水路から救助された甘えん坊の子猫 にぎやかな家族に迎えられ、おてんばぶりを発揮

黒猫
すっかり家になじんだえみちゃん(娘の樹利さん提供)

 昨年7月。運送会社で働く女性が、職場のドライバーから「猫を飼わないか?」と声をかけられた。ドライバーは配達先で、“水路で保護された子猫”を見せてもらったのだという。女性はちょうど「猫が欲しい」と思っていたところだった……。水路に落ちた子猫を救った「命のリレー」、後編の今回は、子猫と家族の出会いをお届けします。

(末尾に写真特集があります)

写真を見て即決

「その時のことはよく覚えています。職場の仲間から、急に『猫を飼わない?』と言われて。思いがけなく、でもすごくうれしかったです」

 東京都大田区に住む利恵さん(48歳)が、にこやかに話す。利恵さんは、夫と、両親と、中学生の娘と5人家族。昨年7月半ば、家族に黒猫が加わった。その出会いは、「待ち焦がれていた」ものだったという。

 利恵さんは、一昨年末、19歳の愛猫「あみ」を亡くしていた。2年ほど腎臓を患っていたが、12月30日、往診で来ていた獣医師と家族みんながそろっているところで、静かに旅立った。大みそかに荼毘に付し、家族にとってはさみしい年明けとなった。

「とくに、猫の面倒をずっと見ていた私の母ががっくりしてしまって、母のためにも猫を迎えたいと思ったんです。うちにはその前にも20年ほど生きた『みみ』という猫がいたし、猫のいない生活が考えられず……。でもコロナが広まってしまい、譲渡会も限られていました」

 見合いをしかけたこともあったが、話がまとまらなかった。しかし良縁はこの後に訪れた。

職場仲間の田村さんから利恵さんに送られた動画

「私に話をくれた職場の田村さんは、動物が大好きな人。うちが前の猫を亡くしたことを人づてに聞いていたのかな……。田村さんから猫の動画や写真を送ってもらい、母にも見てもらいました。母と共に、可愛いね、とほぼ即決でした」

笑顔になるよう「えみ」ちゃんに

 子猫は、職場で受け取った。田村さんが先の取引先でピックアップして、利恵さんの家の準備が整うまで一晩面倒を見た後で、届けてくれたのだ。

「その日は、急な病で病院に入っていた母の退院日で、子猫の引き取りとうれしいことが重なりました。私が迎えにいった車中でカリカリをあげたら、すぐに食べてくれてうれしかったです。最初に保護をしてくださった方から目薬もいただきました」

眠る黒猫の子猫
来て2日目、座椅子ですやすや(利恵さん提供)

 水路で発見されてから6日目、子猫は、利恵さんの家の“3代目”の正式な猫=家族となった。

「先生に診てもらうと、生後2カ月くらいで、背骨が1本足りないけど特に問題はないだろうということでした。初めは少し警戒してテレビの裏などに隠れましたが、その日のうちにトイレも覚えて、おりこうでしたよ」

 名前は「えみ」になった。

「うちは、みみ、あみ、と先代の名にみの字がつくし、母が入院したり、世の中もコロナでいろいろあるけれど、“みんな笑顔になるように”と言って、娘が付けました」

おてんばぶりを発揮

 えみちゃんは、毛足が長く、シッポがたぬきみたいにふさふさ。肉球にも毛が生えていて、その部分で水をすくって飲んでそのままぬれた脚で歩くので、部屋がところどころぬれるという。なかなかユニークなキャラのようだ。

 トイレのお世話は利恵さん、食事の係は母の和子さん(79歳)がしているという。

 和子さんにも、えみちゃんについて聞いた。すると張りのある声で「それはもう可愛いですよ」という答えが戻った。

「ごはんは私の手から食べて、腕でもみもみしたりして甘えん坊です。臆病なところもあって、ちょっと音がすると戻ってくるけど、好奇心が旺盛で、いろんなところに行きたがる。前の2匹はしなかった遊びをします。かなりおてんばさんですね(笑)」

 障子をぼろぼろにしたり、カーテンの上に乗ったり、長いハタキをくわえて持ってきたりすることもあるのだとか。

「成長するにつれて、馬のように走るようになって、走る音もダダダと大きいんです(笑)」

 えみちゃんはふだんは2階で過ごし、昼間は居間を中心にフリー、寝る時は、あんかを入れて暖かくしたケージの中で寝かせているという。

焼きもち問題が発生

 家族にとって、猫はとにかく大きな存在。思い出も多いと利恵さんがいう。

「最初の猫のみみはシャムで、元々お隣さんの飼い猫でした。40年ほど前の話ですが、昔は猫が出入り自由で、隣からうちに入ってきてよく泊まるようになって。するとお隣さんが『お宅にいる方が幸せなようだから、飼ってくださいませんか』と譲ってくださった。シャムは強くて、私の父が夜遅く帰ってくると、不審者か?と向かっていくことがありましたね」

 次に飼ったあみは、みみが20歳で旅立った後、知人の家で生まれたロシアンブルーとアメショーのミックスの子猫をもらったのだという。あみは完全室内飼いで育てたが、ちょっとしたアクシデントが起きた。

日なたぼっこする猫
19歳まで生きた先代のあみちゃん(利恵さん提供)

「あみが4歳の頃に娘の樹利が生まれたのですが、あみが急にごはんを食べなくなって。動物病院に連れていくと、母の意識が樹利の方に向いてしまっているからストレスだろうと言われました。あみ自身、樹利のことを自分より弱いものと認識していたようで、まったく手も出さず……それもストレスだったのかもしれません」

 あみちゃんに気を配ることで食欲は戻ったが、今回、3代目のえみちゃんが来て、家ではまた焼きもち問題がおこったのだという。

 今度の焼きもちは、人と猫の立場が“逆”だった。

「家族みんなで、赤ちゃん猫のえみを可愛い可愛いと意識を向けていたら、今度は娘の樹利が焼きもちをやいて(笑)。でも今はだいぶ打ち解けて、コタツに一緒に入って樹利の足を枕に寝たりして、仲良くなってきましたよ」

抱っこされる黒猫
母、和子さんに抱かれるえみちゃん(利恵さん提供)

 利恵さんは今回、えみちゃんが保護された詳しい経緯を聞き、改めて思うことがあったという。

「水路というのは、道路の脇の溝のような感じだと思っていたので、救出時の写真を後から見て驚きました。見つけてくれたわんちゃんをはじめ、救出して下さった皆さんに感謝です。えみの生命力もあったかもしれないけど、救われた命を大事にしてあげたいですね……。少しくらい悪さをしても甘やかしちゃおうかしら(笑)」

 えみちゃん(元いとちゃん)が元気にしていることを、昨年7月に救出した狛江市環境部下水課の伊藤さんに知らせると、こんな答えが戻った。

「当時は衰弱していた猫を早く助けなければという思いでした。今も他の場所で飼い主からの愛情を受けて元気に暮らしているということで、ホッとしました」

 “助かってほしい”。そのバトン=願いが人から人へと渡り、えみちゃんは幸せをつかんだ。

 にぎやかな家族の中で、すくすくと成長中だ。

【前編】水路に子猫が落ちている! 散歩中の犬が発見し「命のリレー」で新しい飼い主の元へ

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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