問題行動を抱えた犬が幸せになる道を探して 保護活動を続ける北村紋義さんに聞く
新たな飼い主さんのもとで幸せになる保護犬が増えつつあります。しかし小型犬や純血種を希望者する人が中心で、大型犬や野犬の保護犬を迎える人は多くはありません。かむ、ほえるなどの問題行動を起こした犬はなおさらです。
今回お話をうかがう北村紋義さん(ポチパパ)は、譲渡の対象になりにくいこれらの大型犬、野犬、問題行動犬が幸せになる道を探り、保護活動を行っています。著書の『どんな咬み犬でもしあわせになれる 愛と涙の“ワル犬”再生物語』に収録されていない保護犬たちのエピソードも含めてお話をうかがいました。
47歳のときに迎えた最初の愛犬
僕が保護活動を始めたきっかけは、10年ほど前に最初の愛犬のポチを保健所から引き取ったことです。保護活動をしていると子どものころから犬好きだと思われるけど、ポチを迎えたのは47歳のときなんですよ。しつけも何も知らない初心者でした。
ポチとうまく暮らしているのを見た保健所から、「収容されている秋田犬も飼わないか」と相談されて、いきなり多頭飼いも始めてしまいました(笑)。犬と暮らすうちに動物保護活動のことを知って、もっと犬を助けたいと思うようになったのです。
保健所に収容される犬は、ほえたりかんだりする問題を抱えていることも少なくありません。そういう人に危害を加えそうな犬は、保健所が譲渡対象外にしたり保護団体も引き出しを避けたりします。僕は犬にかまれても不思議と怖くないし犬を制御する力もあったので、あえて問題行動犬や大型犬を中心に保護活動を始めることにしました。
向き合ってきた犬たちのこと
僕が秋田犬を好きなせいか、引き取りの依頼も一番多いですね。あとはアメリカン・ピット・ブル・テリアや土佐犬、最近は野犬も多い。飼い主さんからの相談は8割が柴犬ですね。これらの犬種は扱い方に注意が必要だけど、飼い主さんが犬種の特性を理解して世話をすれば問題なく暮らせるケースが大半。
逆に言えば無責任な飼い方が原因で、人気の小型犬でさえ問題が起きることも少なくありません。僕は飼い主さんが手に負い得なくなったフレンチ・ブルドッグやトイ・プードルを引き取ったこともあります。僕が向き合ってきた犬たちのことを伝えたいと思います。
(1) 飼育放棄されたフレンチ・ブルドッグの小次郎
フレンチ・ブルドッグの小次郎は、一人暮らしの女性が衝動飼いした犬です。小さいころはかわいがっていましたが、成長してからはクレートに閉じ込めっぱなし。家族が注意しても改善されないまま3年がすぎ、見かねた家族が飼うつもりで引き取りました。しかし興奮して突進したりとびついてかみついたりするので怖くなってしまい、僕が相談を受けました。
フレンチブル・ドッグは瞬間湯沸かし器のように急に興奮してかむことがあります。家族には愛嬌(あいきょう)たっぷりのかわいい愛犬が周囲にも同じとは限りません。小次郎の興奮や攻撃はネグレクトによるストレスだったようで、僕が引き取ってから半年後に新たな飼い主さんを募集できるようになりました。闘犬種を扱える飼い主さんを条件にしていたので1年以上かかりましたが、今は幸せに暮らしています。
(2) 保健所へ3回持ち込まれたボーダー・コリーのボー
ボーダー・コリーのボーはかみつきが原因で、3歳のときに飼い主によって保健所へ持ち込まれました。このときは職員が紹介した訓練所に預けたのですが、3年経っても改善しないどころか悪化して飼い主に返され、再び保健所へ持ち込まれることに。職員が引き取りを拒否したので飼い主が庭で飼い続けましたが、12歳のときにまたもや保健所へ。職員が3回目なのでやむを得ないと判断して収容されましたが、僕が引き取ることにしました。
ボーター・コリーは動体視力や反射神経が優れているので、攻撃性が芽生えたら必ずと言っていいほどかまれてしまいます。ボーは改善の兆しが見えるころには介護が必要な状態になってしまい、散歩の歩行補助のたびにかまれて大変な思いをしました。14歳で亡くなりましたが、ボーの一生は何だったのだろうと考えざるを得ません。
