行き場のないシニア犬や障害がある犬たち 安心して暮らせるよう保護団体が支援募る

障害がある犬
繁殖場レスキューの「レア」。目がひとつ落ちてしまい、乳腺腫瘍(しゅよう)もたくさんあります。心臓が悪く手術が難しいため、継続的な緩和ケアが必要です。普段はご飯大好きの元気な子です(ケンの家提供)

 横浜市青葉区と緑区で飼い主のいないシニア犬、障害犬を中心に保護活動をしているのが、一般社団法人ケンの家です。保護犬を迎える人が増える一方で、シニア犬や障害を持っている犬となると、なかなか引き取り手が見つからないのが現状です。

(末尾に写真特集があります)

 ケンの家・代表の浅川晶枝さんは次のように語ります。

「シニア犬といってもまだまだ体力があって元気だったり、障害があっても若い犬もいます。そういう犬たちは新しい家族に引き取ってもらえるように、ケンの家でできるだけ体調を整えて、引き取り手を探します。一方で、どうしても譲渡先を見つけるのが難しそうな犬たちは、私たちが責任を持って幸せな最期を迎えられるように全力でケアをしています」

保健所で殺処分される犬たちとの出会い

 浅川さんがお金も手もかかるシニア犬たちの保護に乗り出したのは、約30年前、偶然、保健所でみた保護犬たちの姿がきっかけでした。

「当時は今と違って、保健所に保護されている動物を引き出せるのは飼い主だけ。今のように保護団体が引き取って譲渡先を探すシステムもなく、一度保健所に収容されると、飼い主が翻意して迎えに来ない限り、1週間後には殺処分されてしまう運命でした。そんな飼い主に捨てられた犬たちが、コンクリートの部屋で身を寄せるようにしておびえながら、暗い目でこちらを見つめる姿が忘れられませんでした」

 人間の身勝手さで悲しい運命をたどる犬たち。その姿を思い浮かべると、夜も眠れなかったと言います。当時はアパート暮らしでペットを飼うことができなかった浅川さんですが、このときの光景が忘れられず、のちに動物保護団体でボランティア活動をスタートします。

シニア犬たちのやさしいまなざしがいとおしい

 その頃には一軒家を購入し、ペットを飼える環境が整っていた浅川さん。保護団体から一時的に犬を預かったり、保護活動を手伝うボランティア活動を始めます。そんな中、いつも気にかかっていたのが、なかなか譲渡先が見つからないシニア犬や障害犬たちの存在です。

「保護団体では、どうしても譲渡先が見つかりやすい若い犬を優先して引き出すことになります。引き取り手が見つかりにくいシニア犬は後回しになってしまい、結局、殺処分されてしまう。歳をとった犬たちは本当に穏やかで、やさしさがあふれていて、たまらなくいとおしい。それなのに誰からも救ってもらえない状況をどうにかしてあげられないか、と強く考えるようになりました」

障害があるシニア犬
過酷な個人繁殖場からレスキューされた「ポエ」。左は保護された直後の様子。足を3本しか動かせません。推定14歳と高齢もあり不調が続いています。継続した治療が必要です(ケンの家提供)

 そんな思いもあって、あるときシニア犬を譲渡しようと引き取りますが、その子は3カ月で亡くなってしまいます。

「その子を譲ってくれた保護団体に、また同じようなシニア犬がいたら引き取りたいので連絡してくださいと伝えたところ、団体の方から “あなた、自分でシニア犬の保護活動をやるべきよ”と言われたんです。その一言に背中を押されるように、2001年に自宅を使って妹の倉本恵美さんと一緒にシニア犬を中心とする保護活動を始めました」

治療が必要な犬
沖縄の保健所から来た「クゥ」。目の状態と肝臓の数値が悪いのでしばらく治療が必要です。とても怖がりですが、人は大好き。少しずつ甘えてくれる姿がとても可愛いです(ケンの家提供)

2軒の自宅を犬たちのシェルターに

 当初はシニア犬を1匹引き取って世話をして看取ったら、次の1匹を引き取るというペースでスタート。犬の世話が優先できるように、時間の融通がきく仕事をしながら、子育て、仕事、保護活動を両立する日々が続きます。

 シニア犬中心の保護団体は少ないこともあり、徐々に保護する犬の数も増えスペースも限界に。そこで、当時住んでいた自宅は第二シェルターとし、8年前には新たに住居兼シェルターとなる場所へ引っ越します。以降は、自宅1階のシェルタースペースで25匹、第二シェルターで8匹、数の変動はありますが合計30匹前後の犬の保護を続けてきました。

横になる犬
保護した犬の中には、ケアが必要な子も(ケンの家提供)

「私たちが保護する犬たちは、寝たきりで自分で食事を取れない子も多くいます。障害のある子や病気で様態が深刻な子は、かたときも目を離せません。犬の世話が最優先の日々で、家族旅行にもいけませんでしたが、家族も積極的に協力してくれて、本当に感謝しています」

 最期の時期が近づいた犬がいるときは、寝ずの看病をすることも多くなります。ふと、うたた寝してしまうとその間に息をひきとってしまうかもしれない、と気が抜けずに、何日も徹夜する日もあります。そんなハードな日々も、幸せで穏やかな気持ちで、命を全うさせてあげたいという一心で乗り越えてきました。

最期まで安心して過ごせるシェルターを

 保護犬たちの治療費は平均すると月30万。心臓病や水頭症の子の手術では100万円単位とさらに高額な費用がかかります。運営資金のほとんどは、治療費や日常の世話に消えてしまい、気がつくとケンの家を立ち上げてから20年使い続けている元自宅のシェルターの傷みは相当ひどい状態です。そこで、浅川さんたちはシェルターの改修費用をクラウドファンディングで募ることにしました。

施設内部の傷んだ様子
施設の傷みは激しく、床、壁、階段の柱などがボロボロになってしまった(ケンの家提供)

「私たちが保護している犬たちは、自力で排泄(はいせつ)ができない子も多かったため、アンモニアにやられた床は木がくさって危険な状態になっています。これまでは自分たちでなんとか手を入れてきましたが、犬たちの安全のためにも根本的な改修が必要です。壁も含めた改修費用として250万円を、そして毎月かかる犬たちの医療費も含め総額350万円の資金を、今回実施しているクラウドファンディングで集める予定です」

海辺の犬と女性
行き場のないシニア犬や障害犬も、あたたかい気持ちで最期の時を迎えてほしい(ケンの家提供)

 人も犬もいつかは年老いて、命を終えるもの。人間の身勝手で行き場を失ったシニア犬や障害を持つ犬たちに、あたたかい気持ちで最期のときを迎えてもらいたい。

「多くの人が、そんな犬たちに寄り添ってくださることを願っています」
(工藤千秋)

クラウドファンディングはこちらから。支援募集は、9月30日午後11時59分まで。

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