全対策として、猫さんを見ていられないとき(例えば料理をしている、掃除をしている、テレビをみているなど)、急に襲われる可能性があるので、隔離しておく方が安全です。

 猫さんが安心していられる部屋を作っていただき、暇にならないように一人遊びできるおもちゃと一緒に入れておくか、ケージに入れておいて遊ぶときはケージ越しに遊んでもいいと思います。

 激しく攻撃する猫も、薬物療法と行動修正で治療ができていますので、ぜひ動物病院にご相談ください。

【前の回】猫と遊んであげられない時 猫が一人遊びできる手作りの「知育玩具」を与えよう

入交 眞巳
獣医師。東京農工大学 特任准教授。どうぶつの総合病院・行動診療科主任。旧日本獣医畜産大学卒業後、米国パデュー大学で学位取得、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。

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この連載について
ねことの暮らし相談室
 獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が、どうやって猫と幸せに暮らすかのヒントとともに、猫たちの困った行動への疑問に答えていきます。
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