立ち入り禁止区域に取り残された猫 いのちのリレーで生き延び、生き直した10年

キジトラ猫「JJ」
被災地で保護され、都心のマンション猫になったJJ

 東日本大震災が起きた10年前。ペット同行避難の受け入れ態勢はなく、取り残された小さないのちがたくさん消えた。だが、各地から駆けつけた人々の懸命なリレーで救われたいのちもある。JJくんも、その1匹だ。

(末尾に写真特集があります)

生き直して、10年

「JJ」くんは、推定年齢11~13歳のキジトラのオス猫である。都心のマンションで、何不自由なく愛されて暮らしている。

 ジェフお父さんも、明子お母さんも、えまちゃんも、みんな優しくて大事にしてくれる。他の2匹とも仲良くやっている。3匹とも、ひもじさと心細さを抱えてさまよっていた者同士なのだ。

 14歳のメス猫ルルは、多摩川河川敷のホームレスの男性に保護された子猫だった。8ヶ月のオス猫ピノは、保健所から引き出された子猫で、JJがいたシェルターからやってきて半年がたつ。 

 JJは、東日本大震災後、福島第一原発半径3km圏内のため立ち入り禁止区域となった大熊町で、その年の12月に救い出された。ボランティアが入らなかったら、その冬は越せなかっただろう。生き延びて、生き直したいのちである。

白黒猫「ルル」に毛づくろいしてもらうキジトラ猫「JJ」
ルルに毛づくろいしてもらうJJ(写真提供・明子さん)

助けに行かなければ!

 10年前の3月。埼玉県所沢市で、個人で地域の保護猫活動を続けていた塩沢美幸さんは、東日本大震災の被災状況を知り、「行かねば」という思いが胸を突き上げた。

「人がいなくなった町で、それまで人に寄りそって生きていた犬や猫たちは、いったいどうやって生き抜いていけばいいのか。いてもたってもいられませんでした」

 4月、車にフードや捕獲器などを詰め込んで現地に駆けつけると、同じ思いの人が集まっていた。以来、毎週のように被災地に行った。手分けしてフードを置いて回り、捕獲器に入っていた猫は連れ帰った。

女性に甘える猫たち
塩沢さんに甘えるシェルターの猫たち

 ある時、放射線量の高い地区での、飼い猫のレスキュー依頼があった。窓を少しだけ開けて置き去りにしてきた飼い主のつらさはどれほどだったろう。猫の姿はなく、フードと捕獲器を置いてきた。3時間後に行くと、捕獲器には、痩せたキジトラと黒猫が入っていて、9ヶ月ぶりに見る人間を恐れて威嚇した。

「悲しいことに、その家の飼い猫はキッチンで亡くなっていました。捕獲器の猫たちに、車中でガイガーカウンター(放射線測定器)を近づけると、ピーピー音が鳴り続けました」

 高線量の放射線を浴びながら生き延び、捕獲器に入った、そのときの猫の1匹が、JJである。どこかの飼い猫だったかどうかはわからない。

新しい家族になる約束

 こうして、連れ帰った犬や猫がどんどん増えたため、塩沢さんは「またたび家」というシェルターを川越市に作り、仲間たちとシフトを組んで世話を始めた。通っていた地区に犬猫の姿が見当たらなくなった8年目で、被災地通いをいったん終了。いまは、事故傷害を負った猫や行き倒れ猫、捨て猫などの保護・譲渡に日々奔走する。

ケージに貼られたたくさんの保護猫の名札
保護中の猫の名札がいっぱい

 まだえまちゃんが生まれる前、塩沢さん宅にルルちゃんの相棒を見つけに来たジェフさん・明子さんと交わした会話を、塩沢さんはよく覚えている。ジェフさんは、こう言っていた。「私の故郷のカナダでは、シェルターから猫を迎えるのが普通です。日本に来て、ガラスケースの中に幼い命を商品として並べてあることにびっくりした」。

 そして、夫妻は、被災地からやってきたJJくんを迎えてくれたのだった。「もし、以前の飼い主さんが現れて、その方が猫を飼える状況にあるときは、原則としてお返しすることになります」という、被災地の猫ならではの約束に、こころよく了解をして。

 大熊町から連れ帰った猫は数知れないが、今、シェルターに在籍している猫は4匹のみとなった。

 だが、被災地で、可愛がっていた犬や猫を置き去りにするしかなかった人たちが流した涙の量も、訳もわからず置き去りにされた動物たちが味わったつらさも、塩沢さんの胸に降り積もったままだ。

 大災害のたびにこんな思いを繰り返すわけにはいかない。またたび家では、新しい飼い主に必ず、ペットを守る防災リーフレットを手渡し、よく読んで実践してもらうことも、約束してもらっている。

猫を抱く家族
一家に愛されて、平穏な毎日

「どんなことがあっても一緒だよ」

 ジェフさん・明子さん夫妻の住まいは、すぐ近くに大きな公園もあるが、耐震性に優れ、浸水の心配もないこのマンションが、なにより一番安心だ。

 その上で、猫たちのために気をつけていることがいくつもある。3匹にはマイクロチップが入れてある。水やフードの多めの備蓄は絶やさない。トイレの砂、おしっこシート、3匹分のキャリーバッグ、縦長ケージを用意。猫のふだんの飲み水は給水式で、ふろ場の桶には毎日きれいな水をたたえている。

 明子さんはえまちゃんに「大きな地震があっても驚いて窓を開けて猫を逃がしたりしないでね。家が一番安全なのだから」と言い聞かせている。また、万が一帰宅できない場合、近くの友人やキャットシッターなどに、猫たちの様子を見に行くよう頼んである。

 明子さんは言う。「JJはとくに被災体験のトラウマがあるようには感じませんが、河川敷で保護されたルルはとても臆病なので、捨てられた時のトラウマがあるのかもしれません。やはり災害時に不幸な猫を生み出さないためにも、外で暮らす猫をなくしていくことが大事ではないでしょうか」

キジトラ猫を抱く女の子
幼い頃のえまちゃんと(写真提供・明子さん)

 JJたちに、家族から愛のメッセージを注いでもらった。「JJたちのおかげで毎日楽しいよ。万が一何があっても守るからね」と、ジェフさん。

「我が家に来てくれてありがとう。どんなことがあっても大丈夫! 安心して」と、明子さん。

 えまちゃんは、瞳をキラキラさせて、傍らのJJにこうささやいた。

「いつもいっぱい遊んでくれてありがとう。みんな大好き。どんなことがあっても一緒だよ」

取材協力:またたび家 http://matatabike.web.fc2.com

(文・写真 佐竹茉莉子)

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