(3) 2年間庭に放置されていたトイ・プードルのプー助
トイ・プードルのプー助は夫婦にかわいがられていましたが、子どもが生まれてから外へ出されてしまいました。コンクリートの敷地の真ん中に置いたケージの中で、2年間もネグレクトされていたのです。ごはんをあげるときに夫がかまれ、怒って保健所に連れて行こうとしていたのを、近所の人が引き取りました。飼うつもりだった近所の人もかまれてしまい、結局僕が預かって問題行動を改善することにしました。
小型犬は口が小さいのでかまれても大したことはありません。プー助は僕を2回かもうとしたけど、自分の主張が通らないことを理解してすぐにかまなくなりました。トイ・プードルは賢いので、甘やかすとずる賢い部分が出てきてしまうことも。大型犬と思って接するくらいがちょうどいいと思います。
(4) きょうだいが亡くなるのを見ていたピット・ブルの七味
アメリカン・ピット・ブル・テリアの七味は、繁殖業者によって2年間つながれっぱなし。同じように係留されていたきょうだいは、衰弱して亡くなってしまいました。動物保護団体が交渉して七味を救えたけど、きょうだいは間に合いませんでした。
保護犬には過去を断ち切って幸せになってほしいといつも思っていますが、七味には軽々しく言えないような気持ちでした。でも新たな飼い主さんが愛情を注いでくれたおかげで幸せをつかみました!
ピット・ブルはパワフルで破壊の名人。七味はクレートの扉をそのまま内側に引きずり込んだりリードを細切れにしたりと、壊し方が特別に上手です(笑)。破壊行動が問題と言えば問題ですが、それを笑って許せる人がピット・ブルの飼い主さんに向いています。
(5) 家族が亡くなって引き取られた紀州犬の北斗
紀州犬の北斗は80代の夫婦が飼っていましたが、8歳のときに散歩を担当していた夫が亡くなりました。妻が世話を続けたものの、散歩のときに引っ張られて肋骨(ろっこつ)を骨折。次にあごを骨折。それで僕が引き取って今は施設で暮らしています。
北斗は散歩のときに興奮して急にジャンプして突っ走るのが問題。攻撃性はほぼないけど、弱虫なのにちょっかいを出すのが好きで、犬に嫌われやすいタイプ。小柄でフレンドリーだから、紀州犬好きな方には好かれないかもしれません。携帯電話会社のマスコットの「お父さん犬」に似ていますよ。
「同じ動物」という視点で
「どうすれば犬に好かれますか?」と聞かれるけど、実は僕自身よくわからないんですよ。強いて言えば犬でも人でもなく、同じ動物として暮らすことでしょうか。保護犬の引き取りを始めたころはアパートで暮らしていたので、大型犬たちに囲まれて寝袋で寝ていました(笑)。
不思議なことに共に生きる仲間みたいな生活をしていると、言葉が通じなくてもボディーランゲージで会話ができるような気がします。意思の疎通ができれば問題行動も改善していくのです。YouTubeで伝えている僕と保護犬たちの暮らしぶりも見てみてください。犬とより良い関係を結びたいなら、人と犬という線引きをやめて「同じ動物」という視点をもつことが第一歩だと思います。
ただし犬が人間社会で生きる以上、飼い主さんが責任をもって世話をすることが大切でしょう。愛犬と暮らしに悩んでいる方や動物保護活動に興味をもっている方には、ぜひ本書を参考にしてほしいですね。
- 北村紋義(きたむら・あやのり)/ポチパパ
- 問題行動犬専門家(ドッグメンタリスト)。大阪府富田林市で問題行動犬や大型犬をレスキューするシェルター「保護犬達の楽園」を運営。「ポチパパ」は最初に迎えた愛犬にちなんだ名前。一般社団法人Animal Rescue Nursing代表。YouTubeで「ポチパパ ちゃんねる【保護犬達の楽園】」を開設し、保護した犬たちの暮らしぶりやしつけのアドバイスを配信している。
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